常見陽平のはたらく道2026.05

無理な要求をするトップに
どう向き合うか

2026/05/15
経営トップだからこそ見える視点があるのは確かだが、従業員の側からすればたまったものではないこともある。どうすればよいのか。

以前の勤務先で同年代のエースと呼ばれる人がいた。営業で高い成績を上げ、あれよあれよと出世し、あらゆる役職に最年少で就いており、事業会社の常務取締役になり、一時は海外の法人の社長も務めていた。よくメディアでもその活躍は報じられていた。彼の出世を誇りに思う一方で、悪い評判もよく聞いた。今のニックネームは「皇帝」だそうだ。決して褒め言葉ではない。とにかく偉そうなので、そう呼ばれている。さらには、言うことがあまりにも壮大かつ抽象的で、何を言っているかわからないのだという。周りの取締役も「あいつの言っていることはよくわからない。早く、気付いてほしいのだが」と困惑する始末である。

擁護するわけではないが、トップ層が「よくわからないこと」を言うことは、悪いことだとは言い切れない。変革を行うのは、リーダーの役割である。ときに、現場の社員からは理解されないこと、嫌われるようなことを言わざるを得ないこともある。特に現代社会は、変化のスピードが加速している。まさに、ICT関連の分野は変化が激しい。想像を絶するようなむちゃ振りのようで、変化のスピードから考えると、やむを得ないこともある。

思えば、会社員時代は、事業の撤退も目撃した。トップの判断だった。ユーザーからの支持率も高く、利益も出ていた事業も捨てられた。「なぜ?」という声が多数上がったが、後に振り返ると英断だった。急速に市場が縮小したのだった。経営陣はそのリスクを察知していたのだろう。

組織や人材を育てるための負荷という論理もある。会社員時代、上司から事業部全体に釈明とお願いのメッセージが届いたことがある。忙しいし、負荷もかかっていると思うが、商品・サービスを磨く上でも理解してほしいというものだ。

もっとも、従業員の立場からすると、たまったものではないというのが本音ではないか。しかも、従業員に無理な依頼をしているという認識がないとしたならば最悪である。思いつきで行動された日には、従業員はひたすら振り回され、疲弊する。しかも、高圧的、威圧的な態度で接してくる場合、心が折れてしまう。

経営者の立場からすると、なんとしてでも企業を存続させなくてはならないという危機感からかもしれない。従業員やその家族の生活を守らなくてはならないし、取引先や株主の期待にも応えなくてはならない。しかし、その前に働く人が疲弊して、つぶれてしまっては意味がない。無理な要求に応えるために、不正の慢性化が進む場合もある。トップに対して、都合のよい数字を伝えるようになる。

ここで、大切なのは「従業員は疲れています」「疑問に思っています」「それ、パワハラです」と伝える勇気である。私の愛読書『社外取締役島耕作』(弘兼憲史 講談社)にもワンマン経営者に周りがそう伝えるシーンがある。パワハラまがいの行為に関しては、記録をするという手もある。

無理な要求をするトップには、率直に困っているということを伝えるべきだ。パワハラ問題が発覚した場合、企業へのダメージも甚大である。従業員がバタバタと倒れること、大量に離職することをトップも望んでいないはずである。いかにして、自分たちの労働環境を守るのか。物申す勇気が必要だ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。『日本の就活』(岩波書店)、『50代上等』(平凡社)、『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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