特集2026.08-09

変わりゆく世界の中で平和を訴える意味
暮らしを守るために必要なこと
深く考え自分の言葉で話す
若年層向け「対話型平和教育」が
提供するものとは

2026/08/13
平和教育を次代につなぐためには何が重要になるのか。中学校や高校で「対話型平和教育」を展開する「一般社団法人かたわら」の代表理事である高橋悠太さんとインターンの山中彩也花さんに聞いた。
高橋 悠太 一般社団法人かたわら代表理事
山中 彩也花 一般社団法人かたわらインターン

考えるための材料不足

──「対話型平和教育」に取り組み始めた経緯を教えてください。

高橋数年前、都内の地下鉄。2人組の高校生が広島へ修学旅行に行くと話していました。すると、1人がこう言いました。「グロいの嫌なんだよね、広島の資料館とか(笑)」。私は言葉を失いました。同じ人間の上に起きたと捉えられなかったのか──。

神奈川県内の県立高校を対象に実施したワークショップの事前アンケート結果を紹介します。生徒100人に「日本が核兵器を持つべきだと思いますか」を聞きました。結果は、「はい」が12.1%。「いいえ」が80.3%。「いいえ」の理由は次のとおりでした。「自分たちが核兵器を持つと相手国も自国を守るために攻撃的になる」「核兵器を持つ国が連鎖的に増えてしまう」

これらは興味深い結果だと捉えています。一つ目は、10人に1人以上日本が核兵器を持つべきと考えたことです。核兵器のない世界を追求する戦後日本の共通認識が失われつつあることを意味していると捉えています。

もう一つは、核兵器を持つべきではないとする理由が、「安全保障のジレンマ」(軍事力を増やすことで緊張が高まる)の考え方を捉えていたことです。生徒たちは核兵器や戦争に関心がないわけではありません。

一方、彼らには核兵器について考える材料が足りないことも事実です。「核兵器を持つべき」と回答した生徒の一人が、その理由を中国軍機が日本の戦闘機にレーダー照射をしたニュースを見たからと語りました。つまり、確固たる考えがあるというより、その時々の情報に反応して考え方が大きく揺れ動く可能性があるということです。ですから多様な考え方や核軍縮の成功事例を伝え、この問題を考えるための材料を提供し、生徒の皆さんが自分の言葉で向き合える対話の場をつくりたいと考えています。

「対話型平和教育」は、こうした実践の中で開発されたものです。

二つの対話型プログラム

──教育事業では二つの教育プログラムを展開しています。

山中一つは「タイムトラベラー」です。これは1945年前後のヒロシマへタイムスリップし、「自分だったらどのように行動するか」という視点を持ちながら学びを深めるプログラムです。広島の古地図を使った「地図ワーク」と被爆者の証言を活用して進める「イメージワーク」の二つを軸に実施しています。それらにより「軍都廣島」の歴史や被爆の実相を学んでいきます。具体的に「地図ワーク」では、陸軍三しょう(兵器廠・被服廠・りょうまつ廠)と廣島大本営の説明を踏まえて、地図でこれらの場所を探していきます。そして、軍による検閲の有無によって軍事施設は機密事項であり、地図から消されていたということから、軍事化すると社会はどうなるのかという視点を養います。

高橋もう一つの「核兵器とわたし」では、「なぜ核兵器国は核を持つのか」を理解した上で、「異なる他者をどうすれば信頼できるか」をディスカッションします。プログラムでは1万2000個のBB弾を現存する核兵器になぞらえて、その数を体感してもらいます。ある生徒が「これだけ多くの核兵器を安全に管理できるのか」という質問をしました。そうした問いから議論を始めたこともあります。

問いの立て方を変える

──これまでの平和教育との違いは?

