職場のダイバーシティ施策を進めよう
ジェンダー、LGBTQ、外国人材、ニューロ、年齢年齢に基づく差別をどう乗り越えるか
「エイジズム」が生まれる背景と対処法


世代間の問題
エイジズムという言葉が生まれたのは、1960年代末のアメリカです。老年学者のロバート・バトラーが提唱した概念で、当初は高齢者に対する偏見・差別・ステレオタイプを指すものでした。主に高齢者の権利を守るための言葉として使われてきました。
ただし最近では、言葉の使われ方が変わってきています。かつては高齢化率が低く、高齢者は社会における少数派として位置づけられていましたが、今や日本の高齢者は人口の3割に近づき、先進国でも2割以上が当たり前になっています。その結果、特にヨーロッパで「年齢の割を食っているのは若者の方ではないか」という指摘が出るようになりました。つまり、エイジズムは高齢者だけの問題ではなく、世代間の問題へと広がってきました。
エイジズムへの関心が広がっている背景には、高年齢者雇用が広がっていることもあります。70歳までの就業機会確保が政策課題となり、高年齢労働者と若年層が同じ職場で一緒に働くことが多くなりました。それに伴い、年齢を巡る処遇や役割分担をどう設計するかという「エイジ・マネジメント」の問題が、企業の人事担当者にとって大きな課題になっています。かつては老年学の用語だったエイジズムが、職場の課題として使われるようになったのは、そうした時代の変化を反映しています。
エイジズムが生まれる背景
職場におけるエイジズムは、国外では「シリコンバレー・エイジズム」という言葉で早くから顕在化しました。若いエンジニアを重視するIT産業の慣習が、世代間の問題を生み出しました。日本でも世代間の問題はあります。最近では、初任給を大幅に引き上げる企業が増える一方、中高年の賃金カーブを抑制する傾向もみられます。そうすると「なぜ若い層だけ?」という不満が上の世代に生まれ、世代間のあつれきにもなり得ます。
エイジズムが生まれる背景には、高齢世代に対する思い込みが解消されないことがあります。私が大学生に「高齢者のイメージ」を聞くと、真っ先に出てくるのは認知症の高齢ドライバーによる事故や、増え続ける社会保険料の負担といった話です。「高齢者=社会の重荷」という負のイメージが、若い世代に浸透しているのだと感じます。
しかし老年学の研究では、現在の高齢者の歩行速度や握力といった身体機能は高まり、60歳代の知的機能は10年前よりも5〜10歳分若返っているとも報告されています。瞬発力は若年層に比べて落ちるかもしれませんが、長期的な記憶力やマネジメント能力は、十分に仕事に生かすことができます。こうした科学的な知見にもかかわらず、高齢者・高年齢者に対するネガティブなイメージは払拭されていません。それがエイジズムの温床になっています。
集団としての分断
また、エイジズムが生まれる背景には、社会心理学でいう「内集団・外集団」のメカニズムがあります。人は自分が属する集団と、そうでない集団を無意識に区別し、外集団に対して否定的な感情を向けやすいと指摘されています。この視点に基づけば、若者にとって高齢者は「自分たちとは違う集団」であり、若者が抱える経済的な不満やフラストレーションが、「外集団」である高齢者に向かうことがあります。実際、われわれが若年就業者を対象に行った調査では、職場への不満が強い人ほど高齢者に対して否定的な態度をとる傾向が表れました。
ただし、職場での世代間交流がエイジズムを和らげることもデータからはわかります。例えば、上司や同僚として高年齢者からサポートを受けたり知識を共有したりする経験がある人ほど、差別的な意識が低下する傾向があります。その逆もしかりで、「どうせパソコンもできないでしょ」と若者から見下されるような経験をした高年齢者は、今度は若者に対して否定的な態度をとるようになります。このようにエイジズムが生まれるかどうかは、日頃の交流のあり方にも左右されるといえます。
エイジズムの内面化
エイジズムの課題には、こうした対人関係に基づく課題のほかに、高年齢者自身がエイジズムを内面化してしまう問題があります。例えば、「あなたはベテランだからこの仕事には向かない」「新しいことを勉強しなくていい」などと言われると、当事者は「自分はもう成長できない」「この会社では価値がない」と思い込んでしまいます。このような加齢に対するネガティブなイメージを自分自身に内面化すると、次第に仕事への満足度が下がり、ひどい場合にはメンタルヘルスの問題に発展することが研究から明らかになっています。
職場のエイジズムに向き合うためには、世代間交流を進めることが大切です。ただし、異なる世代を同じ場所に集めさえすればいいわけではありません。単に集めるだけだとむしろ摩擦が生まれて逆効果になる場合もあります。
そこで重要なのは、世代を超えた共通の目的を持ってもらうことです。具体的には、技能継承のような仕掛けをつくることがポイントです。例えばベテランの従業員が培った技術や顧客対応の知識を若い世代に伝える。若い人がその技能の価値を実感できれば、自然と年長者への敬意と感謝が生まれ、好循環が生まれます。限られたポストを奪い合うのではなく、お互いの強みを持ち寄った協力関係を構築することがポイントです。
世代間の協力関係を築く上で参考になるのが、地域社会で使われている「フューチャーデザイン」という手法です。例えば、2050年の自治体はどうあるべきかという将来の姿を先に設定し、そこから逆算して今何をすべきかを議論する手法です。目先の利害や世代間の対立ではなく、共有できる未来の目標を起点にすることで、建設的な対話が生まれやすくなるメリットがあります。企業でも同様の手法を取ることができるはずです。
将来ビジョンを共有する
「人生百年時代」とも言われますが、「学ぶ時期」「働く時期」「引退する時期」という三段階のライフステージの区分けは、日本ではそれほど変わっていません。70歳まで働くことが現実になりつつある中では、こうした区分けを見直す必要も出てくるはずです。例えば最近では、定年後に大学や大学院で学び直す人が増えていますが、一部に過ぎません。こうした学びをもっと早い段階から始めて、働きながら学ぶというように、学びと労働を自由に行き来できる社会になると良いと思います。そのためには、大学と企業がもっと連携を深める必要があります。
エイジズムを内面化しないためには、周囲のかかわり方が重要です。「年なんだから無理しないで」「もう新しいことを覚えなくていい」といった言葉は、発言した人は意図していなくても当事者にとってエイジズムを内面化することにもつながります。
その一方で、「役に立っている」と感じられる環境があれば、それが心身の健康を支えます。高齢者・高年齢者といっても健康状態や能力・意欲には多様性があります。その多様性を踏まえた職場環境の設計が、これからの人事に求められます。一律の対応ではなく、それぞれの能力や役割に応じた評価の仕組みをどうつくるかが、職場におけるエイジズムに対応するためにも重要です。
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