トピックス2026.05

イラン戦争と反戦・平和運動の意義憲法9条が持つ
リアリスティックな役割
デモ行動が命と生活を
守ることに直結する

2026/05/15
憲法9条は理想論ではなく、国益や自衛隊員の命を守る現実的な「盾」としての機能を発揮している。反戦デモもまた平和と生活防衛に直結した行動として重みを増している。なぜ今、平和運動が大切なのか。識者に聞いた。
五野井 郁夫 高千穂大学教授

「盾」としての憲法9条

3月中旬の日米首脳会談で日本はアメリカからの自衛隊派遣の要請を断りました。その背景に憲法9条があったのは明白です。茂木外務大臣も会見で、憲法の制約があることから自衛隊の派遣は難しいという立場をアメリカ側に伝えたと明らかにしています。

憲法9条は長い間、「お花畑の理想論」と批判されてきました。しかし今回は自衛隊員の命を守る「盾」として機能しました。10年前、安保法制に反対して活動した学生たちの集まりの名称は、「SEALDs」でしたが、今回、憲法9条はまさに日本の国益と自衛隊員の命を守る「盾」として機能しました。憲法9条にはこのように国を守るリアリスティックな役割があるのです。

よりテクニカルな話をすれば、日米安保条約の第5条は、「自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動すること」を定めています。つまり、自国にできることは互いの憲法の範囲内に制約されるわけです。これがなければ首相の気まぐれな行動で自衛隊員が戦域に送り出されていたかもしれません。憲法という制約がそのリスクを未然に防いだことになります。

世界に発信できる日本モデル

憲法9条の持つリアリスティックな役割はそれだけにとどまりません。「攻め込まれない限り相手を攻撃しない」という「専守防衛」という原則が、他国への先制攻撃や国際法違反の戦争に加担するリスクを低減してきたといえます。実際、今回のイラン戦争でも憲法9条があるからこそ、そうした戦争に加担しないで済んでいます。これは感情論ではなく、国益と人的資源を守るため、極めて冷静でリアリスティックな計算に基づく戦略といえます。今回の出来事を通じて、私たちは憲法9条のリアリスティックな機能をあらためて認識できたといえます。

こうした憲法9条の機能は、各国のニュースでも報道されました。日本が自衛隊を派遣できないのは「平和憲法」があるためだと世界に発信されたのです。

私は、覇権国が国際法を無視して他国への侵略を行う現在だからこそ、憲法9条の価値を世界に提示できるはずだと考えています。つまり、他国に攻め込まないという憲法を持つ国家モデルを世界に広げられるはずだということです。古代ギリシャにおける共和制も含め、共和制国家は歴史的に軍事的拡張と結び付いてきました。そうした中で、他国への侵略を行わないことを明確にした日本のモデルは、歴史的にも稀有なモデルを提示しています。

こうした憲法を持つことは、他国が日本に対する予測可能性を高めることにもつながります。安全保障と国際経済にとって重要なのは、予測可能性が高いことです。それによって安定的な外交関係や経済関係が構築されるからです。もし日本が憲法9条を変えたとしたら、それは他国から見た日本の予測可能性を下げることにつながり、国際的な見地から見てもマイナスです。相手に誤ったシグナルを送るよりも、戦後日本が築いてきた稀有なモデルを世界に発信した方が得策だと考えています。

このことは日本だけではなく、世界の市民が安定した生活を送るためにも重要です。イラン戦争の影響でアメリカやイスラエルでも膨大な戦費がかかっており、エネルギー資源の高騰に伴う物価上昇で人々の生活は苦しくなっています。それに対して憲法9条のような考え方が他国にも受け入れられれば、市民の生活を守ることにもつながります。

デモ行動が持つ重み

憲法9条を理由に自衛隊を派遣しなかったことが各国で報道される一方、高市首相は憲法改正に強い意欲を示しています。加えて、長距離ミサイルを配備したり、武器輸出を解禁したりして、他国との緊張を高めています。日本としては防衛産業を強化することで継戦能力の高さを示したいのだと思いますが、今回のイラン戦争のようにエネルギー供給が途絶えてしまえば国が持続的に成り立ちません。原子力発電にしてもウランを輸入する必要があるのですから、イランの件を踏まえれば、どのように供給が途絶えるのかはわかりません。輸入に頼らない再生可能エネルギーの強化こそが必要です。

高市首相は海外からトランプ政権に対して距離を取らなかった数少ない指導者の一人としてみられています。その意味で日本政治の右傾化を指摘する声も海外メディアの中にはあります。

一方、国会前などで戦争反対を訴えるデモの様子もSNSなどを通じて海外に発信されています。国会でも野党議員がイランへの攻撃を国際法違反だと指摘した動きが海外に発信されています。実際、イランの駐日大使館もこれらの動きを把握し、感謝する発信を行っています。

こうした動きは、日本には高市首相と異なる世論があることを示すためにも重要です。つまり、デモやSNSで戦争反対を発信することが、私たちは敵ではないというメッセージとなり、ホルムズ海峡の早期通行に向けた可能性を開くものだからです。その意味ではデモなどでアピールすることが生活防衛をする上でも非常に重要な意味を果たし得ます。

今回の一連の出来事を通じて、憲法9条と反戦デモのリアリスティックな意義が見えてきたと思います。タンカーがホルムズ海峡を早期に通過できるようにするためには停戦が必要ですし、日本にドローンやミサイルが飛んでこないためにも停戦が必要です。デモが生活や命を守ることに直結する、非常に重みを持った行動になっているのです。

政治に声を届ける

今の高市政権に求められるのは、トランプ政権に追随することではなく、自国の産業や雇用を最優先に守ることです。そのためには、必要な場面でアメリカに「ノー」と言う姿勢が重要です。そうした姿勢は、1970年代のかつての自民党政権が持っていたものでした。日本はエネルギー安全保障を確保するために独自の外交政策を展開したのです。高市首相はその歴史を学んでいないように見えます。当時の自民党の外交政策に立ち戻るべきだと思います。政権維持のために対米依存を強めるべきではありません。

しかし、高市政権は高支持率を維持しています。これでは政治家の危機感は高まりません。支持率が下がらないのは、多くの人がイラン戦争にまつわる物価高や原材料不足を天災のように受け止めているからかもしれません。しかし、今回の出来事は明らかに「人災」です。首相のリーダーシップと行動によって事態を緩和することは十分に可能です。にもかかわらず高市首相は官邸に閉じこもったまま実効的な動きを取れていません。こうした状況が見えにくい背景には、他国首脳の動向が日本国内で十分に報じられていないという報道の問題もあると考えています。

事態を打開するためには私たちが抗議行動などを通じて困っていることをアピールしていくしかありません。それが報道され、政治家に伝わることで政治の動きも変わっていきます。

労働組合は、現場で困っている労働者の声を積極的に可視化してほしいと思います。アピール行動で働く人の声が見えることはとても重要です。そうした機会を使って労働組合の意義をアピールすることも重要です。困っている人の声をすくい上げ、今回の動きを労働組合の組織拡大につなげてほしいと思います。

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