トピックス2026.03

衆院選後の政治展望──(1)増える無党派と揺らぐ政党政治
SNS時代の民主主義の行方

2026/03/13
無党派層の支持が流れ込んだことで衆院選では与党が圧勝した。無党派層が増え、政党政治の足元が揺らぐ中で、民主主義はどこへ向かうのか。中間団体の「組織票」の役割はどうなるのか。識者に聞いた。
吉田 徹 同志社大学教授

「無党派」対「組織票」

今回の選挙で戦後最大の巨大与党が生まれました。長い目で見れば、日本政治の分岐点になる選挙といわれるかもしれません。

選挙結果を解釈するには3点挙げることができます。一つ目は、いわゆる「7条解散」です。日本の場合、首相に解散権があり、与党の勝てる争点設定とタイミングで選挙に打って出ることができます。今回の場合、高市首相が高支持率を背景に解散に踏み切ったことで、与党からすれば負けない勝負でした。一方の野党は、負け幅を最小化せざるを得ない姿勢で戦うことになります。

二つ目は、「組織票」と「無党派」との戦いです。立憲民主党と公明党が結成した「中道改革連合」は、連合と創価学会という日本における二大中間団体と言うべき組織が支援した政党でした。にもかかわらず、中道は選挙で惨敗を喫しました。このことは政党関係者にとって、今後、政策の打ち出し方や政治的コミュニケーションのあり方の見直しを迫るものだといえます。

高市自民党は無党派層の支持を集約することに成功しました。無党派の割合は年々増え、朝日新聞の調査では石破政権末期に過去最高の7割に達したとされます。今後も無党派が支える政党政治の流動化が進むでしょう。このことから、政党が目先の人気取りに走り、中長期的な政策が打ち出しにくくなる状況が懸念されます。政策とは政党が一定のパースペクティブ(視野)をもって中長期的に構想するものですが、安定した支持基盤を持つ政党が減少すれば、選挙の都度、世論の耳目を引くような政策が打ち出され、政策のパースペクティブは狭くなっていくでしょう。

メディアに左右された選挙

三つ目の特徴は、「レガシー(遺産)」と「アセット(資産)」のどちらを優先するかが問われたということです。「レガシー」とは戦後日本の豊かさや平和を守ろうとする姿勢で、主に中道がそうした発信をしていました。一方、「アセット」とは、豊かさを生むために投資をしようというメッセージで、これが現状変革を訴える高市首相のフレーズと重なっていました。その結果、従来の「保守」と「革新」という構図が入れ替わるような構図で、自民党が改革志向の政治勢力として受け止められたといえます。

今回の選挙では、新聞を中心としたメディアが高市首相の「円安」発言などを批判しました。しかし、新聞やテレビを主な情報源にしているのは60〜70代以上の有権者です。新聞が首相の発言を批判したとしても、その情報にまったく触れない層がかなり存在しているのです。

その点、メディアの形式によってメッセージの伝わり方が大きく異なることを知る必要があります。ネットメディアは、オールドメディアの情報を批判的に捉えて発信します。そのため、ネットメディアから情報を受け取る層には、オールドメディアの情報を素直に受け取らないという構造があります。

日本でも、いわゆるリベラル系の政治家がSNSで発信していないわけではありません。そうではなく、発信されるメッセージの内容と、SNSというメディアの特性との相性が合っていない点に問題があります。SNSは、理屈や論理よりも感情やイメージを消費するメディアです。そこで政策を伝えようとしてもうまく伝わる可能性は低い。

リベラル系の議員が志向するリベラリズムとは本来、人々の合理性や理性に訴えかけることで合意を形成し、人々を政策実現に動員していく政治思想です。しかし、SNSが主流になると、そうした説得のスタイルが通用しづらくなっています。メディアの特性に適した発信の仕方を工夫していく必要があります。

野党の今後

中道は惨敗を喫した以上、その立て直しにはかなりの時間がかかります。2012年に民主党が下野してから、政権に最も近づいたのは2017年の希望の党騒動のときでした。そこに至るまで5年を要しています。今回はさらに長期戦になる可能性があります。

ただし明るい材料も二つあります。一つは、党をけん引してきた大物議員が落選したことで世代交代を進めやすくなったこと。もう一つは、勢力が縮小しても野党第一党の座を守り抜いた点です。

野党には大きく三つの役割があります。一つ目は、政権交代を実現すること。二つ目は、与党に対するチェック・アンド・バランスを働かせること。三つ目は、多数派に代表されていない民意を代弁することです。このうち一つ目を実現するのは今の状況では困難ですが、残りの二つは現状でも果たすべき役割です。やるべきことを地道にやる必要があります。

野党が政権交代をめざすのであれば、候補者の調整は不可欠です。立憲民主党であれ国民民主党であれ、自らの立場や事情を優先して調整を怠るのであれば、それは有権者からオルタナティブとしての選択肢を奪ってしまうことになります。野党を支えてきた労働組合としては、あくまで日常からの意思疎通を大事にし、ともに働きかける余地を残しておくことが大切です。

中間団体の役割

労働組合が持つ中間団体のリアルなネットワークを生かすことは大切ですが、中間団体に所属しない人が増える中で、多勢に無勢ともいえます。

このことは近代化のプロセスにも関係しています。そもそも近代化とは、人々をまとめていた教会という中間団体が衰退し、人々が神と直接結び付くプロセスのことでした。これを現代日本の政治に結び付けて話すとすれば、PTAや自治会なども含め何らかの中間団体に所属する人は、人口の半数以下になっています。政党政治は、そうしたさまざまな中間団体の上に形成されていましたが、その足場が非常に不安定になっているということです。その結果、ばらばらになった個人が、強権的な指導者と直接結び付く傾向が強まる懸念があります。

哲学者のハンナ・アーレントは『全体主義の起源』で、階級意識が崩れると、人々は「群衆(マス)」として現れやすくなると述べました。そして、そのマスを結び付けるものとして、階級に代わる「ネーション」が前面に出てくると述べました。今後、社会の結び付きが弱まるほど、こうした傾向は強まる可能性があります。

その結果、その時々の世論に合わせるという意味での民主的な「応答性」は高まるかもしれません。しかし、その一方で、中長期的に取り組むべき課題が後景に退く懸念は十分にあります。例えば、気候変動やAI規制、教育格差といった一度の選挙サイクルだけでは解決できないような問題が後回しにされる可能性が高まることになります。

多数派の暴走を防ぐ仕組み

有権者の液状化という現象が元に戻らないとするなら、非多数派機関による民主政治の調整・規制のようなものが必要になります。これは民主政治が暴走したり機能不全に陥ったりしないように支える制度です。例えばオランダには、選挙で各党が公約を掲げたとき、その経済・財政への影響を独立した機関が検証する仕組みがあります。このような独立機関の設立は日本は出遅れています。民主主義を正常に機能させるために、基本的人権を侵害していないか、経済政策がどんなダメージを生むかといったことを客観的にチェックできる仕組みを日本でも検討する必要があります。

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