トピックス2026.10

ブロック支部加盟組合が示す労働組合の力70年ぶりの通達見直し
国を動かしたブラジル大使館
グループユニオンの取り組み

2026/10/14
外国公館で働く現地採用職員の社会保険適用を巡り、約70年間続いてきた国の通達が見直された。その背景にはブラジル大使館グループユニオンによる粘り強い運動があった。

70年ぶりの通達見直し

労働組合の運動が、およそ70年ぶりに国の通達を動かした。「労働組合がなければ絶対にできなかった」。ブラジル大使館ユニオンの元委員長である山﨑理仁さんはこう強調する。

その通達とは、1955年に厚生省が出した外国公館で働く現地職員の社会保険の適用を巡るもの。これまで外国公館の現地職員の社会保険は任意適用として取り扱われてきたが、その根拠となっていたのが70年以上前のこの通達だった。

この通達が今年7月30日、約70年ぶりに見直された。新たな通達では、外国公館の現地職員は、社会保険法および厚生年金保険法の適用対象とすることが明示され、2028年4月1日から施行されることになった。

この見直しを実現に導いたのが、情報労連に加盟するブラジル大使館グループユニオンの運動だ。ブラジル大使館や一部の総領事館では、1955年の厚生省通達をもとに長年にわたって社会保険や厚生年金に未加入の状態が続いてきた。それを労働組合の運動によって国の通達を見直す成果にまでつなげたのだ。

団体交渉で繰り返し要求

成果の背景にあるのが長年にわたる労働組合の運動だ。日本国内にあるブラジルの公館は4カ所。大使館のほかに三つの総領事館があり、それぞれに労働組合がある。2009年に東京総領事館で労働組合が結成された後、2016年に名古屋で、2017年には大使館と浜松でも労働組合が結成されたのを機に、4館のグループユニオンを結成した。

社会保険への加入問題は、大使館では1990年代半ばから継続的に議論されてきた。1999年には社会保険加入の話が持ち上がったが、ブラジル本国の経済事情を理由に中断してしまった。2017年に再び社会保険への加入が持ち上がった際は、加入の代わりに労働条件を切り下げる就業規則の改悪案が提示されたため、労働組合は団体交渉を重ね、東京都労働委員会に不当労働行為の救済申し立てを行った。これに対して大使館側が外交免除を主張したため、話し合いは膠着状態に陥ってしまった。

そのため労働組合は戦略を転換した。情報労連のネットワークを使って1955年の厚生省の通達そのものを見直す戦略へ方向転換したのだ。

国会で組織内議員が質疑

まず情報労連から連合を通じて厚生労働省や外務省に働き掛けた。その上で組織内議員を通じて国会でこの問題を取り上げ、国の見解を求めた。その一つが2025年6月10日、参議院厚生労働委員会における組織内「石橋みちひろ」参議院議員の質疑だ。

この質疑で石橋議員は、日本にある外国公館で働く現地採用職員の8割以上に社会保険が適用されていないという実態を指摘。これに対して福岡厚生労働大臣は、46の外国公館が任意適用による健康保険、厚生年金の適用を受けているが、それ以外は受けていないと答弁した。

外務省のサイトに掲載されている大使館と領事館・総領事館数を数えると日本には約211の外国公館がある。この数値を踏まえれば、多くの外国公館で社会保険が適用されていないことがわかる。

こうした実態を踏まえ石橋議員は、1955年の通達が社会保険未加入の口実になっていると指摘し、この通達を撤回した上で、外国公館で働く現地採用職員への社会保険の強制適用を早期に実現するよう求めた。これに対して福岡厚生労働大臣は、対象が外国政府であることによる実務上の課題を挙げた上で、外務省などと調整し、「速やかに進めていきたい」と答弁した。

こうした運動の結果、冒頭で挙げた通達の見直しにつながった。これにより、ブラジル大使館だけではなく、すべての外国公館で現地採用職員には社会保険が適用されることが確認された。多くの外国公館で未加入状態が続いていることを踏まえればその影響は大きいといえる。

ネットワークと継続性の強さ

外国公館の現地採用職員は、外交や領事館の業務を支える重要な存在だ。語学力や専門知識を生かして、日本と世界の国々をつなぐ大切な役割を果たしている。しかし、その一方で、本国と日本の法律のはざまで弱い立場に置かれている。

情報労連の機関誌『REPORT』2021年4月号でブラジル大使館ユニオンの運動を取り上げたところ、情報労連には約10カ国の外国公館の現地職員から労働相談が寄せられた。多くの外国公館には現地職員の労働組合は存在せず、社会保険の未加入だけではなく、低賃金や残業代不払い、ハラスメントなどの問題が生じていることが見えてきた。

そうした中で成果を上げてきたのが、ブラジル大使館グループユニオンだ。元委員長の山﨑さんは、日本での成果を他国にあるブラジル公館の仲間とインターネットを通じて共有している。今回の通達の見直しに関してもSNSで共有し、各国の仲間たちを勇気づけた。山﨑さんは、「同じような課題を抱える世界の仲間と連帯して外国公館の現地職員の労働条件を改善していきたい」と話す。

現地職員が相手にするのは国であり、しかも外国の政府だ。労働者一人では到底太刀打ちできない。だからこそ、山﨑さんは、今回の通達の見直しに関しても「労働組合がなければ絶対にできなかった」と強調する。

山﨑さんは「労働組合の本質はネットワークと継続性にある」と話す。仲間とつながり、運動を積み重ねていくことで、国という大きな相手であっても動かすことができる。ブラジル大使館グループユニオンの運動は、労働組合の持つ力の強さを具体的に示している。

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