トピックス2025.10

女性組合リーダー座談会女性組合役員の参加拡大へ
キャリア形成支援が重要
新たなリーダー像を切り開く

2025/10/14
労働組合の女性リーダーが増えている。組合活動への女性の参画をさらに進めるために何が必要なのか。組合活動のやりがいとは何か。女性組合リーダーたちが語り合った。
大方 幹子 情報労連副中央執行委員長 浦 早苗 KDDI労働組合中央執行委員長
(情報労連副中央執行委員長) 野村 真理子 情報労連四国ブロック支部事務局長 司会 齋藤 久子 情報労連中央執行委員

組合役員としてのキャリア形成

齋藤組合活動を始めたきっかけと、これまで歩んできたキャリアについて教えてください。

大方入社3年目のとき、労働組合のレク活動に参加したのが組合活動を始めたきっかけです。女性の少ない職場だったので女性の先輩から分会役員のバトンを引き継ぎました。その後、総支部の役員になった際は、「組合の仕事が合わなければ職場に戻ればいい」くらいの気持ちで引き受けましたが、やってみたらすごく「はまり」ました。楽しい仕事だったので、今に続いています。

労働組合では、苦手な活動も含め引き受けてきました。特にオルグ活動(説明会)は大変でしたが、自分のやりたいことだけを選んでいたら、今のキャリアはなかったと思います。その意味でいい経験でした。

野村NTT労働組合の香川県支部で1期2年間、支部役員を務めた後、松山で分会役員を3期務めました。そのあとは会社にいったん戻り、10年ほど一組合員として仕事をしました。それから先輩に声をかけられて四国総支部で4期8年間、副委員長も含めて、いろいろな仕事を経験させてもらいました。今年8月から情報労連四国ブロック支部の事務局長になりました。

入社2年目のときに平和行動に参加したのですが、それが組合活動に取り組む一つのきっかけになっています。

会社の植林ボランティアに参加した際、当時の組合役員の人に「楽しそうですね」と声をかけたら、それが「労働組合って楽しそうですね」と脳内で変換されたみたいで(笑)。それがきっかけで後日、支部の役員の人と食事をすることになり。話をしてみると、良い人だったのでやってみようかなと。

その後、支部の執行委員を3年間勤め、KDDI中央本部に行き、情報労連本部で8年間お世話になりました。2023年に副委員長としてKDDI労働組合に戻り、今年7月に委員長になりました。

齋藤皆さん、今のポジションになるまでにキーパーソンがいるんですね。労働組合にとって人とのつながりが大切なことがわかるエピソードです。

組合活動のやりがいは?

齋藤組合活動を通じて、自分の原動力になったことは何ですか?

大方自分にとっての原動力というより、組織にとっての原動力という意味では、オルグ活動です。職場でのオルグ活動は、個人的には一番大変な仕事で、苦い思い出も多いですが、労働組合が組織として成り立つために不可欠の活動だと今は思います。当時の上司は積極的に外に出してくれました。組織の原動力がどこにあるのかを教えてもらいました。

野村自分で企画したイベントやレクリエーションに対して、組合員の皆さんが楽しかったとか、また参加したいと言ってくれたときは、次も頑張ろうという気持ちになります。最近の一番のやりがいは「吉川さおり」の取り組みでした。吉川さんが四国出身なので地元のみんなで一致団結して頑張りました。いい結果が出てよかったです。

労働組合の活動って、新鮮で楽しいですよね。会社で働いているだけでは経験できないことをたくさん経験できました。組合活動の原体験は、支部時代に育児短時間で働く組合員の時間外労働に関して会社と交渉したことです。交渉相手は、普段は職場の上司と部下の関係ですが、そのときは会社と労働組合の代表者という対等な立場になりました。関係性の変化や、労働組合の役割のすごさを実感しました。

大方労働組合は、会社とは違う経験ができますよね。労働組合役員になって平和運動の企画を最初に任されたときは、やりがいを感じました。上司は失敗してもいいという姿勢でサポートしてくれて、自分のやりたいことが形になるという実感がありました。

野村労働組合の活動は、会社の仕事よりも自由度が高いですよね。自分で考えないといけない部分もありますが、それもやりがいになります。そのアウトプットを組合員の皆さんに喜んでもらえたり、次の世代に引き継いでいけたりすると、とてもうれしい気持ちになります。