山中私たちがこれまで受けてきた平和教育はどちらかといえば教師が情報を提供し、生徒はそれを受け取るだけのことが多かったように思います。それに対し私たちのプログラムでは、情報を一方的に伝えるだけではなく、「なぜ、そうしたことが起きたのだろう」ということを生徒の皆さんと一緒に考え、学んだことを誰かに伝える姿勢を大切にしています。例えば「タイムトラベラー」では、軍事化によって社会が戦争を優先するようになり、国民が次第に戦争への協力を求められるようになった過程をグループで話し合いながらたどることで、生徒の皆さんはそれを自分の言葉で説明してくれるようになります。プログラムを通じて深い視点を提供できたのではないかと考えています。

──対話を実践する上での工夫は?

高橋私たちはこのプログラムを合意形成の訓練としても捉えています。ですから、問いの立て方を工夫しています。例えば、「核兵器を持つべきか、なくすべきか」という問いの立て方では双方の意見が対立してしまいます。そのため私たちは、「どうすれば、異なる国や人々を信頼できるのか」という問いを立てます。それは核兵器保有国の主張の根本には「相手を信頼できないから核兵器をなくすことはできない」との理由があるからです。だからこそ「信頼」という問題に焦点を当てます。相手を信頼することができれば核兵器を減らせます。このような問いを立てることで異なる立場の人が一つの課題に向き合う構造をつくります。

過去に信頼関係を構築できた軍縮のための事例は数多くあります。そうした材料を提供すると生徒の皆さんはさまざまな信頼関係構築のアイデアを見つけていきます。その点、大人たちの方が信頼関係を築くのは難しいという先入観を持ってしまっているかもしれませんね。

他方、「対話が重要」と伝えるだけでは効果は望めません。対話によって軍縮などが実現した「事実」をいくつも見ることが大切だと思います。その方が「対話」という言葉に対する解像度が上がります。対話の重要性に対する納得感が高まります。

物事をより深く慎重に考える姿勢

──これまでの活動の成果は?

高橋先ほどの県立高校で、当初「核兵器を持つべきだ」と話していた生徒が、授業やその後のクラスの友人との対話を通じて「すぐに減らすのは難しいかもしれないが、減らしていくべきだ」と考えるようになったという事例がありました。ほかにも、「みんな口をそろえて『核兵器が全世界から消えるのは現実的でないので』という。やはり心の中では、皆、核兵器はなくならないものだと確信しているのだろうか」と吐露する生徒もいました。これらの成果は、その生徒の考え方が核軍縮に考えが変わったことではありません。自分自身や他者の考え方に対する理解が深まることで、物事をより慎重に判断し、深く考える素養が育ったことです。

平和をつくる人を育てる

──今後の展望を教えてください。

高橋実践を通じて平和をつくる人を育てていきたいと考えています。現在、4人の大学生と高校2年生のインターン(有給)がプログラムを運営しています。平和についての対話を支える担い手を育てていきたいです。

山中このプログラムでは、インプット以上にアウトプットが大切だと考えています。生徒の皆さんがより深く考え、議論し、自分の言葉で表現できるよう、提供する材料の質を高めていきたいと考えています。

──労働組合への期待はありますか?

高橋私たちが取り組んでいる軍縮・平和教育は、「自分たちの手で自分たちの社会をつくっていく」というシチズンシップ教育の一環です。その意味で、労働組合の皆さんも、この社会がどうあるべきかを考え、行動してきた組織だと思います。皆さんの取り組みに心から期待しています。

プロフィル 一般社団法人かたわら

平和・軍縮教育プログラム提供を通して、若い世代を対象とした人材育成に取り組む。2025年度は、年間1400人以上の中高生に提供。行政の平和事業運営実績多数(広島県人材育成事業「グローバル未来塾」ほか)。国連広報センターと連携して、国連「ピースサークル」国内10カ所で展開。加えて、国連会合で核軍縮の重要性や被爆者の体験を提言してきた。第1回「国際ユース岩佐賞」受賞ほか。

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