存立危機事態発言を巡る論調に寄せて
安青錦関の九州場所での栄えある優勝は、ただ一人の勝利にとどまらない。困難の中にあるウクライナの人々にとって、未来への明るい希望となったことをうれしく思う。国際社会の連帯による早期の停戦と平和的な解決を望む。
一方で、高市総理の「存立危機事態」に関する発言は中国側の強い反発を招き、日中関係は急速に緊張を増している。SNSや一部のネット世論では「質問者が悪い」という意見も広がっているが、信頼性ある世論調査や主要紙の論調を見ると賛否は分かれており、この見方が支配的であるとは言えない。さらに非核三原則の見直しに関する持論・発言も注目を集め、被爆者団体などから懸念の声が上がっている。
賛否が分かれる中で重要なのは、発言の真意や背景を冷静に検証し、国民的な議論を深めることである。高い支持率に支えられた発言であっても、国際社会との関係や未来への影響を見据え、問い直す姿勢こそが民主主義にふさわしい態度であると考える。
では、野党の役割とは何か。吉田徹著『野党論』では、与党を「権力にあずかっている党」、野党を「在野にある党」と定義した上で、野党の三つの機能を示している。
1.異議申し立て:与党が法や倫理に反する権力行使をしていないか、少数派の不利益になることをしていないかを監視し、適切な権力の使い方をチェックする役割である。
2.争点の明確化:与党の政策に問題がある場合、別の方法で目的を達成できないかを提示し、その目的自体が正しいのかを問い直す。こうして政治的課題を争点化し、有権者に問う役割である。
3.「民意の残余」の代表:選挙で形成された民意は一時的なものであり、すべてをくみ尽くすものではない。そこから漏れた声や少数派の意見を代表することが、野党にとって大切な役割である。
私は「健全な野党」が不可欠であると考える。だが、多党化した野党が党利党略的な政策論議に終始するならば、果たしてこの三つの機能を十分に果たせるのか、危惧するところである。
対話を組織の力に
さて、話題を変えるが、連合総研レポート『DIO』(2025年10月号No.412)の特集「今こそ“対話”を組織の力に」を読んだ。ぜひ、一読をおすすめしたい。
昨今「対話が重要だ」と異口同音に聞こえてくる。しかし、働き方の変化や日々慌ただしい中で本質的な「対話」が実践できていないように感じている。この特集では「対話とは単に言葉を交わすことではない。互いの世界に理解と共感の橋を架けるプロセスである。対話が息づく組織では、違いは壁でなく可能性として受け止められ、新たな気づきと創造の源となる」と示唆している。
ILO(国際労働機関)が重視する「社会対話(Social Dialogue)」という概念がある。グローバル化・技術革新・少子高齢化など社会構造が急速に変化する中、持続可能で包摂的な社会を築くための「対話」が不可欠だという考え方である。労使や政府、市民社会など多様な主体が対等に意見を交わし、合意形成や問題解決をめざす営みを指す言葉である。
「対話」は、予測困難で不確実性の高い“VUCA”の時代において欠かせない社会的・国際的な営みである。私たちの組織にとっても重要な営みであり、今後、皆さんとともに「対話」について考えを深めていきたい。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