皆さんと同じ感覚です。会社は組織が大きいからこそ分業が進んで個人に任される範囲がある程度限られますが、労働組合の守備範囲はとても広いので、何でもできます。いわば「ブルーオーシャン」です。ルーティンを破って新しいことに取り組む姿勢が評価されるのも、労働組合のいいところですね。

齋藤労働組合は外から見ると堅苦しそうに見えますが、中に入ってみるとそうでもないということでしょうか。

大方労働組合は会社よりも遅れているところもあるし、そこに目を向けるとやりたいことができないと感じてしまうかもしれません。一方、任される仕事の裁量の幅は大きくて、自分の好きなようにできるという自由度は高いと思います。そこに目を向けるとやりがいを感じてもらえると思います。

女性参画を広げるには?

齋藤組合活動にやりがいを感じてきた一方、女性の労働組合参画に対して感じてきた課題はありますか。

大方女性の組合役員が増えないのは「食わず嫌い」なところもあるのかもしれません。やってみると私のように「はまる」人もたくさんいると思います。労働組合にかかわるきっかけづくりが大切だと思います。

特に専従の組合役員になると職場でのキャリアをいったん置いて組合に来る必要があります。その際の不安を解消できるような良い材料があるといいと思います。例えば、労働組合の経験が会社のキャリアの一環として認められるようにすることも「あり」だと思います。

齋藤会社にとっても労働組合の経験が役に立つということですよね。

大方会社でキャリアを積むための一つの選択肢として労働組合があるといいですね。そういう選択肢があると女性が活躍する幅も増えると思います。

齋藤女性の組合参画のためには、仕事と生活の両立という視点だけではなく、キャリア形成という視点の支援が重要ということですね。

野村さんは組合役員を経験してから職場に戻っています。組合の経験は役に立ちましたか?

野村若いうちに労働組合を経験させてもらったので、仕事だけでは知り得ない会社の情報に触れることができ、視野が広がりました。会社の仕事にも役立ちました。

労働組合での活動を評価してもらって会社に戻る人がいることも考えると、それはキャリアの中断とはいえませんよね。会社の仕事も管理的な業務が増える中で、マネジメント的な仕事を労働組合で経験するのは、会社でのコアスキルにもなるはずです。

大方イベントの企画や、人の回し、会社対応といった経験は、職場でもかなり重要なスキルになります。会社がその経験をキャリアとして認めてくれれば、女性が労働組合に参加する間口が広がります。そういう関係性をつくりたいですね。

労働組合役員に求められるコミュニケーションスキルやマネジメントスキルは、会社の評価制度でもコアスキルの一つですからね。労働組合のキャリアは、会社でのキャリア形成の近道になると思います。だから労働組合での経験を前向きに捉えてもらえるよう、どんどんアピールしていきたいですね。

野村人材登用のタイミングも大切だと思います。会社の同期が管理者登用に声をかけられた際、最初は「まだ時期ではない」と断ったのですが、数年後に再び声をかけられたときは「今なら挑戦してみよう」と思えたと言っていました。声をかけ続けることや、長いスパンでキャリアを見守ることも大切だと感じました。

ダイバーシティーの課題

齋藤ダイバーシティー施策を進める上での課題はありますか。

組合内でダイバーシティーに関する議論をしています。大学の先生に“To find a solution nobody loves, but everyone accepts”という言葉を教えてもらいました。「誰も愛さないけど、誰もが受け入れる解決策を見いだそう」という意味ですが、異なる立場や価値観があることを受け止めた上で、対話を重ねながら、何とかみんなが受け入れられる解決策を模索する組織になりたいと考えています。

大方昔のように一つの目標に向かって頑張ろうという時代ではなくなっている中で、みんなが納得する答えを見つけるのが難しくなっていますね。

「男女平等」以外の言葉で問題を語るべきという声もありますが、男女間格差はいまだに残っています。どう言葉にすればいいか頭を悩ませています。

最近は、言葉の奥深さをあらためて感じます。同じ言葉でも、その人の体感や経験、規範、文化等の違いによって伝わり方が違いますし、男女間でも言葉の持つ重みや受け止め方が異なります。対話を繰り返してようやく伝わることもあれば、体感して初めてわかることもあります。例えば、女性ばかりの職場に男性が一人だけになったときの感覚とか。これまで労働組合の女性は逆の立場でした。

