特集2026.06

職場のダイバーシティ施策を進めよう
ジェンダー、LGBTQ、外国人材、ニューロ、年齢
「消防署の火事」が見えてくる
『K2P2白書2025』の読み方
そろそろ意識改革から行動改革へ

2026/06/15
労働組合内のジェンダー平等をどう進めるべきか。それは労働組合の組織拡大および生き残りに直結する課題であり、そのためには男性労働組合役員の意識変革や行動変革が欠かせない。労働組合役員の意識調査を実施した本田一成・武庫川女子大学教授に寄稿してもらった。
本田 一成 武庫川女子大学教授
クミジョプロデューサー/
NTT労働組合兵庫分会クミジョ応援課長

「リアル組織率」ベースで
ジェンダー平等を考える

「リアル組織率」という筆者の造語をご存じだろうか。「組合費を払いたくない」「活動に参加したくない」「脱退したい」と思っている組合員を除外して算出した組織率である。日本はユニオンショップ労組が7割弱を占め、幽霊部員(リアル非組合員)が満々なのに組織率は一見100%なので、やり過ごしがちになる。だがオープンショップ労組なら、リアル組織率は現実の組織率に近づくから死活問題である。

推定組織率は、毎年12月、クリスマス前後に発表されるや、連合が危機感と組織拡大の決意を表明する年中行事になっている。だが単なる机上の割り算では現場ではさしたる意味はなく、リアル組織率へ危機感を集中させるべきである。では、リアル組織率は何%なのか。

頭脳明晰で行動力のあると目されるクミダン(男性役員)たち数十人に聞き回ったリアル組織率は、絶対に10%未満で5%でもあやしいという。それを信じて、厚労省「労働組合基礎調査」を用いて簡単に試算してみた(表1)。

日本の労組は1年間に約300労組で1.4%ずつ、組合員数は約14万人ずつ減っている。新しく結成される労組や加入する組合員と、解散や脱退との差し引きの結果である。組織化の難しさは熾烈だから敬意を表したいが、ちょっと待ってほしい。

ユニオンショップ労組のリアル組織率は5%、オープンショップ労組は、甘めだが幽霊部員ゼロとしよう。すると、リアル組合員数は約367万人、リアル非組合員は約625万人となる。組織拡大というのなら、新規の労組結成で毎年14万人以上の組合員をとる努力をするより、625万人のリアル組合員を増やしたいと思わないのだろうか。

なお、この甘めのリアル組織率は推定組織率に換算すると約6%となり、16%どころで大騒ぎしている場合ではないし、ユニオン・アボイダー(回避者)やユニオン・ヘイター(敵視者)を無視して無関心層と一くくりにしている場合でもない。(注1)

625万人のリアル非組合員の中にどれほど女性が含まれているのかは不明である。だがジェンダー平等を軽視するほど、活動の中心重点課題から外して後回しにするほどに、女性組合員もクミジョ(女性役員)も逃げていくだろう。男性優先の組織や活動に支払う組合費がもったいないし、時間と労力の無駄使いはしたくないからだ。この点は、ジェンダー平等を多様性平等に置き換えてもまったく同じであろうが、ここではジェンダー平等に注目する。

リアル組織率ベースで考えれば、労働界は高らかに組織拡大を宣言しながら組織縮小にかじを切っている。ジェンダー平等がリアルな組織拡大であり、二つは同じ取り組みと気付けるかどうかである。気付かないフリをしているのであろうか。あるいは、リアルな組織率が壊滅的なのに「そんなのウソだ、言いがかりだ」と打ち消すつもりなのだろうか。

表1 組織拡大とジェンダー平等推進の活動
(注1)直近5年間の調査結果の平均値
(注2)重点項目活動として「男女の均等取扱い」と回答した労組の割合
(資料)厚生労働省『令和7年労働組合基礎調査』『令和5年労働組合活動等に関する実態調査』

衝撃の
『K2P2白書2025』

リアル組織率ベースで考えてみれば、労組は日本のジェンダー不平等に立ち向かうには力量不足、技術不足である。女性組合員がどんどん逃げているのに無頓着で、40年近くもクミジョ増強に失敗しているからである。

