常見陽平のはたらく道2025.07

熱中症から労働者を守れ

2025/07/14
気候変動によって猛暑日が増加し、熱中症のリスクが高まっている。働く人の健康や命にかかわる極めて重要な課題だ。

打首獄門同好会という人気ロックバンドの曲に『なつのうた』というものがある。夏の暑さをコミカルに、「あつい」と連呼し表現する。激しく同感する。百貨店のスタッフは先日、「この夏は、もはやジャケットを着るのは厳しいかもしれませんよ」と言っていた。服を売るのが仕事なのに、なんて正直なのだろう。この原稿を書いている6月下旬の時点ですでに真夏日が続いている。

地球の温暖化、いや沸騰化が続いている。私たちが幼かった頃よりも、明らかに暑くなっていないか。SF映画ではよく、都市部が砂漠と化す未来が描かれるが、もはや現実ではないか。

熱中症は立派な労働問題だ。安全・衛生面で、熱中症対策の行き届いた労働環境を求めるべきである。命にかかわる問題だ。職場での熱中症に関する注意喚起が必要なのは言うまでもないが、具体的な対策が必要だ。

屋外での作業に従事する人のために、最近は「空調服」の導入が進んでいる。「空調服」という言葉を知らない人の方がまだ多いことだろう。ミニ扇風機が内蔵された作業服のことである。自宅に配達にやってくる運送会社のスタッフが着用しているのを見たことがある人も多いことだろう。

水分を摂取できる環境づくりも必要だ。ただ、これが徹底されていないこともよくある。勤務先の大学でも夏場は自動販売機のミネラルウオーターと、無糖茶が売り切れる事態が多発している。あなたの職場でも同じようなことが起こっていないだろうか。外出を伴う仕事ももちろんだが、室内の仕事においても水分補給はマストだ。職場で経口補水液や、その代わりとなるスポーツドリンクが完備されているかどうかも確認したい。

服装の自由化もますます進めるべきだろう。約20年前にスタートしたクールビズだが、のちにスーパークールビズなど、よりライトな服装で働くムーブメントが広がってきた。東日本大震災、原発事故などによる電力不足、新型コロナウイルスショックによるリモートワークの拡大なども服装の自由化に影響を与えてきた。最近では人手・人材不足も要因となっている。服装、髪色などを制限している職場は、求職者から選ばれない。メガバンクなどでも内勤スタッフはポロシャツ、デニムなどでの勤務が広がっている。服装の自由化、スーパークールビズの推進は熱中症対策の意味もある。今後は半袖シャツ、ポロシャツだけでなく、Tシャツ勤務がどこまで広がるか、さらには半ズボンや七分丈ズボンがどこまで広がるか注目している。服装の自由化、スーパークールビズが進んでいない職場は、拡大を求めるべきだろう。

最も、根本的な問いとして、地球の温暖化・沸騰化をどうするかという問題がある。勤務先も加担していないか。企業としてどう歯止めをかけるか。若者を中心に、勤務先の企業姿勢を問う動きがある。今、話題の「静かな退職」つまり、退職はしないものの、必要最低限の仕事しかしない働き方の背景には、勤務先企業が社会の問題に加担してしまっていることへの失望がある。

ワーク・ライフ・バランス重視というが、熱中症対策は、充実した豊かな生活のその前に、生きるか死ぬかという生命にかかわる意味でのライフの話である。さらには、今後、地球をどうするかという壮大な話ともつながる。労働者として、立ち止まって考えたい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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