常見陽平のはたらく道2025.05

連帯を生み出す音楽

2025/05/14
音楽は連帯をもたらす。音楽でいかに連帯するか。そんなふうに考えてみてもよいのではないか。

母校一橋大学が150周年を迎える。5月にホームカミングデーが開催される。卒業生のいきものがかりの水野良樹さんが講演する。水野さんがこだわっていることの一つは「歌われる曲をつくる」ということだ。歌いやすいように創意工夫をしているという。彼が生み出した名曲、ヒット曲が多数あるが、『YELL』はNHK全国合唱コンクール(通称Nコン)の課題曲となった。卒業を迎えた15歳の気持ちを描いたこの曲は、全国の中学生に歌われた。

そういえば、学生時代は飲みの席でなぜか、肩を組んで校歌や応援歌を歌った。体育会でもなく、ただの語学クラス飲みなのに、だ。今も歌える。卒業して10年くらいたって、現役学生に聞いたところ、よく知らないとのことで寂しかった。高校野球、大学のスポーツなどで校歌、応援歌を歌ったり演奏することで盛り上がるし、愛校心を確認したりもする。

替え歌という手もある。あるビール会社の営業部の宴会では、『巨人の星』の主題歌『ゆけゆけ飛雄馬』の替え歌が歌われるという。競合企業の名前を歌詞に盛り込み、倒す、つぶすなどと歌い、盛り上がる。郷ひろみの『2億4千万の瞳』の替え歌で、営業目標達成を誓う営業部もある。

このように、音楽は連帯をもたらす。再結成が発表され、この秋に来日するオアシスの代表曲『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』は、2017年のマンチェスターで開催されたアリアナ・グランデのコンサート終了後に発生したテロの追悼集会で歌われた。自然発生的に合唱が起こったのだという。現在も、困難に立ち向かう民衆のアンセムソングとなっている。

約10年前に国会前でデモや集会を行った、SEALDsの若者たちも、ラップで主張した。日本ではこれまでになかったスタイルの社会運動は話題となった。

約33年前のLA暴動の際も、白人警察官への怒りはラップによりぶつけられた。アイス・キューブ、ドクター・ドレーなどが在籍したN.W.Aの曲だった。ロサンゼルス市警によって暴行を受けたロドニー・キングを巡る裁判で、警察の無罪判決に納得いかない市民たちは、彼らの曲を歌い、暴れた。壊された店先にはその歌詞がなぐり書きされたという。人種差別はもちろん、それに対する暴動も、ともに肯定はできないが、音楽が連帯を生んだ例だと言えるだろう。

音楽と政治や社会運動との関係は、ときに論争を呼ぶ。「音楽に政治を持ち込むな」という意見もある。ただ、音楽はそもそも政治的なものなのだ。一見すると、美しい曲にも反戦、平和などの想いが込められていることもある。例えば、THE BOOMの『島唄』は「戦争」という言葉を一言も使っていないが、沖縄戦のことを歌ったものである。海外ではアーティストが政治的主張をするのは当然だ。レディー・ガガもテイラー・スウィフトも政治的なメッセージを発信してきた。日本では、芸能人やミュージシャンが政治的発言をするとすぐ炎上する。これらの人を、無難に、低く見ているのではないか。

音楽をどのように運動に、連帯に生かすか。SEALDsなどの例はあるし、ときにデモで歌を歌うシーンなどもある。別に攻撃的なメッセージがなくてもよい。必要なのは連帯だ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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