働く人のためのワークルール見直しを
労働基準関係法制の見直し論議のポイント急拡大する「スキマバイト」の問題点
低賃金で声を上げづらい構造への対策が必要


急拡大の背景
アプリに登録して単発の仕事をする「スキマバイト」は、登録者数が急速に拡大しています。2025年5月時点における主要大手4社の登録者数は約3440万人。複数のアプリに登録している人もいるため実数ではありませんが、2018年の約330万人から10倍以上に増えた計算です。労働市場を一変させるほどの影響力を持ちつつあるところに近年のスキマバイトの特徴があります。
特に伸びているのが、飲食・小売り・物流といった業界です。介護や保育などの対人サービスに加え、自治体がアプリ事業者と連携協定を結ぶケースもあり、領域を問わず広がっています。
スキマバイトは、ワーカー・アプリ事業者・求人事業者の三者関係で成り立ちます。履歴書や面接が不要で、アプリ事業者が求人事業者に代わって賃金をその日のうちに立て替え払いしてくれるという、簡素な手続きと即日払いが、拡大を後押しする大きな要因になっています。
ただ、スキマバイトが増えた理由はそれだけではありません。働く人を取り巻く厳しい経済環境も、大きな背景として挙げられます。理由は主に三つあると考えています。一つ目は、物価高に伴う実質賃金の低下です。目減りした収入を補うために、スキマバイトに頼らざるを得ない人が増えています。二つ目は、さまざまな業種で副業解禁が進み、利用しやすい環境が整ったことです。三つ目は、即日払いでなければ生活が成り立たないほど、社会全体の貧困化が進んでいることです。こうした事情も重なり、スキマバイトは急速に拡大しています。
スキマバイトの問題点
急速な拡大の一方、課題も多く指摘されています。一つ目は、アプリで示された業務内容と実際の業務内容が異なるケースです。二つ目はいわゆる「早上がり」の課題です。例えば、4時間の仕事だと聞いていたのに3時間で終わってしまって1時間分の賃金が支払われないような問題です。三つ目は、当日直前に仕事がキャンセルされる「ドタキャン」です。多くのアプリ事業者では、出退勤時に二次元コードを読み込むことで雇用契約が成立・終了する仕組みをとっています。そのため、当日にキャンセルされても契約破棄とはみなされないという問題が生じており、これが「ドタキャン」の横行を生んでいます。さらには労働災害や通勤災害の問題もあります。労働時間の通算に関する労働基準法の見直しが行われれば、副業での割増賃金が支払われなくなり、長時間労働をより求められるという問題も懸念されます。
こうした問題が起きる一方、働く人が声を上げづらい構造も課題です。多くのアプリには、求人事業者とワーカーが互いに評価し合う「相互評価システム」が導入されています。ただし、相互評価といっても「雇用主>労働者」の力関係もあって、働く側が不利になる仕組みです。事業者から低い評価をつけられると、そのアプリを利用できなくなる「出禁」状態になってしまうため、早上がりや業務内容が違うといったトラブルがあっても、ワーカーは不満を言いづらい構造があるからです。声を上げにくい労働者が増えれば、それは労働条件の一層の悪化につながっていきます。
対策しづらい構造
こうした問題の根底には、スキマバイト特有の三者関係があります。通常の雇用では求職者と求人事業者が直接交渉しますが、スキマバイトにはアプリ事業者が介在するため、権利と義務の所在が複雑になりがちです。多くの労働法研究者は、スキマバイトを「事実上の日雇い派遣」と指摘しており、スキマバイトが日雇い派遣規制を免れる仕組みとして機能してしまっています。
加えて、スキマバイトはその日限りの労働であるため、継続的な雇用関係と比べて交渉の余地が生まれにくく、働く側は権利主張を我慢しがちです。細切れの労働は人間関係を築きにくくし、孤立や孤独、メンタルヘルスの問題にもつながります。人間関係が希薄だと組合活動にもつながりづらいです。さらに技能形成や職業訓練の機会も失われるため、労働力の質にも影響を及ぼします。
こうした問題への対策が取りづらい背景には、法制度の課題もあります。労働法や社会保障法は年単位・月単位の継続的な雇用を前提とした設計になっているため、その日限りのスキマバイトにはなじみにくい構造があります。このように権利・義務関係の複雑さと権利を要求しづらい職場構造が重なり、問題が放置されやすくなっています。
ただ、できることはあります。まずは労働基準監督署がスキマバイトを重点課題として位置付け、違反のある事業者への取り締まりを強化することです。相談窓口を広げて実態を把握し、必要な支援につなげることも求められます。
あわせて重要なのが、労働者の権利強化です。マッチング成立時点での雇用契約の明確化や、評価システムの見直しが求められます。スキマバイトは、面接などがない分、使用者から選別されないように見えますが、実際には評価システムによって選別されています。正当な異議申し立てが低評価につながる現状では、「我慢しなければ次の仕事がない」という構造が声を上げづらくしています。
根本的なスキマバイト対策
ここまで見てきたようなスキマバイト固有の問題への対処も必要ですが、より重要なのは、なぜこうした働き方が必要とされるのかに目を向けることです。
その根本にあるのは、最低賃金の低さです。物価高による実質賃金の低下でダブルワーク・トリプルワークをしなければ生活が立ち行かない人が増えています。加えて、住宅費や教育費などの私費負担の高さも追い打ちをかけています。
スキマバイト特有の問題を是正しても、こうした構造が変わらない限り、空き時間に稼がなければ生活できない構造は残ります。別の形の「なんとかバイト」が生まれるだけです。スキマバイト対策固有の問題に対処するだけではなく、こうした社会的な構造に目を向ける必要があります。
他方、年金水準の低下から老後も働き続けざるを得ない高齢者が、スキマバイトに登録しています。見落とされがちですが、こうした高齢労働者の増加は社会全体の賃金を押し下げる要因にもなります。低年金ゆえに低賃金でも働かざるを得ない高齢者が増えれば、それが賃金上昇への下方圧力となるからです。社会保障を充実させることは単なる負担ではなく、低賃金で働く人を増やさず、賃金を底支えする仕組みとして機能するという認識を持ってもらうことが重要です。
労働組合には、スキマバイトに頼らなくてすむ雇用と社会保障の充実に取り組んでほしいと思います。具体的には、最低賃金の引き上げ、住宅・教育・医療・介護・保育など社会保障の拡充、職業訓練システムの強化といった対応が必要です。スキマバイト固有の問題に対処するのと同時に、スキマバイトに向かわざるを得ない構造をどう変えるのかという視点が重要です。
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