変わりゆく世界の中で平和を訴える意味
暮らしを守るために必要なこと世界のマジョリティーは核兵器廃絶
核兵器のリスクに向き合い
核に頼らない安全保障の確立を


NPT再検討会議のポイント
4月下旬から4週間にわたってNPT再検討会議がニューヨークの国連本部で開催されました。会議は、大きく二つのポイントで注目されました。
一つ目は、2015年と2022年の会議で合意文書を採択できなかったことを踏まえ、今回こそ採択に成功し3回連続の合意失敗を回避できるかどうかです。
二つ目は、厳しい国際情勢下において各国が核軍縮に向けた議論を立て直せるかどうかです。今回の会議は、ロシアによるウクライナ侵攻、アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃という、二つの戦争が継続する中で開催されました。さらに今年2月にはアメリカとロシアの間で締結されていた最後の核軍縮条約である「新戦略兵器削減条約(新START)」が失効しました。こうした厳しい情勢下で各国が核軍縮に向けて合意できるかが議論のポイントでした。
合意文書案の内容は、NPT体制の重要性や核軍縮に向けた過去の合意を確認するという現状維持の意味合いが強いものでした。しかし、残念ながら、イランの核問題を巡って、アメリカとイランの対立の折り合いがつかず、合意文書の採択には至りませんでした。
核兵器保有国の強固な反対
とはいえ、こうした対立が解消されたとしても合意文書が採択できたかは不透明です。なぜなら、その他の項目に関しても核兵器保有国(以下、核保有国)と非核保有国の間や、核保有国間の対立があったからです。
私たち日本のNGOは、今回の会議のポイントとして、次の五つの注目点を挙げていました。(1)核兵器の非人道性を確認すること、(2)核保有国が核軍縮の約束を果たすこと、(3)核実験を行わないこと、(4)新たな核保有を認めないこと、(5)国連や核兵器禁止条約を生かすこと──です。
こうしたポイントに照らして今回の議論を見ると、核保有国が核軍縮に向けた合意づくりに逆行する動きをしていたことがわかります。例えば、核兵器の非人道性についてです。合意文書の当初案には、核兵器の「いかなる使用」も非人道的な被害をもたらすという文言が入っていました。しかし核保有国のほとんどが、そうした文言は厳しすぎると反発しました。ほかにも、核軍縮を「緊急に」取り組む必要性が述べられていた文言に対して、核保有国のいくつかは緊急という言葉を削除するよう要求しました。
それだけではなく今回の会議では、核不拡散にも逆行するような動きもありました。特に懸念したのは、ロシアが北朝鮮の核保有についてこれ以上言及しないよう求めたことです。北朝鮮はそもそもNPTを脱退して核兵器保有に至った国です。近年は西側諸国との対立を受けてロシアが関係を深めており、それがNPT再検討会議にも反映された形です。このように会議では、核軍縮や不拡散の論理よりも核保有国間の対立の論理が優先される状況が多く見受けられました。
NPT体制の揺らぎ
今回の会議では合意文書を採択できず、3回連続の不採択となりました。そのことでNPT体制がすぐに崩壊するとまではいえません。しかし、それがじわじわと弱体化するリスクはあります。
特に懸念すべきは、非核保有国での核武装論の広がりや核兵器持ち込み論の台頭です。近年、非核保有国の間では核兵器の持ち込みを認めるべきという議論が広がっています。実際、フィンランドでは核兵器の持ち込みを可能とする法改正が可決され、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でも同様の議論があります。しかし、そうした形で核兵器が拡散していけば、NPT体制が形骸化しかねません。
そもそもNPT体制は、非核保有国が核を持たない代わりに、条約に加盟することで自国の安全が保証され、一方の核保有国は核軍縮を減らしゼロにしていくという設計のはずでした。しかし世界はその逆方向へ動いています。核保有国は核兵器を減らすのはおろか、むしろ非核保有国に軍事攻撃を行っている。その結果、非核保有国では、自国への核の配備や核武装によって安全を守ろうという声が高まる──。こうした状況がNPT体制に深刻な打撃を与えているのです。
日本の非核三原則
見直し論への注目
こうした中、日本の非核三原則の見直し論議にも注目が集まっています。NPT会議の現地で海外NGOと意見交換したときには、日本の動向について質問されました。核兵器の持ち込み論は、それだけ世界の共通課題になっているということです。その意味で、非核三原則を巡る日本の選択は国内だけでなく、世界からも注目されています。
NPT体制を守るためには、核武装論や核持ち込み論の台頭に対して各国できちんと歯止めをかけることが何より重要です。そのためには、核武装や持ち込みがもたらす現実的なリスクをしっかり示すことが重要です。例えば、非核三原則を見直してアメリカの核兵器を日本に配備したり、核兵器を搭載した艦船の寄港を認めたりするようになれば、それらが攻撃対象になり、日本が武力攻撃を受けるリスクを高めます。実際、ウクライナのドローンが核兵器を搭載できるロシアの戦闘機を攻撃したというニュースもありました。
同時に、非核三原則の見直しは、地域の緊張関係を高めてしまうでしょう。とりわけ、日中関係がかつてなく悪化する中、見直しに踏み切るのは外交的にも得策ではありません。核兵器を持ち込ませず、緊張の火種をつくらないことが、日本の安全保障や外交にとってプラスになることを知ってもらう必要があります。
こうした論点を知ってもらうべく、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲さんと共著で『非核三原則』を今年5月に出版しました。
世界のマジョリティーは
核兵器廃絶
核武装を求める声がある一方、世界全体がその方向に向かっているわけではありません。むしろ世界のマジョリティーは、核兵器の禁止や廃絶を訴えています。今年7月7日、トンガが核兵器禁止条約に加入し、同条約の締約・署名国が100カ国になりました。世界の過半数の国は、すでに核兵器に頼らない安全保障と核兵器の廃絶を訴えています。NPT再検討会議でも、世界の大多数の国が核兵器の非人道性を訴え、核の脅威を減らすために核軍縮を進めるべきだと訴えました。核兵器に頼らない安全保障を訴える国が世界のマジョリティーであることをあらためて認識する必要があります。
核兵器禁止条約は今年、発効から5年を迎え、11月に初めての再検討会議を開きます。同条約の加盟国は、NPTを守る姿勢を明確にしつつ、核兵器を廃絶していく道を模索しています。日本も最低限でもオブザーバーとして参加し、条約とのかかわりを深めてほしいと思います。
核保有国は現在9カ国であり、それらの「核の傘」の下にある国はおよそ30カ国です。それに対して、核兵器禁止条約の締約・署名国は100カ国です。つまり世界の大多数は、核兵器のない世界をめざしています。核兵器がなければ世界の安全は守れないのではなく、核に頼らないことが持続的で安定的な平和につながることをこれらの国々は示しています。
労働組合の皆さんをはじめ、多くの個人や組織がつながり、核廃絶の声をさらに大きくしていきたいと考えています。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