クミジョ増強不全は、労組から女性の代表者性(組合員の女性比率と役員の女性比率が等しいこと)と女性の当事者性(女性組合員の要求を尊重して要求し交渉し実現できる女性役員の執行権や交渉権があること)を奪っている。これで女性が逃げなかったらその方がウソである。ぜひとも、クミダンがクミジョの増強をどう考えているのかを問わねばならない。『K2P2白書2025』を使ってごく簡単にまとめてみよう。(注2)

まず、クミダンの男女平等観が目を引く。内閣府「男女平等社会に関する世論調査」(2024年)と同様の設問にして尋ねたところ、日本社会を全体で見て「男性が優遇されている」と回答したクミダンは57.8%、「男女は平等」は22.1%、「女性が優遇されている」は15.5%である。世論調査とほぼ同水準であり、むしろやや「女性優遇」が多い(表2)。ジェンダー平等に積極的に取り組むはずの労組のクミダンの男女平等観はジェンダーギャップ指数最劣悪国にいる世間の日本男性並みである。

この男女平等観によって、クミジョ増強に対する肯定感、不信感、メリット感はきれいに分かれている。つまり、「男性優遇」と認識するクミダンは、クミジョ増強に肯定的で、不信感は小さく、メリット感が大きい。「女性優遇」のクミダンはその逆である。

全体では日本男性の平均像であるクミダンだが、男女平等観の認識とクミジョ増強の評価のつながり具合で三分裂している。ここから多くの示唆が得られる。クミダンのジェンダー平等への無理解はよく年齢や世代に帰せられるが、実は年齢や世代を超えた男女平等観の差異が原因なのかもしれない。

また、労働界はクミジョとクミダンの対立(ダンジョ対立)だけでなく、ジェンダー平等推進を介して潜在的にクミダン同士の対立(ダンダン対立)の芽が出ている。リアル組織率が終末を迎える前にクミダンがクミダンを浄化したり、排斥するかもしれない。

いずれにしても、労働界のジェンダー不平等の一因はクミダンの力量差、技術差にあり、ジェンダー平等の推進主体である労組がジェンダー不平等で燃える「消防署の火事」のような現実が展開されている。(注3)

表2 クミダンの日本社会に関する男女平等観
(資料)『K2P2白書2025』(2026年)、内閣府『男女平等社会に関する世論調査』(2024年)

早く火を消せ

労働界を襲う「消防署の火事」の消火活動、防火活動はどうすればよいのか。リアル組織率ベースで考えれば明瞭であろう。「もっとクミジョの意識を向上させ、力量不足を改善すること」のはずはない。改善すべきは「クミダン肥大症」で、ポイントはリアル組織率をビルトインし、全力でジェンダー平等に取り組むクミダンの増員である。

第一に、リアル組織率の拡大の断行に専心し、ジェンダー平等の優先順位を格段に上げることである。そのために、ジェンダー平等に抵抗してリアル組織拡大を妨げ、肥大化を肯定する保守層、守旧派のクミダンへの対策や措置が必要である。

第二に、リアル組織拡大を優先する観点から、労組の歴史と伝統を守るために壊すものを考えねばならない。すべての活動と財政を見直すだけでなく、みんなが大嫌いな「ガンバロウ三唱」や肥大化が生み出したOBネットワークも不可侵ではない。

第三に、労働者学習や役員研修を厚くして、人心をもっとジェンダー平等に集めよう。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)ではなく、無意識であっても、不作為であっても差別には違いないことを知るためにMA(マイクロ・アグレッション、小さな攻撃や差別)について学ぶべきである。

もう紙幅が尽きた。労働界は、今後は意識改革が必要、で締めて終わることが多いが、これらの提案は行動改革である。

    (1)本田一成「非正規雇用労働者と労働組合──「リアル組織率」を反転させるために」、森ます美、本田一成他、連合総研編『非正規という働き方と暮らしの実像』旬報社。

    (2)『K2P2白書2025』はプレスリリースページで電子ブックを公開している(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000143103.html)。K2P2の活動成果は本田一成「クミジョ・クミダンパートナーシップ プロジェクト(K2P2)とは何か」『労働法律旬報』2095・2096号、同『クミジョを考える』信山社(本誌愛読者特価注文書はoffice.hondabooks@gmail.comまで)、西尾力「労働組合の中の男と女」(https://note.com/t_nishio)などがある。

    (3)「消防署の火事」という大瀧詠一の名曲(『NOVELTY SONG BOOK』ナイアガラ・レーベル、1978年)がある。

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