トピックス2024.08-09

組織内「吉川さおり」参議院議員インタビュー議会の知恵と先例をフル活用
議論を重視する議会人
「吉川さおり」議員の信念

2024/08/19
2007年の初当選から3期17年間、国会議員として活躍してきた「吉川さおり」議員。その仕事ぶりは、「党派を超えた国会運営の要」と評されるほど。議院運営の仕事に対する思いなどを本人に聞いた。そこには議会人としての信念があった。
吉川 さおり 参議院議員

議院運営という仕事

「吉川さんは党派を超えた国会運営の要」「吉川さんがいない参議院は想像できない」

弊誌2024年7月号では、X(旧ツイッター)などで国会情報を発信する国会ウオッチャーの3人に情報労連組織内議員「吉川さおり」の魅力を聞いた。3人が口をそろえて語ったのは、冒頭の発言のように吉川議員が参議院の議院運営において欠かせない存在になっているということだった。

吉川議員が総務委員会に続いて長く所属する議院運営委員会は、「縁の下の力持ち」的存在だ。テレビ中継される予算委員会と違って、正直目立たない。議院運営をしたくて国会議員になる人はいないともいわれる(国会ウオッチャー談)。しかし、議院運営委員会は、国会の環境を整えるために不可欠な存在だ。国会ひいてはこの国の民主主義にとってなくてはならない存在なのだ。

吉川議員が、参議院議院運営委員会の筆頭理事に就任したのは初当選から約9年が経過した2016年のこと。吉川議員もこの仕事に初めから取り組もうと思っていたわけではない。しかし興味はあった。吉川議員が国政を志したのは、国会でつくられる法律が、自分たちの仕事や生活に直結していると学生時代のアルバイトや社会人生活を通じて実感したからだった。議院運営の仕事は、法律をつくる議論の場を整えることだ。そこにやりがいがあった。

「どんなにいい政策をつくったとしても、それを法律にしようとしたら、話し合いを通じて妥協点を探し、落としどころをつくる必要があります。そのプロセスを形にするのは議院運営の仕事の一つです」と吉川議員は語る。

議会の先例をフル活用

国会とはいわば、これ以上ない議論の場である。国会では国民の代表者が集い、さまざまな立場から議論が交わされる。そこでの議論は国の行く末を左右する。利害がぶつかり合う激しい議論の場で合意形成を図るのは容易ではない。そこで重要な役割を果たすのが、議会の先人たちが積み重ねてきた知恵と先例である。

「時代に合わせて見直すことはもちろん必要ですが、合意形成を図る際に先人の知恵や積み重ねを尊重することは大事です」と吉川議員。その理由を参議院の資料を使いながら次のように説明する。

「公務における前例踏襲は批判の対象となることもありますが、多様な考えを持つ議員が集まる国会では、先例を尊重することが議院の運営を円滑に行うための知恵なのです。議会制民主主義自体が人類の長年にわたる経験や先例の積み重ねであるとも言えます」。つまり、多様な人が、さまざまな利害の下で議論する国会だからこそ、その合意形成を重ねてきた先例が重要になるのである。

吉川議員は、議会の先例をフル活用して、国会議員としての責務を果たそうとしてきた。例えば、与党が強引な手法で法案を通そうとしたら、それに議会の先例を使って議論の場を作ってきた。

具体的には、次のようなこともあった。共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法の改正案を審議していたときのこと。与党側が、委員会での議論や採決を省略して、唐突に本会議での採決を提案してきた。吉川議員は、議会の先例を用いつつ、与党側の提案に反対した。

「戦前の帝国議会では、『本会議中心主義』が採用されており、ほとんどの法案が本会議で議論されていました。しかし戦後は『委員会中心主義』となり、総務委員会や厚生労働委員会のような専門委員会で議論した結果を本会議で採決するという仕組みになりました」

「委員会の採決を省略して本会議で採決する仕組みはあります。中間報告という制度です。この仕組みは、例えば、臓器移植法のように生命倫理にかかわる課題などで使われます。しかし、共謀罪の場合は違います。にもかかわらず与党が強引に本会議での採決を提案してきたため、『委員会中心主義』の観点から問題点を指摘し、解任決議案などの手段を使って対抗しました」

決議案や本会議での異例の法案質疑などが徹夜で行われ、翌朝になり結局可決されてしまった。だが会議録には議論の過程が残った。

「与党が議会制民主主義を無視して世論を二分するような法案を強引に法案を通そうとするなら、せめて記録に残すべきだという考えで議会運営に当たっています。それをしなければ国会が問題のある法案を議論もせず、通してしまったことになります。国民の代表者が集まっているのに何の議論もしないのでは、将来も含めて国民への説明責任を果たすことができません」

議論の大切さを訴える

議会の先例は、話し合いを進めるためにも役に立つ。

「単に議論しましょうと呼び掛けるだけでは相手も反応しません。先例にのっとって、こういう場合にはこういう場で議論できると具体的に提案した方が相手もこちらの提案に乗りやすくなります。だから先例を知っているのといないのでは大きな違いがあります」と吉川議員。

吉川議員は、国会ウオッチャーも認める議会の先例に精通するエキスパートだ。だから吉川議員がいると話し合いが前に進みやすくなる。吉川議員が「国会運営の要」と呼ばれるゆえんだ。

吉川議員は、先例の大切さに加え、議論の大切さについて次のように話す。

「国会での議論が無駄だという人もいますが、それがなければ選挙で勝った側が提案する法案がすべてそのまま法律になってしまいます。果たしてそれでいいのでしょうか。国会は議論を通じて法律の問題や運用上の課題を明らかにするためにあります。国会できちんと議論できる環境をつくることは、問題や課題のある法案をそのままにしないためにも非常に重要です」

こうした観点から吉川議員は、国会での議論が近年、軽視される傾向を心配している。具体的な例の一つが、「束ね法案」である。いくつもの法律をまとめて議論する「束ね法案」は、一つひとつの法案に対する議論が薄くなりがちだ。吉川議員は、政府の「束ね法案」が国会審議を形骸化するものとして厳に慎むよう、2016年の質問主意書から質問を重ね、2018年の本会議で演説した。この演説は読売新聞の特集記事にも取り上げられた(2018年12月17日朝刊)。

もう一つは、法案の条文に誤字のようなミスが増えていることだ。吉川議員は、「失われた30年で『官から民へ』の移行が過度に進み過ぎて業務量に応じた必要な人員を確保できていない」と訴える。

議会人としての信念

吉川議員がめざすのは、今よりもっと緊張感ある政治だ。そのためには与党と野党の議席差を縮める必要がある。

さらに吉川議員の原動力の一つは、議会制民主主義を体現することだ。私たちの仕事や暮らしにかかわる法律をつくるために、議会での先例や議論を大切にしながら、合意形成を図っていく。こうした議会人としての姿勢が、「参議院を体現している人」という国会ウオッチャーからの評価にもつながっている。

議院運営の仕事は、「縁の下の力持ち」的存在ではある。この仕事を担う議員がいるからこそ、日本の議会制民主主義が保たれている。吉川議員は、その仕事に強い信念を持ちつつ、私たちの代表として未来への責任を果たそうとしている。

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