常見陽平のはたらく道2025.12

新卒一括採用を問い直す

2025/12/15
批判されることも多い新卒一括採用だが、理由があるから残っている。丁寧にみる必要がある。

このたび、『日本の就活』(岩波新書)を上梓した。就活生、人材ビジネス関係者、採用担当者、大学教員、官庁・自治体の委員などをすべて経験した私だからこそ書けた本だと自負している。就活を通じて日本社会を問う1冊である。

就活に関する話は、誰もが何かを言いたくなるものだ。就職氷河期世代に関する番組に何度か出演したが、番組に届くメールやSNS上の書き込みは普段の特集の数倍になる。理不尽な体験から武勇伝まで、何かを語りたくなるものである。

都市伝説も共有される。「◯◯大学は有利」「体育会系は有利」「スタバとマクドナルド、牛角でバイトすると高評価」「鉄道会社は鉄オタをとらない」「◯◯証券は内定を辞退するとコーヒーをかけられる」という類いの話である。この手の都市伝説、武勇伝はうそのようで、実際に存在するから怖い。私も採用担当者時代、ラップを披露する学生、フィギュアスケートのイナバウワーを決める学生と遭遇したことがある。二人は内定した。

就活ハラスメント、就活うつなど深刻な問題が起きていることも直視しなくてはならない。最近、学生からの相談で最も多いのは、オワハラ(就活終われハラスメント)だ。企業の人事担当者だけでなく、エージェントからもしつこくアプローチされるのが最近の特徴である。学生の職業選択の自由を守らなくてはならない。

ブラック企業にだまされる学生もいる。一方、最近では成長を求めて「ゾス・ザス系企業」を選ぶ学生もいて複雑な心境になる。「ありがとうございます」などをあまりに気合を入れて叫ぶので「ゾス、ザス」としか聞こえないような、ど根性営業会社のことを指す。

さまざまな批判を呼びつつも、新卒一括採用は延命してきた。いや、その廃止や崩壊が叫ばれつつも、これだけ早期から大学生が就活に取り組み、内定している時代はない。もっとも、そこにも実は合理性があるのではないかと私は見ている。未経験の若者の可能性にかける、学校から職業への間断なき移行が実現でき経済的空白期間が生まれない、組織の活性化につながるなどメリットも大きい。一斉に同じ時期に実施するのが問題となるが、それは一緒に取り組む仲間やサポートする教職員がいるのだとも言える。

新卒一括採用さえ変われば、日本社会は変わるとさえ語られてきた。果たしてそうだろうか。結局、それは仮想敵への批判の押し付けに過ぎないのではないか。もちろん、この慣行には問題もある。とはいえ、若者の可能性にかけるものであることも忘れてはならない。

新卒一括採用は、若者が未来を選択する場でもある。そういえば、大学時代、学生時代から勉強会などを主宰する明らかに優秀な同じ北海道出身の同級生がいた。ITベンチャー志望だった彼が選んだのは当時のNTTだった。「常見君、僕は、最初、一番嫌いだった企業に行くことにした。ITベンチャーよりも、世の中を変えるのはこちらだ」と彼はいま、どうしているだろうか。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
常見陽平のはたらく道
特集
トピックス
巻頭言
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー