特集2026.04

働く人のためのワークルール見直しを
労働基準関係法制の見直し論議のポイント
「過半数代表者」制の見直しへ
労使対等を実現する仕組みの実現を

2026/04/14
過半数代表者制は、労働条件の決定や見直しに深くかかわる一方で、実際には多くの課題を抱えている。必要なのは、労使対等を確保するための実効性ある見直しだ。
呉 学殊 独立行政法人労働政策研究・
研究機構 特任研究員

過半数代表者の問題点

過半数代表者は、「36協定」をはじめ、多くの労働条件の見直しにかかわる手続きに関与しています。その数は現在113項目にも上ります。労働条件の決定や見直しに関して過半数代表者が労使協定を締結する際に最も重要なのは、労働者と使用者の対等性です。労働基準法第2条が「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」と定めているように、過半数代表者と会社の労使協定においても、労使が対等な立場で決定するのが大原則です。

しかし、この大原則を知っている人はどれくらいいるでしょうか。労働基準関連法制の見直し議論では、集団的労使コミュニケーションのあり方が議論されてきましたが、まず労使対等の原則が多くの人に認識されていないということが最も重要な課題です。

例えば「36協定」に関しては、過半数代表者が協定を締結しなければ、会社は従業員に残業させることができません。そのほかの項目に関しても、従業員の労働条件にかかわる重要な事項が数多くあります。過半数代表者の責任の重さを認知しないまま、やらされている人が多いのが実情です。

次いで、過半数代表者に関しては、かねてから選出手続きの課題が指摘されてきました。その手続きは、労働基準法施行規則第6条の2に定められています。その要件は、(1)管理監督者ではないこと、(2)代表者の選出目的を明示すること、(3)民主的な手続きで選出すること、(4)使用者の意向に基づき選出しないこと──の四つです。しかし、これらの手続きを厳格に守って運用している職場はどれくらいあるでしょうか。残念ながら極めて少ないのが実態です。

さらに過半数代表者には運用面の課題も指摘できます。労使対等が大原則であれば、労使協定を締結する際には、労使間での話し合いが当然必要になるはずです。しかし、協定の締結に当たって労使できちんと話し合っている職場は多くありません。

このように過半数代表者を巡っては、「認識」「手続き」「運用」のいずれの面でも大きな課題が残されています。求められているのは労使対等を実現するための実効性ある見直しです。

実効性ある仕組みとは?

労使対等の実現は、労使双方にとってメリットがあります。例えば、時間外労働を巡って労使の意見に食い違いが生じるとします。会社は従業員にもっと働いてほしいけれど、従業員はさまざまな事情から長く働くことができません。こうした場合、労使が対等の立場で話し合いができれば、会社はどうすれば短い時間で生産性を上げることができるのかを考え、従業員も限られた時間の中で成果を上げる方法を考えるようになります。つまり、労使の対等性が確保されることで互いが知恵を出し合い、双方の能力が最大限発揮されることにつながるのです。

このように労使が互いの能力を最大限発揮するためにも、労使が対等の立場で話し合うことのできる制度の整備が必要です。私はそのために次の要件が必要になると考えています。

一つ目は、過半数代表者の選出目的と役割を明示すること。

二つ目は、民主的な手続きによって選出すること。

三つ目は、会社と締結する労使締結の内容について、従業員同士で事前にきちんと議論して協定案をつくること。過半数代表というからには、代表者が一人で決めるのではなく、職場内で合意形成を図らなければいけません。

四つ目は、会社との間で締結内容についてきちんと協議を行うこと。労使の意見が一致しない場合には、対話を通じて妥協点を探る必要がありますが、その際には過半数代表者に一定の交渉権限を付与することも必要です。

五つ目は、締結された内容を従業員に周知し、その実施状況を適切にモニタリングし、遵守を確保することです。

労使対等に実効性を持たせるならば、少なくともこうした要件が満たされるよう制度の見直しを図る必要があります。

情報開示が重要

加えて重要なのは、協議に当たって必要な経営情報を労働者側にきちんと提供するための仕組みです。例えば春闘でも企業の経営状況に関する資料が開示されなければ、適切な賃上げを求めることができません。「36協定」もそれと同じで、時間外労働の推移に関するデータがなければ実効性のある議論ができません。だからこそ、集団的労使コミュニケーションの見直しには、企業の経営情報が従業員側に共有される仕組みが不可欠です。

そこで参考になるのが、韓国の「勤労者参与および協力増進に関する法律」(いわゆる勤参法)です。この法律では、従業員30人以上の事業所に労使協議制の設置が義務付けられています。

特徴的なのは、その役割が法律で明確に定められている点です。協議には、労使間での合意が必要な合意事項と、労使協議が必要になる協議事項、さらには会社が報告すべき報告事項があります。このうち報告事項には、会社の経営計画や人員計画、生産計画、さらには経営実績などが含まれており、会社はこれらを開示しなければなりません。正当な理由なく報告されない場合には監督機関による指導や罰則の対象となります。

このように、勤参法のもとでは、企業の経営情報が制度的に従業員側へ開示される仕組みが整えられています。日本において集団的労使コミュニケーションを促進するためには、こうした仕組みが参考になります。

労使対等を貫くこと

経団連は、労働法制の見直しに当たって、「労使協創協議制」の創設を掲げています。私はこの制度が、真の労使対等につながるものであれば、導入すれば良いと思います。重要なのは、労働組合の組織率が低迷し、多くの職場で集団的労使コミュニケーションが行われていないことです。そうした職場においてどのように労使対等を確保するのかが最大の問題です。

実際の現場では、労使の力関係は非対称であり、会社主導で物事が進んでいるケースがほとんどです。日本企業の人事労務の運用を見ても、大きな制約があるようには思えません。むしろ、企業側の裁量は広く認められてきました。にもかかわらず、日本企業の競争力が低下してきたのは、制約がないことで現場での工夫が十分にされなかったことに要因があるのではないでしょうか。だからこそ、労使対等の原則を貫き、労使が互いの能力を最大限発揮するための仕組みが必要だと考えています。

労働組合のアピールの場に

過半数代表者制の見直しに当たって、労働組合に何ができるでしょうか。私は、労働組合がどのような活動をしているのかをもっと積極的にアピールしてほしいと思います。例えば、企業組織再編の場面で、労働組合のない企業と合併する際、労働組合はそれまでの活動実績を説明します。その実績が相手に伝わると、労働組合のなかった職場の労働者も「こんなこともできるようになるのか」と思うはずです。過半数代表者の見直し論議を労働組合のアピールの場につなげ、組織拡大に結び付けてほしいと思います。

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