変わりゆく世界の中で平和を訴える意味
暮らしを守るために必要なこと経済的な効果が低い武器輸出
抑止力を高め暮らしを豊かにする
政策とは?

(写真:Bachmann/PIXTA)

効果の低い公共事業:武器輸出
高市政権は、武器輸出の解禁を経済成長の柱の一つに位置付けています。武器輸出しなければならないほど日本が落ちぶれてしまったのは、日本人が貧しくなったからにほかなりません。日本の人口約1億2000万人の全員が毎月5000円(毎日165円)多く支出するだけで、GDPはただちに1.2%成長します。日本経済が30年以上、低成長を続けてきた背景には、潜在的な国内需要はあるにもかかわらず、雇用の劣化や将来への不安感から人々が消費する余裕も意欲も失ってしまったという貧しさがあります。
武器輸出には、マイナンバー、オリンピック、万博、辺野古基地建設と同じように、政府の財政出動で有効需要を生み出す公共事業の性格があります。そうした中で武器輸出が経済成長の柱になったのは、オリンピックや万博が終わったいま、公共事業として打つべき手がほとんど残されていないからです。
しかし、数ある公共事業の中でも武器輸出は「乗数効果」が特に低い施策です。乗数効果とは、政府が投入した費用に対して需要が何倍になって生まれるのかを表す言葉です。乗数効果が高いほど、少ない費用で多くの需要を生み出すことができますが、武器輸出はその中でも乗数効果が特に低いのです。
武器は基本的につくったらそれで終わりで、武器が新たな需要や経済活動を生み出すわけではありません。例えば地域ごとの特性を生かした食文化振興事業なら、そこから農林水産業、飲食店、食育、建築や街作りなどさまざまな経済活動が派生しますが、武器にはそうした波及効果がありません。また、武器を買うのは日本の自衛隊か海外の軍隊だけで、需要が限られています。生活必需品のように誰もが買う(大量に売れる)わけではないので、武器輸出の恩恵が広く国民に行き渡るということはありません。
武器輸出大国の夢
このように武器輸出の公共事業としての乗数効果は低いにもかかわらず、高市政権が武器輸出を推し進める背景には、何十年来それを拡大しようとしてきた政財界の存在があります。そこにかかわる人たちは、日本が独自の武器を開発し、軍事強国になることを夢見ています。しかし、その願望は国民生活の豊かさにつながるわけではありません。
そもそも、日本が独自の武器開発を行い、武器輸出大国になるのは非常に困難です。それには二つの理由があります。
第一は、アメリカがそれを許さないからです。アメリカは、日本が独自に兵器開発し、輸出大国になることを黙過しないでしょう。アメリカはこれまでも日本独自の戦闘機開発に介入してきました。戦後80年たってもアメリカにとって日本は目下の同盟国であると同時に、国連憲章第53条の敵国条項適用国なのです。
現在、日本、イギリス、イタリアの3カ国で次期戦闘機の開発に取り組んでいます。アメリカがそれに反対しないのは、有人戦闘機の開発が今後も必要なのかを見極めようとしているからです。日英伊の共同開発がうまくいけば日本からその成果を引き出し、うまくいかなければアメリカの兵器を買わせればいいと考えています。英伊にとって日本は「トロイの木馬」のような存在ともいえるでしょう。
日本が武器輸出大国になるのが困難な第二の理由は、戦後日本には軍用武器を輸出した経験がないからです。武器は輸出後も訓練・修理・補給などの世話が必須です。例えば、武器の輸出後には自衛隊員が使い方を指導する必要がありますが、国内でも人手不足に苦しんでいる自衛隊にそれが可能でしょうか。戦後80年にわたって武器輸出実績のない日本からわざわざ武器を買おうという国があるでしょうか。値段が安ければ売れるかもしれませんが、国産兵器は外国製よりかなり高価です。相手国からすれば設計図と製造権を日本から買って自国で生産・運用したいと考えるはずです。それでは日本にとってうまみがありません。
このように、アメリカの介入と、武器輸出の実績欠如という二つの理由から、日本が独自の武器開発を行い、輸出大国になるという夢は、幻に過ぎません。武器輸出によって経済が成長し、民衆が豊かになる可能性があるのではなく、武器輸出したいという願望・悪夢だけが独り歩きしているというのが現実です。
暮らしを豊かにする政策とは?
武器輸出よりも乗数効果の高い政策はたくさんあります。例えば、欧州諸国と同じように、労働者全員に5週間の連続した有給休暇を取得する権利を与え、事業主にそれを消化させるよう義務付けることです。そうすれば、その分の労働力不足が生じ、雇用創出と賃上げにつながります。内部留保をため込んだ日本の企業はそれに対応する十分な余力があります。また、有給休暇中は消費が増加するので経済の底上げにもつながります。
学校の部活動を地域クラブ(社会教育)に再編するのも効果的です。現在は教員が「定額働かせ放題」で部活動を担っていますが、地域クラブに移行すれば、音大・体育大や教育学部の卒業生に専門コーチなどの新たな雇用機会が生まれ、より専門的で適切な指導が可能になり、文化振興の基盤となります。これは数百億円もあればできます。このほかにも育児や介護の分野には乗数効果の高い施策の可能性がいくらでもあります。
このように知恵を出し合えば、平和的に生活を豊かにする効果的な施策を考えることはいかようにも可能です。その方が武器輸出よりよほど前向きでしょう。
本当の抑止力
軍事力に頼りたくなる背景には、武器がなければ抑止力が保てないという考えがあります。しかし、抑止力とはこちらの軍事力で決まるものではなく、相手がこちらをどれほど恐れるかに依存して決まります。したがって、抑止力は、相手国の兵士の生命の政治的・社会的費用が高い場合に強まります。兵士の生命の費用が高いほど戦争はしにくくなります。逆に、兵士の費用が安い国は簡単に軍事に打って出ることができるのです。
抑止力を高めたいのならば、相手国における自由や人権、民主主義などの価値を高めるソフトパワーを使うのが有効です。それらの価値が高まれば、相手国にとって戦争は高くつくようになります。
軍事とは安全保障の最後の手段で、その手前に外交があり、さらにその手前に文化や経済といったソフトパワーがあります。安全保障のためには、一番手前にあるソフトパワーが有効なのに、高市政権は最後の手段である軍事ばかりを強めようとしています。まったく逆転した発想で、日本の安全保障を損なっています。
私は、自由・人権・民主主義といった普遍的価値の普及にこそ本当の抑止力があると考えています。武器輸出や憲法9条改正は、そうした動きに逆行し、日本のソフトパワーを弱めることになります。
武器輸出は乗数効果が低く、国民の生活を豊かにしません。皆の知恵を出し合い、暮らしを豊かにする施策を考えることと、抑止力を高めるためにソフトパワーを活用することが重要です。そうした事柄を適切な構想にまとめ上げ、提示できる個人・組織のネットワークが求められています。情報労連がその役割の一端を担うことに期待しています。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

