カスタマーハラスメントから労働者を守る
防止措置義務施行に向けた対応のポイント知っておきたいカスハラ防止措置のポイント
カスハラの範囲や加害者への対応を確認


法改正の経緯
カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)の防止措置を事業主に義務付ける労働施策総合推進法の改正(以下、改正労推法)が、2025年6月に成立しました。厚生労働省が2024年に公表した実態調査によると、過去3年間に勤務先で「顧客等からの著しい迷惑行為」(カスハラ)を経験した労働者は10.8%に上る一方、対策を講じていない企業が半数以上に及んでおり、対策が求められる社会問題となっていました。
改正労推法は、企業に対してカスハラの防止措置義務を定める一方、具体的な取り組み内容は厚生労働省の指針で定めるとしていました。その指針が2026年2月26日に公表され、改正労推法と同じく今年10月1日から施行されることが決まりました。企業は施行に向けて指針に沿った取り組みをすることが求められます。労働組合としても、指針の内容をフォローして、企業とともに対策を進めることが望ましいと言えます。
カスハラの定義とポイント
改正労推法と指針を理解するポイントは、カスハラの定義と防止措置義務の内容にあります。まず、カスハラの定義から見ていきましょう。
カスハラというと、いわゆる「お客さん」からのハラスメントを一般的にイメージしますが、法律の対象はそれだけにとどまりません。指針ではカスハラを「職場において行われる(1)顧客等の言動であって、(2)その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素をすべて満たすもの」と定義しています。
ここでのポイントは、「顧客等」の「等」の部分です。この「等」には「取引先の担当者」や「施設の近隣住民」などが含まれます。
まず「取引先の担当者」が含まれるということは、いわゆる「B to C」の関係だけではなく、「B to B」の関係で生じるカスハラも防止措置義務の対象に含まれるということです。
次に「施設の近隣住民」ですが、これは取引関係のある当事者以外もカスハラの行為者に含まれることを指しています。例えば、情報労連の組合員が働く職場の場合、通信建設の工事をしていて近隣住民から暴言を浴びせられたとか、長時間の叱責を受けたということがあれば、それは防止措置義務の対象となるカスハラに含まれ得ることを意味しています。また、指針には「施設・サービスの利用者及びその家族」も例示されています。例えば訪問介護先で利用者の家族からカスハラを受けた場合も、防止措置義務の対象になるということです。このように、今回の法改正では、一般的なイメージでいう顧客からだけではなく、取引先や、契約とは直接関係のない人からの行為もカスハラに含まれるという点を押さえておく必要があります。
何がカスハラになるのか?
では、どのような行為がカスハラにあたるのでしょうか。詳しくは、先ほど挙げた指針を参照していただくとして、ポイントとなるのは、「言動の内容」と「手段と態様」です。
「言動の内容」は、いわゆる不当な要求のことで、「手段と態様」とはつまり態度のことを指します。例えば身体的な攻撃や精神的な攻撃、威圧的な行動などがそれに含まれます。このように「言動の内容」と「手段と態様」に着目して、社会通念上、許容される限度を超えたもので労働者の働く環境が害されるようなものが、カスハラということです。
なお、「働く環境が害される」とは物理的な阻害行為だけにとどまらず、精神的な負担も含め、幅広い内容が含まれます。また、悪質な行為であれば1回の行為でもカスハラに当たることがあります。自社において、顧客等のどのような行為がカスハラに該当しそうなのか、あらかじめ検討しておくことが大切です。
防止措置義務のポイント
こうした行為に対して、企業にはどのような防止措置義務が課されたのでしょうか。まず基本的な対応は次の4点にまとめることができます。
一つ目は、方針の明確化と周知・啓発です。ここでは企業としてカスハラに対して毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化することが求められます。その上で、その方針を労働者に周知・啓発することが求められます。どのようなカスハラが生じるのかは企業や部署によって異なるため、現場の実態に沿って自社ではどのような行為がカスハラに当たるのかを明確化し、従業員に周知したり、研修などの啓発活動をしたりすることが必要です。
二つ目は、相談体制の整備です。他のハラスメントへの防止措置と同様、相談窓口を設置するなどの対応を取る必要があります。
三つ目は、発生時の迅速・適切な対応です。カスハラが発生した場合、迅速に事実関係を確認し、被害者へのフォローを行い、必要に応じ再発防止の措置を取る必要があります。
四つ目が、プライバシー等を保護すること、そして、カスハラの相談をしたことを理由に不利益な取り扱いを受けることがない旨を周知・啓発することで、これらも防止措置義務に含まれています。
こうした取り組みは、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントの防止措置義務でも課されているので、その延長線上で対応できる企業もあるはずです。
加害者に対する対応
他方、カスハラ特有の課題は、行為者(加害者)が企業の外部にいることです。企業は外部にいる行為者に対してどのように対応すればよいでしょうか。
指針では次のように定めています。まず、行為者が他の企業に所属する「B to B」の場合です。この場合、指針では、「必要に応じて他の事業主に事実関係の確認への協力を求めること」を防止措置義務の中に明記しています。つまり、被害者側の企業は、必要に応じて行為者のいる企業に協力を求めなければなりません。「加害者が取引先にいるから何もできない」といった対応は許されないことを確認しておく必要があります。
一方、行為者が所属する企業は、協力を求められた場合、事実確認等に協力する努力義務があります。義務ではありませんが、協力を求められた場合の対応を検討しておくべきでしょう。
行為者が一般の消費者等である場合は、こうした対応はできません。今回の指針では、特に悪質な行為に関して、対処できる体制をあらかじめ整備するよう求めています。具体的には、警告文の発出や警察への通報、いわゆる「出禁」といった対処です。こうした対応はすぐにはできないため、あらかじめ体制を整備するよう求める措置だといえます。
労働組合に望まれる対応
防止措置義務そのものではありませんが、今回の指針には「望ましい取り組み」も明記されています。具体的には、「顧客対応力の向上」「行為者になることの防止」「フリーランス等への対応」です。特に「行為者になることの防止」に関しては、自社の従業員が他社の従業員にカスハラをしないように周知・啓発することが望ましいとされています。
加えて、「望ましい取り組み」には、労働組合との意見交換も含まれています。労働組合が現場の声を聞いて会社に伝えながら、労使で対策を進めることがまさに望ましいと言えます。
今回の法改正と指針の内容は、カスハラへの対応として当面求められる内容を満たしていると考えられます。まずは実効性ある対策に向けて、労使が協力して取り組んでいくことが重要です。
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