職場のダイバーシティ施策を進めよう
ジェンダー、LGBTQ、外国人材、ニューロ、年齢ジェンダー公正な人事制度とはなにか
期待のアンコンシャス・バイアスの解消を


聖心女子大学名誉教授
転勤制度の実態を調査
1986年に男女雇用機会均等法が施行される以前は、女性は男性と同じように採用されませんでした。4年生の大学を卒業しても男性と女性で異なる採用条件を設けることが一般的でした。
こうした状況が均等法の施行によって変わることが期待されましたが、実際には企業が「総合職」「一般職」という雇用管理区分を設けることで、男性は「総合職」、女性は「一般職」という区分けが生まれました。その区分けの大きな要因となったのが、転勤の有無でした。転勤があることで一般職を選択した女子学生は数多くいました。それが雇用管理区分間の処遇格差につながり、男女間賃金格差の要因になってきました。転勤を要件に雇用管理区分を分けるあり方に長年、疑問を抱いてきました。
今回、『ジェンダー公正な人事制度とはなにか』という本をまとめるに当たり、雇用管理区分や転勤制度の見直しの実態と課題を分析しました。そこで見えてきたのは、人材確保のために企業が転勤制度を見直している姿でした。同時に、企業が転勤制度の必要性に関しても考え方を変化させていることもわかりました。
まず、調査をして驚いたのが、総合職でも転勤していない人が相当数いることでした。モニターを用いた調査でしたが、転職を1回も経験したことのない総合職の男性は44%、女性は57%に上りました。つまり、転勤の有無によって雇用管理区分が分けられているものの、実際に転勤しない人がある程度のボリュームで存在することがわかりました。
転勤はスキルを上げるのか?
調査をしてわかったもう一つ特徴的なことは、転勤は従業員の職業スキルを上げるわけではないということです。これまで転勤は、従業員の職業スキルを上げるために行われるとされてきました。ただし職業スキルが実際に上がるのか検証されてきたわけではありません。今回の調査では、転勤経験者に職業スキルが上がったかどうかを聞きました。その結果、職業スキルが上がったと答えた人は半数程度しかいませんでした。一方、企業側も従業員の職業スキルを上げるために転勤を行っているのではなく、人材配置のために行っていることがわかりました。
つまり、転勤は企業の人材配置の都合で行われているのであり、転勤しなければ上がらない職業スキルというものは、実際にはそれほどないということです。調査をしてみると転勤の実態はこのようなものにもかかわらず、それを基準に雇用管理区分が設けられ、男女間賃金格差が生まれてきたのだといえます。
転勤見直しだけでは不十分
他方、調査では多くの企業が転勤制度の見直しに取り組んでいることもわかりました。その背景には転勤制度が働く人から敬遠されていることがあります。調査では、転勤を伴う異動は家族の負担が大きいと考える人の割合が85%に上りました。共働き世帯が増える中で、転勤制度は人材確保の障壁になっています。こうした中、転勤を原則廃止した企業では、求人への応募が10倍に増えたという企業もありました。優秀な人材を確保するために転勤制度を見直す企業が増えています。
では、転勤制度をなくすことでジェンダー公正な人事制度は実現するでしょうか。転勤の有無が処遇格差に結び付かなくなる点において、転勤制度の見直しは男女間格差を縮小させる方向へ向かわせるといえます。ただ、これだけでは不十分だということも調査からは見えてきました。会社の指示に「無限定」に応えて長時間働くスタイルが評価されたままでは、男女間格差は縮まらない実態があります。ジェンダー公正な人事制度を実現するためには、転勤の有無だけではなく、従来の男性正社員の「無限定」な働き方を見直す必要があります。そのためには労働時間の長さよりも仕事の成果で評価する方向へ見直すことが不可欠です。
人材育成のジェンダー・バイアス
もう一つは、人材育成や仕事の割り振り方の問題です。調査を通じて見えてきたのは、OJTを通じた人材育成のあり方にもジェンダー・バイアスが存在しているということでした。職場では日常的に上司が部下に仕事を割り振り、経験を積ませながら育成していきますが、調査では「誰の能力を伸ばすか」「誰を一人前に育てるか」という点で、男性社員に対してそのような期待や育成意識が向けられやすい傾向が見られました。男性の場合、そうしたサポートを周囲が無意識に行ってくれる慣行があったということです。
こうしたジェンダー・バイアスが残っていれば、たとえ雇用管理区分をなくしたとしても、低い職務等級に女性が偏り、新たな男女間格差が生み出される可能性があります。以前に行った別の調査では、総合職5年目の女性社員の7人に1人が主に女性が担当する仕事に割り振られていました。そうした仕事に就く女性は、管理職志向が低く、結果的に賃金格差につながります。
こうした課題を克服するためには、働く女性の側も自分の仕事のキャリアの階段に敏感になる必要があります。やりがいのある仕事とスキルの身に付く仕事は異なります。やりがいがあってもスキルの習得や、キャリアップに結び付きづらい仕事もあります。働く女性は、今の仕事が5年後10年後にどのようにつながるのかを意識してほしいと思いますし、周囲のサポートが重要です。
アンコンシャス・バイアスの解消を
ジェンダー公正な人事制度の実現のためには、まずは転勤制度の見直しを含め、雇用管理区分をフラットにすることが必要です。ただ、それだけでは不十分なことも今回の調査でわかりました。
そうした課題を克服するために次にすべきことは、社内で当たり前とされてきた慣行を一つずつ洗い出して、その効果を点検することです。例えば、これまで転勤によって職業スキルが上がるとされてきましたが、実際はそうでもないことがわかりました。このように社内で当たり前とされてきたことを一つずつ見直すことがジェンダー公正な人事制度の実現に結び付くと思います。その中では、女性がなぜ管理職を敬遠するのかもあらためて点検する必要があります。
さらに、人材育成や仕事の割り振りに対する意識を変えることが重要です。今回の調査を通じて、人の意識は置かれている環境に強く影響を受けるということをあらためて実感しました。周囲が期待してその人の成長を促せば、「頑張ろう」と思える一方、周囲から期待されていないと感じれば、「ほどほどでいい」と考えるようになるのも自然です。その意味で、職場における期待や人材育成を男女で同じにしてほしいと思います。
その鍵を握るのは、やはり管理職です。管理職に対して無意識の思い込みを解消するための研修などを実施してほしいと思います。労働組合は、そうした研修を会社に促すことができます。労働組合の中も含めて、人材育成や仕事の割り振りに関するアンコンシャス・バイアスを解消してほしいと思います。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

