働く人のためのワークルール見直しを
労働基準関係法制の見直し論議のポイント「みなし労働時間制」であいまいになる労働時間管理
過労死等を防ぐためにも適正な時間把握を


神奈川過労死対策弁護団
裁量労働制の問題点
厚生労働省が昨年6月に発表した「過労死等の労災補償状況」によると労災の認定件数は、過去最多を更新しました。厚労省は、制度の周知が進んだことを理由としていますが、長時間労働の状況が大きく改善されたとは思えません。実際、私が対応してきた事件でも、会社がきちんと時間管理せず、長時間労働をしていた事案が数多くあります。上限規制ができたからといって現場の状況が一気に良くなったとは思えません。
労災が認定された事例のうち、裁量労働制が適用されていた件数は少数です。ここ数年の傾向を見ても脳・心臓疾患の認定件数は1〜3件、精神障害の件数も1桁台です。内訳では専門業務型裁量労働制が大半で、企画業務型裁量労働制はほとんどありませんでした。
ただ、労災認定件数が少ないからといって、裁量労働制に問題がないわけではありません。裁量労働制の構造的な課題は、労働時間管理があいまいになり、労働時間の立証が難しくなることです。裁量労働制にも労働安全衛生法に基づく労働時間の把握義務がありますが、現実には時間管理が行われていないケースが数多くあります。実際、裁量労働制で労災が多発した企業では、労働時間管理を厳格化するために制度の適用を取りやめており、制度によって労働時間管理が手薄になることがわかります。
同時に裁量労働制には、労働時間の立証が難しくなるという問題があります。例えば、裁量労働制の適用労働者が「持ち帰り残業」をした場合、そうした時間が労働時間として認定されることが難しくなります。つまり、裁量労働制の適用が拡大すると労災認定が難しくなるという問題も懸念されます。
そもそも、裁量労働制で仕事の進め方に関する裁量が労働者に与えられたとしても、業務量に関する裁量が労働者に与えられるわけではありません。その結果、たとえ仕事が早く終わったとしても、次の仕事が割り振られれば、労働時間は短くなりません。また、会社側からすると裁量労働制は、一定の手当を支払えばそれ以上の割増賃金を支払わなくても済むため、「定額働かせ放題」の側面があります。その結果、会社にはより多く働かせようというインセンティブが生まれ、長時間労働になりがちです。こうした制度のあり方自体に疑問を感じます。
適用拡大の危険性
裁量労働制の対象が拡大されると過重労働が助長される懸念があります。
これまでの議論では、経営側が企画業務型裁量労働制の対象範囲の拡大を求めてきました。具体的には、(1)法人顧客に対する課題解決型営業業務、(2)裁量的にPDCAサイクルを回す業務──の二つが挙げられており、経団連の資料では顧客の生産ラインの改善計画を立て施策の実施と検証を繰り返すような業務が例として挙げられています。こうした業務に法人営業も含めると、かなりのホワイトカラーが対象になると考えられます。これらの法改正によって対象範囲が拡大されれば、それだけ制度対象者が増えることになり、本来対象ではない業務にまで誤って適用されるケースも増えることが懸念されます。
実際、「みなし労働時間制」では、「事業場外みなし労働時間制」が悪用されるケースが多発しています。よくあるのは、営業社員すべてに制度を適用し、労働時間を管理していない事例です。こうした事例では、長時間労働になりがちな一方、労働時間の立証が難しく、行政などに長時間労働を認めてもらいにくいという課題があります。裁量労働制でも同じことが起きかねません。
加えて、事業場外みなし制度も含め、「みなし労働時間制」が導入されると、過重労働のサインを見逃してしまう恐れが強まります。会社が実際の労働時間を把握せず、長時間労働になった場合でもSOSのサインに気付きにくくなるためです。過労死等の事例を見ると、普段の業務の多さに加え、そこに突発的なトラブルが重なると心と体の余裕がなくなり発生しやすくなります。そういう意味でも、会社が労働時間をしっかり把握して、SOSのサインに早めに気付けるようにしておくことが大切です。
適正運用のために求められること
裁量労働制を適正に運用するためには、まず監督行政がきちんと機能することが重要です。そのためにも、使用者による労働時間の把握義務を労働基準法上で明確に位置付けることが必要だと思います。
また現在、裁量労働制の健康・福祉確保措置の選択項目の一つとして、「労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除」という項目がありますが、その義務化を検討すべきだと思います。その基準としては、時間外労働の上限規制を参考にすることが考えられます。例えば、労働者に裁量を与えるという制度の趣旨を踏まえれば、36協定の特別条項が必要となる時間外労働では裁量を発揮しづらいため、原則である月45時間以内を目安にするという考え方もあり得ます。
労働組合に対する期待
働く皆さんに伝えたいのは、裁量労働制の問題は、人ごとではなく、すぐ自分の問題になり得るということです。特にホワイトカラーの場合、賃金がそれほど高くないのに裁量労働制が適用され、際限なく働かされる可能性が高まります。だからこそ、この動きにしっかり注目してほしいと思います。
仮に制度が適用されることになったら、自分の仕事に裁量があるのかをよく考えてください。裁量労働制の適用には本人同意が要件になっているため、労働組合をはじめ周囲の人と相談して検討することが重要です。
経営側は、過半数労働組合のある事業場では、裁量労働制の対象業務を労使協議で柔軟に決められるよう求めています。そのことを労働組合が活躍するチャンスとして発信する弁護士もいます。しかし、この点は慎重に考えるべきです。本来、会社が持つべき責任を労働組合に背負わせようとしているだけだからです。労働組合がやるべきことは別にあります。実際の運用状況を細かくチェックし、会社が把握しにくい労働者の本音を吸い上げて、きちんと伝えていく。そういうところで労働組合のプレゼンスを発揮してほしいと思います。
功罪ありますが、フレックスタイムや、早く終われば帰れる制度など、他の方法でも実現できる働き方はたくさんあるはずです。労働組合には、そうした別の提案もきちんとしてほしいと思います。「柔軟な働き方」や「生産性を高める働き方」といった、耳当たりのいい言葉に惑わされず、どうすれば自分たちの働き方を守れるのかを、もう一度立ち返って考えてほしいというのが、私の一番の期待です。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

