特集2026.03

2026春闘の要求実現へ──(1)価格転嫁の実効性を高め
すべての働く仲間の賃上げへ

2026/03/13
賃上げ実現の一方で、実質賃金の改善や企業規模間格差の是正には課題が残っている。価格転嫁の実効性を高め、サプライチェーン全体で付加価値の適正分配を実現する取り組みが求められている。
齋藤 久子 情報労連中央執行委員

賃上げの前進と
いまだ残る構造的課題

近年の賃上げ状況を連合集計ベースで確認すると、2023年に29年ぶりに3%台を達成した後、2024年・2025年には5%を超える水準を達成しています。しかしながら、賃金の伸びは物価上昇に追い付かず、生活水準の向上を実感できる状況には至っていません。また、2025年の中小組合の賃上げ率は4.62%と全体平均を0.6ポイント下回り、企業規模間格差は2023年以降拡大に転じるなど、賃上げの広がりにはなお課題が残されています。

その背景には、日本の労働者の約7割が働く中小企業において、賃上げの原資となる価格転嫁が十分に進んでいないという構造的な課題があります。中小企業を含む、あらゆる働く仲間の適正な賃上げなくしては、社会全体で実質賃金のプラス転換を実現し、経済・物価・賃金が安定的に上昇する社会を実現することはできません。

「人への投資」と産業基盤の持続性

人手不足が深刻化する中で、企業が人材を確保・定着させ、持続的に成長していくためには、賃上げをはじめ、人材育成や安心して働くことのできる労働環境の整備といった「人への投資」を可能にする原資を、いかに確保するかが極めて重要です。こうした「人への投資」こそが、生産性向上や付加価値の創出を持続的に支える不可欠な基盤となります。

経団連においても「中小企業では業績改善を伴わない形で賃上げが実施された側面が強い」と指摘されており、生み出した価値を適切に価格へ反映できなければ、中小企業の経営の持続性そのものが揺らぎかねません。

また、大企業の競争力が、取引先である中小企業の技術力や品質に支えられていることを踏まえれば、適正な価格転嫁を通じて中小企業の賃上げ余力を高めていくことは、大企業自身にとっても、産業基盤を将来にわたって維持・強化していくための極めて重要な取り組みです。

問われる実効性の課題

政府においても『パートナーシップ構築宣言』への参画拡大をはじめ、『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』や価格転嫁に関する好事例の展開、さらには2026年1月施行の中小受託取引適正化法(取適法)など、適正取引を後押しする制度整備が進められてきました。しかし、これらがただちに現場で実効性を持っているとは言い難い状況にあります。政府調査では、指針の認知は約6割、価格転嫁率は5割程度にとどまるとともに、情報労連の中小加盟組合からも、「価格転嫁を申し入れてもなかなか受け入れてもらえず、コストアップを自社で吸収せざるを得ない」といった声が寄せられています。経営層から調達・営業といった取引現場に至るまで、サプライチェーン全体で生み出された付加価値の適正分配を念頭に、適正な価格転嫁の趣旨を十分に浸透させ、その実効性を一層高めていく必要があります。

現場を起点とした労働組合の取り組み

こうした分配構造の転換は、取引慣行や発注構造に根差したサプライチェーン全体の課題であり、個々の企業内の労使関係だけで完結できるものではありません。受注企業、とりわけ取引段階が重なる立場にあるほど、交渉力の差から価格交渉を申し入れにくい現実があります。だからこそ、その前提を踏まえた上で、これまで形成されてきた商慣行・取引慣行も含め、付加価値の適正分配を産業全体の共通課題として捉え、重層的に取り組んでいく必要があります。

その上で重要となるのが、こうした議論や取り組みの出発点として、現場の実態がどうなっているのかを丁寧に把握することにほかなりません。個別企業の労使が、受発注双方の立場から自社を取り巻く取引慣行や価格設定のあり方に目を向け、適正取引に向けた具体的な取り組みを進めるとともに、個社の枠を超える課題については、その実態を情報労連にも寄せていただくことが、産業全体での問題共有を深め、取引慣行の見直しを前に進めることとなります。

情報労連では今次春闘において、すべての加盟組合における労使対話を通じ、価格転嫁の促進に取り組むこととしています。現場を最もよく知る労使が主体的に取り組めるよう、価格転嫁に関する基本的な考え方や、労使で確認すべきポイントをチェックリストとして盛り込んだリーフレットを作成しています。ぜひ積極的に活用いただき、情報労連としても、加盟組合とともに、解決に向けた対応を着実に進めていきたいと考えています。

〈労使で押さえておきたいポイント〉

  • パートナーシップ構築宣言が実効的に運用されているか
  • 「労務費の価格転嫁の指針」や「取引適正化法」の趣旨が現場で共有されているか
  • 原価や人件費の上昇が取引価格に適切に反映されているか
  • 顧客との価格交渉の場が確保されているか など
※詳細は、価格転嫁リーフレットに掲載しています。二次元コードからぜひご参照ください。
特集 2026.032026春闘の要求実現へ──(1)
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー