常見陽平のはたらく道2026.08-09

長期休暇とデジタルデトックス

2026/08/13
SNSやインターネットの情報に常につながる時代。そこから離れる時間をどうつくるのかも現代人の課題だ。

1990年代前半、私が大学生だった頃にベストセラーになった本がある。経済学者、野口悠紀雄による『「超」整理法』(中公新書)である。まだ、インターネットはもちろん、パソコンの普及も不十分な時代に、「情報は分類しない(整理しない)」ことを基本とする情報管理術は一斉を風靡した。続編や、手帳などの関連商品も飛ぶように売れた。その中で、なぜかいまだに覚えている記述がある。それは、休もうと思ったら、海外など連絡のとれない場所に行けというノウハウだった。膝を打ったことを覚えている。

もっとも、このノウハウも通じない時代となっている。スマホが普及し、いつでも連絡がとれる時代となった。相手の状況を確認せずに連絡をとったところ、先方は海外にいて夜中だったということもよくある。いつも、情け容赦なく、スマホに通知が届き続ける。

仕事の連絡は、嫌がられて当然だが、プライベートの連絡なら歓迎というものでもないだろう。むしろ仕事の方が、ルールの範囲内での対応が可能であり、対応や返信は営業時間内にする手もある。しかし、プライベートの連絡などはむしろ、スルーしてしまっては気まずく感じることもあるだろう。一方、いくら親しい友人であっても、しつこく連絡されると戸惑ってしまう。恋人と数時間にわたり、LINEを続ける人もいる。育児や介護に関する連絡など、命にかかわるものもある。

デジタルデトックスをいかに進めるか。いま、立ち止まって考えてみたい。

私の地道な抵抗を紹介しよう。私は、仕事における「つながらない権利」を職場で主張している。大学教員は裁量労働制である。夜中や週末にメッセンジャーで連絡してくる人がいる。本人にとっては平常運転だろうが、他の教職員が巻き込まれては、たまったものではない。私は、平日の9時から17時半の間以外は連絡不可であることを、学生や教職員に宣言している。私からも、この時間帯以外は連絡しない。グループウェアへの投稿もしない。これを続けることで、平日夜や休日の連絡は劇的に減った。

ただ、単に仕事の連絡のルールをつくるだけでは不十分だ。そもそも、スマホの通知から逃げなくてはならない。心の平穏を保つためだ。私は、スマホを見ない環境を、意識的につくり出すことにしている。映画館、劇場、ライブハウスに行く時間を意識的に増やしている。ジムや、音楽スタジオなど、何かに没頭する時間をつくり出している。読書をする際も、スマホはできるだけ離れたテーブルなどに置く。スマホの通知は集中の邪魔になるのだ。さらに、騒がしい世の中では立ち止まって考えることが必要だ。

残念ながら、海外旅行には円安やエネルギー高、国際情勢などの点から、金銭面でも渡航ルートの面でも簡単には行けなくなった。国内旅行も宿泊費や食費が高騰している。とはいえ、つながらない時間、空間をつくり出すことにこだわりたい。

デジタルデトックスは、働き方を見直す行為だけではない。スマホ断ちでもない。生き方を問い直す行為である。AIとの共存が模索される社会であるからこそ、人間らしく生きる模索を続けるべきである。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。『日本の就活』(岩波書店)、『50代上等』(平凡社)、『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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