齋藤すごく共感します。対話をしていて、自分には知り得ないことが相手にはあると想像する力があるかどうかですよね。立場の違う人が集まるからこそ、相手の立場を想像する力が育つのではないかと思います。その意味で、ダイバーシティー施策が重要になるし、労働組合の人材にも多様性が求められるのだと思います。

大方以前に、実家の母親から、「あんたの思考方法って男っぽい」と言われたことが結構ショックで。労働組合で仕事をする中でいつの間にかそうなってしまったのかもしれません。自分を振り返るきっかけになりました。

一つのコミュニティーの中にずっといると「同質化」してしまうこともありますよね。でも、そういうことを気に留めているだけでも意識に違いが生まれると思います。

野村お二人の話を聞いていて、相手の立場や背景を想像して対話することの大切さをあらためて感じました。

「クオータ制」と組織の変化

大方齋藤さんは、「クオータ制」導入の旗振り役になり、女性役員を選出する仕組みづくりをけん引してくれました。すごいと思います。

齋藤仕組みをつくる上では各組織のトップのリーダーシップがとても大切だと体感しました。担当一人の力ではとてもできませんでした。

野村女性特別中央執行委員に選出された仲間もとてもやる気になっています。仕組みをつくってくれたおかげで人材の押し上げ効果があると思います。

大方情報労連の中央本部も女性比率が上がったし、どう変わっていくか楽しみですね。

齋藤副委員長4人のうち2人が女性だし、ブロック支部事務局長も女性が9人中3人になりました。「長」のつくポジションに女性がこれだけ就いているということは、それだけで勇気がもらえます。

野村私の出身の四国総支部は、事務局の女性比率が5割を超え、景色がだいぶ変わりました。

齋藤女性の組合役員が増えたからといって、数値的な明確な効果はすぐに出ないかもしれません。でも、例えば、今まで伝わりづらかった言葉をわかってくれそうな人が増えるとか、相談できる人が増えるとか、目に見えづらいところで変化が起きると思います。例えば生理のような女性特有の課題もあります。組織が多様であることが、相談の間口を広げてくれると思います。

労働組合の「働き方改革」

齋藤KDDI労組では、労働組合の働き方改革も進めようとしていると聞きました。

まさにそれが当面の課題です。どうしたら組合活動に参加しやすい態勢をつくれるのか、試行錯誤しています。例えば限られた時間や離れた場所からでも可能な組合活動への参加のあり方などを考えています。

齋藤浦さんが情報労連本部にいたときに、春闘の議案書に男女間賃金格差の問題を明記してくれました。「同一価値労働同一賃金」の学習会を開催したり。浦さんじゃなかったら実現できなかったと思います。

めざすべき姿をどんどん言葉にしていきたいと思います。

新たなリーダーシップ像

齋藤最後に今後に向けての抱負を教えてください。

野村ブロック支部事務局長になってまだ3週間で勉強することばかりです。「情報労連があってよかった」と思ってもらえる組織にしていきたいです。そのためには情報発信をしっかりして、ひざ詰めで率直に話し合って、組合の魅力を感じてもらえるようにしたいですね。

大方優秀な先輩たちの跡を継ぐことにはプレッシャーがあります。でも先輩たちと同じようにしなくてはいけないと考えないようにしました。いろいろなリーダーシップの形があっていいのかなと思っていて、みんながやりたいということに「ノー」と言わず、前に進めていければいいのかなと思っています。

私もこれまでのトップのようなタイプではありません。私のようなタイプのトップがいてもいいと体感できる組織にしたいです。自分一人の力では組織を回すことはできません。周りのみんなは、とても優秀で支えてもらっています。何事も「やってみようよ」ということは声を大にして言いたいですね。

齋藤労働組合に女性のトップリーダーというロールモデルが少なかった中で、これまでとは違うリーダーシップ像を示すことはとても大切だと思います。それが次の世代の新しい選択肢につながるのだと思います。

大方あの人にもできるのなら私にもできると思ってもらえたら、それでいいのかなと思うようにしています。

そうですね。こういうリーダーもいるよってことを示せればいいのかな。

齋藤新しい道を切り開いている皆さんはとてもかっこいいです。本日はありがとうございました。

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