常見陽平のはたらく道2026.06

相談できる相手はいるか

2026/06/15
生成AIが日常生活に浸透する中で、人生の相談相手として使われることが増えている。その功罪を考える。

大塚製薬のバランス栄養食カロリーメイトのCMには、部活動、受験など高校生の青春を描いたものが多い。育ち盛りで、おなかがすく高校生に食べてもらいたいのだろう。この春の新作CMは大学受験を巡る親子のドラマだった。スマホを使い、生成AIに受験のアドバイスをもらう男子高校生と、子どもとうまくコミュニケーションできない父親が登場する。父親もやはり、生成AIに息子にどう接するかアドバイスをもらう。ただ、うまくいかない。父親は生成AI、スマホに頼らず受験当日の朝に、カロリーメイトにイラストと応援メッセージを書き、渡す。息子は笑顔になる。感動的なCMだった。

ここでの注目ポイントは相談相手だ。人間の相談相手がおらず、生成AIに相談している人が増えているといわれている。奇妙な光景に思える人もいることだろう。ただ、相談せずに抱え込むよりはましだ。あらゆる分野の相談に応じてくれるのもポイントだ。相談しても答えてくれないのではないかと心配する必要もない。

人間よりも、広義の機械の方が相談しやすいという人もいることだろう。そういえば、25年前、会社員として社内ポータルサイトにかかわっていたときのことを思い出した。営業ツール、FAQなどのコーナーへのアクセス数が圧倒的に多いのは、若手社員だった。しかも、マネジャーや教育担当が近くにいるのにもかかわらず、そのすぐ近くの席でひたすらアクセスしていた。気を使う必要もないのが支持されていた。

一方、生成AIが万能というわけではない。AIもまた、よく間違う。今のところ、AIが持っている、主にネット上に転がっている情報をもとにしか、相談に応じることができない。その知識も、間違ったり、偏ったりすることがよくある。相手に気に入られるように振る舞ってしまうのもAIの特徴だ。元気がなさそうだなどと、察することもできない。

人間は、相談しようと思っても勇気がなくて言い出せないことがよくある。それでも、周りにいる人が、その人の悩みや不調を感じ取ることができる。

トヨタ自動車とリクルートグループの合弁会社で働いていた頃、トヨタの管理職たちの相手の悩みを察する力に驚いた。部下をよく観察し、ちょっとした変化を察すると、すぐに声をかける。標準・基準、あるべき姿にこだわるトヨタならではだと感じた。相談してくるのを待つのではなく、相談する機会を管理職がつくっていた。

人間の相談も、それに対する回答も、ときにピントがズレていることがある。メディアに掲載される人生相談などでは、回答者のキャラありきで、完全にズレた答えが返ってくるものもある。伝説の空手家が応じる人生相談は、将来の不安、恋愛、借金などすべての悩みに「君、空手をやりなさい」と答えるという、トンデモない内容だった。ただ、それで吹っ切れる人もいたのではないか。人間臭い何かがそこにはある。

さて、あなたの職場には相談に乗ってくれる人はいるだろうか。他の同僚の困っていることを察しているだろうか。これらはすべて、人をハッピーにするだけでなく、職場改善の芽である。ぜひ、敏感になりたい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。『日本の就活』(岩波書店)、『50代上等』(平凡社)、『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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