特集2026.08-09

変わりゆく世界の中で平和を訴える意味
暮らしを守るために必要なこと
混迷する世界で日本が取るべき針路とは?
外交強化こそが現実的な選択肢

2026/08/13
大国間の競争激化で国際秩序が大きく揺らぐ中、日本が取るべき針路はどこか。アメリカ頼みの安全保障から脱却し、外交を強化することが現実的な選択肢となる。独自の外交政策の重要性を訴える新外交イニシアティブの猿田代表に聞いた。
猿田 佐世 新外交イニシアティブ(ND)代表
弁護士

批判できない日本政府

トランプ大統領によるイラン攻撃は、軍事力に勝る「強者」が、それに劣る「弱者」を力で押さえ込むことで世界の安定を保つという、「力による平和」を体現したものだといえます。

これに対して欧州各国は異議を唱え、国際法違反との指摘も相次ぎました。トランプ大統領の行為は、国際協調や国際機関を尊重してきた従来の国際秩序をないがしろにし、民主主義や人権、法の支配といった「普遍的価値」を破壊するものといえます。

一方、日本はアメリカとの関係悪化を恐れ、イラン攻撃やトランプ大統領の横暴な言動を批判してきませんでした。今年3月の日米首脳会談で高市首相は、「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」とトランプ大統領に言いました。国際法を無視して他国を軍事攻撃する人物を称賛することは、その行為を助長することにもつながりかねません。

こうした高市政権の対応は、アメリカに守ってもらわなければならないとして必死に引き留めようとする、「抱きつき戦略」であるといえます。このように日米同盟の強化を図ろうとする道を「選択肢A」とします。日本政府はこれまで通り、今後も、この選択肢の下で、防衛予算のさらなる増額やアメリカ製兵器の大量購入などを受け入れていく可能性が高いでしょう。しかしこの選択の下でアメリカにいくら尽くしても、日本がその「見返り」を得られる保証はありません。

異なる二つの選択肢

米国に守ってもらえるとは限らない。そう考える人が増える中、程度の差はあれ安全保障における「アメリカ離れ」を意識する人が増えています(選択肢B)。そこにはさらに二つの方向性があります。一つが、自国の軍事力を大幅に拡大する路線(選択肢B1)と、現状の防衛力を維持しながら外交を重視する路線(選択肢B2)です。

日本国内では、中国脅威論が唱えられ、また、「このままでは米国に見放される」と危機感があおられ、武器輸出の拡大や防衛費の増額が進められています。軍事力強化を進めるAやB1は一見合理的に見え、ついそれを選びたくなります。また、政財界には、武器輸出を進めたい、防衛予算を何倍にも増やしたいと考える人たちも数多くいます。

しかし、これらの選択肢は、本当に現実的なのでしょうか。武器を大量に購入し、大量に生産すれば平和が実現すると考えている人がいるとすれば、中国との力の差をあまりにも理解していないと言わざるを得ません。中国の経済規模は、日本の5倍近くあります。軍事力で対抗しようとすれば日本は現在の何倍も防衛費を増額させなければいけません。そのような財政的な余力がないのは明らかで、仮に実現しようとすれば、増税とともに多くの公共サービスの縮小が必要になります。緊張が高まり、この地域の安全保障環境はさらに悪化し、無限の軍拡競争に陥ります。こう考えれば、選択肢Aや選択肢B1は、現実的ではありません。

こうした現状において現実的な選択肢となり得るのが、経済力など国力が低下する現実を踏まえて防衛力を一定維持しながら外交を重視する選択肢B2です。私が代表を務める新外交イニシアティブ(ND)では、選択肢B2を推進すべく、「トランプ政権とどう向き合うか──求められる日本政治の胆力──」という提言を発表しています。

重要なのは外交の制度化

「外交はお花畑だ」という人がいます。しかし、外交は、政府間の交渉だけではありません。何百年にもわたって築かれてきた人と人とのつながりのことであり、国民全体で受け継ぎ、広げていくものです。外交は、長期に渡る国民をあげての地道な営みなのです。

重要なのは、外交を「制度化」することです。外交の制度化とは、単発の会談を行うだけではなく、それを継続的・定例的に行うことであり、それを支える仕組みをつくることです。そうした枠組みができれば、担当者が置かれ、互いに顔の見える関係が築かれ、情報共有も進みます。その結果、危機対応が容易になり、戦争を始めることのコストが高まっていきます。外交とは戦争が起きないように最大限の環境を整備することなのです。

そうした外交を強めるためには、政府間だけでなく、多層にわたる外交を展開することが重要です。例えば、議員や地方自治体、政党による外交や、経済界や学界、市民社会による外交もあります。さまざまな主体がそれぞれの立場から外交を行うことを「マルチトラック(重層的な)外交」と呼びます。

労働組合も、「マルチトラック外交」の一翼を担う存在です。情報労連のような大きな組合には、独自の外交を展開してほしいと思います。また、例えば、各地の自治体が中国の自治体と姉妹都市交流を行っていますが、これを労働組合が後押しすることもできます。また、外交を重視する政治家を支えたり、多くの人に外交の重要性を伝えることができるのも労働組合ならではの貴重な役割です。

日本と異なる視点

世界の国々が見ている「世界地図」は、日本と同じではありません。例えば、中国に対する見方も国や地域によって大きく変わります。私が訪れたマレーシアやインドネシアで「中国は脅威ですね」と尋ねても、同意する人はほとんどいません。むしろ、「なぜ中国が脅威なのか。中国は私たちにとって機会であり、チャンスだ」という答えが返ってきます。領土問題を抱えていたとしても、「領土問題は適切に管理しなければならないが、それを理由に中国を脅威と考えるのは間違っている」と言うのです。一方、ヨーロッパへ行けば、トランプ大統領のグリーンランド領有発言などを巡って、アメリカ脅威論が強まっています。世界を見渡しても「アメリカ一辺倒」の国の方が少ないのです。

こうした中で、アメリカへの「抱きつき戦略」である選択肢Aを続ければ、戦争に巻き込まれるリスクが高まり、独自の軍事大国をめざす選択肢B1をめざせば、果てない軍拡競争と防衛費の増大で生活が犠牲になります。私たちの暮らしを守るためには、外交を重視する選択肢B2が最も現実的なのです。

このような話を少しするだけで、多くの若い世代は一定の理解を示してくれます。戦争になって真っ先に駆り出されるのは若い人たちであり、情報通信に携わる人たちも強制的に協力を求められることになります。

労働組合は、若手から中高年層までが参加する幅の広い組織です。そうした組織が平和運動を展開する意義は、その運動を次代に継承するためにも非常に重要です。平和運動を次代に継承するために、若年層の力を生かしてほしいと思います。日本に平和運動が今後も存在し続けるか否かは、労働組合にかかっている。私はそう思っています。

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