トピックス2024.12

自公過半数割れで
今後の政治は
どうなる?
「1強多弱」から「2強多弱」へ
国会で力を増した立憲民主
「熟議」で力を示すことが王道

2024/12/16
衆議院選挙の結果、少数与党に転落した自民党。その中で、立憲民主党と国民民主党の行動に注目が集まる。両党のアプローチは正反対だ。国会の中で真正面から論戦するのか、「事前協議」の枠組みに収まろうとするのか。政治を変えることのできるのはどちらか。
衆院選で国会の勢力図が変化した(写真:リュウタ/PIXTA)
尾中 香尚里 ジャーナリスト
元毎日新聞編集委員

「2強多弱」がミソ

今回の衆院選で、連立政権を組む自民、公明両党が過半数を割って「少数与党」となり、野党第1党の立憲民主党が大きく躍進した。国政は「1強多弱」の時代がようやく幕を下ろし「2強多弱」の時代へと移った。単なる「2大政党」ではなく「2強多弱」であることがミソだ。

2012年に民主党が下野し、第2次安倍政権が発足して以降、「1強」の自民党は公明党との事前協議と閣議決定ですべての意思決定を済ませ、国会の議論を軽視してきた。野党は「どんぐりの背比べ」状態のまま「1強」にひたすら抵抗するしかなかった。だが自民党は、安倍氏の死去(2022年)で求心力を失ったことに加え、裏金問題で国民の大きな批判を受け、今回の衆院選でついに少数与党に転落した。

その結果注目されているのが、躍進で「2強」の一翼を占めた立憲民主党と、「多弱」の中で議席を伸ばしキャスティングボートを握った国民民主党だ。連合の支援を受ける二つの政党が、まったく別の方向から政治への影響力を持ち始めた。

国会での意思決定を取り戻す立憲

結論から申し述べたい。「自公政治にどう影響力を及ぼすか」という点においては、立憲民主党のアプローチの方が正しいと思う。

立憲民主党は今回の議席増で、国会での発言力が大きく増した。政治全般の問題を扱う予算委員会をはじめ、衆院で多くの委員長ポストを勝ち取ったのだ。閣僚人事が注目されたことは多々あったが、野党の委員長人事が大きなニュースになったのは、過去にほとんど例がないのではないか。

立憲はその気になれば、少数与党との事前協議によって政治を動かすことも可能だ。しかし、野田佳彦代表は、あえてその道を取ろうとはしなかった。政治の意思決定の場を国会という「平場」に戻そうとしているのだ。例えば、立憲が法務委員長のポストを獲得したことで、棚ざらしにされてきた選択的夫婦別姓の議論を、国会で行うことが可能になるかもしれない。

この「国会で実質的な議論ができる」ことは、法案の成立以上に重要なことだと考える。立憲がなぜ選択的夫婦別姓を重視するのか。自民党(もはや一部だと思うが)はなぜ、それを蛇蝎のごとく嫌うのか。各政党がめざす国家像、社会像の違いが浮き彫りになる。議事録が残る国会で、そういう議論が行われることに期待したいのだ。

選択的夫婦別姓は、現在の自民党と立憲民主党の政治理念の違いを端的に示す課題としても最適だ。「個人より家庭を、企業を、国家の秩序を重視するヒエラルキー型の社会」をめざすのか、それとも「国家や家庭や企業を構成する個人の人権を重視するネットワーク型の社会」をめざすのか。その違いを示し、有権者に「社会像の選択肢」を与える効果がある。

立憲が獲得した憲法審査会長や、党首討論を開く国家基本問題委員長も、こうした国家像や社会像を互いにぶつけ合い、有権者に選択肢を示すのに向いたポストだ。これらのポストに枝野幸男、泉健太の両代表経験者をあてたことにも、野田氏の「本気」がうかがえる。

「事前協議の枠組みの拡大」

逆に国民民主党のアプローチは「与党の事前協議に自分も参画したい」と言っているのと同じだ。予算案や重要法案が国会に提出される前に、事前協議で自らの主張をのませる形で政策実現を図ろうとしている。

玉木雄一郎代表は「国会の新しいルールを作る」と意気込んでいる。しかし、これは単なる「事前協議の枠組みの拡大」に過ぎず、別に新しいことでもない。

国民民主党との事前協議を自民党から見れば「国民民主の案も一定程度取り入れることで、政府案に賛成させる」ことに過ぎない。事前協議の結果、国民民主党が国会での審議入り前に予算や重要法案への賛成を決めてしまうなら、結局国会審議は形骸化したままだ。

国会では時の政権与党に加わらない政党はすべて「野党」である。政策の違いは関係ない。日本維新の会も共産党も、同じ「野党」なのだ。その野党が国会の多数を占めていて、まとまれば国会の場で少数与党に自らの政策をのませることが可能であるにもかかわらず、国民民主党はその絶好の機会を利用しようとせず、ひとり自公両党との事前協議に走っている。

連立政権に加わっていなくても、これでは「与党」の振る舞いと変わらない。国民政党の行動は、自公連立政権が長く行ってきた「事前協議による政策決定」を、自らが新しい補完勢力となることで延命させること、つまり「古い政治の温存」に過ぎないことに気付いてほしい。

野党第1党としての王道

国民民主党は2020年、立憲民主党への「合流組」(泉前代表もその一人だ)と、玉木氏ら「居残り組」に分裂し、その後も「野党寄り」の前原誠司氏らの離党を招いた。残された現在の国民民主党は、立憲への「逆張り」が自己目的化し、各種世論調査を見る限り、支持層もそのスタンスに沿った形で入れ替わりが進んでいるようだ。

基本政策の面でも、両党の差は大きくなりつつある。なるほど「手取りを増やす」と言われれば、反対する国民はほとんどいないだろう。だが「それをどんな方法で実現するか」は、その政党の「めざす社会像」に直結する。ここで詳しくは触れないが、少なくとも「給付」重視の立憲民主党と「減税」重視の国民民主党では、最終的にめざす社会像は真逆と言ってもいい。

本稿の脱稿直前、国民民主党が政府の総合経済対策案について「大筋で了承した」との一報が届いた。焦点の「103万円の壁引き上げ」について「税制改正で検討する」と先送りした対策案を、どうやら受け入れるらしい。

国民民主党は首相指名選挙で「無効票」を投じて石破政権の継続を後押ししたのに続き、補正予算も国会提出前に賛成を決めるのか。国会での与野党の議論で補正予算案がより良い内容に修正される可能性を、自ら捨ててしまうのか。過去には与党にすり寄るいくつもの「第三極」政党が、党勢を衰退させ消えていったが、同党も同じ道をたどろうというのか。

どんなにメディアがこういう政党をもてはやしても、立憲民主党は動じることなく、野党第1党としての王道を歩むべきだ。事前に与党と手を握る形ではなく、国会での「熟議」の力を見せてほしい。「野党が力を増せば国会が変わり、政治が変わる」ことを、今こそ国民に感じさせてほしい。それが来年の参院選、ひいては次の衆院選でのさらなる躍進につながると思う。

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