高市政権の展望と立憲民主党が果たす役割立憲は「政権の中核政党」となる強さを
政権党になるために必要な三つの準備


元毎日新聞編集委員
実は最弱の政権
高市早苗内閣が高い支持率を得ていることで、野党支持層の間に動揺や警戒が広がっている。多くのメディアが現在の政治状況について「多党化」という誤った認識を与え、自民党と「連立」した日本維新の会や、夏の参院選で躍進した国民民主党や参政党に過度にスポットライトを当てるため、野党第1党たる立憲民主党の存在感が低下しているのでは、といら立つ声もあるようだ。
少し落ち着いて考えてほしい。高市政権は、自民党の結党70年の歴史の中で、おそらく最も弱い政権だ。政権発足当初の与党の議席は、衆参両院とも過半数に足りなかった。本稿の脱稿直前に院内会派「改革の会」所属の無所属議員3人が与党入りし「衆院で過半数を回復する」と喧伝されたが、一方で維新幹部が報道機関の取材で連立離脱の可能性に触れるなど、国会での基盤は相変わらず不安定だ。公明党の連立離脱によって選挙の基盤も弱った。高い内閣支持率と政権の現実には相当な乖離がある。
自民党は今、予想以上の速さで崩壊過程に入りつつある。高市首相の一見勇ましい発言は、それを糊塗するための、一種の延命策だと言えよう。
自民党が近い将来「唯一の国民政党」としての役割を終えるなら、立憲民主党が後を受けるしかない。メディアが持ち上げる中小政党は、規模の面でも実力の面でも「政権の選択肢」にはなり得ない。自民党に代わる可能性を持つ政党は、現状で立憲だけなのだ。
立憲の果たすべき役割は、これまでと大きく変わっている。自民党に代わって政権を担える「新たな国民政党」として、有権者に認知されなくてはならない。「野党の中で目立つかどうか」ばかりを気にする局面は、とうに終わっていることを自覚すべきだ。
稽古不足を幕は待たない
昨秋の衆院選で自公政権(当時の首相は石破茂氏)が過半数を割ったことを受け、筆者は1年前の2024年12月号で「『1強多弱』から『2強多弱』へ 国会で力を増した立憲民主」という記事を公開したが、今夏の参院選で状況はさらに進んだ。自公両党は参院選でも惨敗して過半数を割り、立憲は現状維持。政権与党と野党第1党の勢力は、衆参両院で拮抗している。
立憲が現時点で「政権の選択肢」として力を得たとは言い難いが、自民党がそれを上回る勢いで弱体化しているため、政界は何かのはずみで、立憲に突如政権が転がり込んでもおかしくない状況になった。10月に発生した、公明党の連立離脱から高市政権発足までの政局は、自民党総裁選の勝者が首相になるとは限らず、立憲を中軸とする野党が政権を握るかもしれない状況を、一時的にせよ作り出した。「稽古不足を幕は待たない」のだ。
筆者は永田町の合従連衡で政権政党が移動することを良しとしない。政権の移動は衆院選という民意によって行われるのが望ましい。立憲にとって喫緊の課題は、次期衆院選に向けて「自民党から政権を奪う」「自民党の崩壊に備え、政権を引き受ける準備をする」という二つの目標達成に向け努力することだ。どちらもおろそかにしてはならない。
そのために必要だと考えることを、3点指摘したい。
「政権の選択肢」になる
最初は国会活動。心がけるべきは、自民党がまともな政権担当能力を失い、政党として耐用年数が切れつつある現実を、国民に明らかにすることだ。論戦を通じて、自民党政権が物価高対策をはじめ現下の課題への正しい状況認識を欠き、まっとうに対応できないことを示すのだ。メディアがそれを十分に伝えないなら、地方議員も含めて党全体で街頭に出て、政治運動として直接国民に働きかけるべきだ。
「政治を変えるには、自民党を野党にしなければならない」という国民の意識を育てることは、「政権の選択肢」たる立憲の重要な仕事である。
「めざす社会像」を示す
次に政策について。個別政策でなく「立憲のめざす社会像」を提示することだ。
高市政権の発足に伴い、与野党の枠組みが大きく変わった。「自民・公明vs立憲・維新・国民民主など」という対立構図が「自民・維新vs立憲・国民・公明など」に変化したのだ。「めざす社会像」における与野党の対立軸は、以前より明確になった。立憲がめざす「格差を是正してぶ厚い中間層を再生し、自己責任社会を終わらせ安心できる社会を作る」という政治目標は、維新など旧来の野党より、公明党の方が親和性が高いだろう。
この変化を生かしたい。自民党中心から立憲中心に政権を交代させることで、社会のあり方をどう変えたいのかを、もっと明確に語るべきだ。
「安保法制反対」「食料品の消費税ゼロ」のように個別政策ばかり訴えるのは、政権を担う責任を持たない万年野党か、自民党に政策をのませて存在感のアピールを狙う「ゆ党」的政党の選挙戦術だ。立憲の安住淳幹事長の言葉を借りれば、単なる自民党への「陳情」でしかない。この手の戦術からは卒業すべきだ。
政権政党として国民の信任を得るには、もっと包括的な訴えが必要だ。「マニフェストにあらゆる分野の政策項目を並べる」のも大事だが、それ以上に「これらの政策が、どんな社会を作るために用意されたのか」を語ることこそ重要だ。
これが十分にできていないから、立憲は「自民党と同じ既成政党」という有権者の批判に耐えられず、政治に変化を求める層の票を新興の中小政党にさらわれる。「社会の方向を変える」大きな改革は政権交代でしか実現しないことを、立憲は日常的に伝えてほしい。
選挙戦術の展望
最後に選挙戦術。他野党との連携は保ちつつ、自らの「地力」をつけることだ。
立憲の野田佳彦代表は11月16日、次期衆院選について「少なくとも200人近くを自前で擁立し、ほかの友党と合わせて過半数に」との目標を掲げた。前回衆院選で獲得したのが148議席という現実を見れば「獲得」議席の目標としては現実的と言える。
ただ、最初から他党との候補者調整を当てにすべきではない。地域事情でうまくできれば良いが、無理に調整して自前の候補者を減らしてはいけない。それは野党が「多弱」だった時代の戦略だ。
立憲は「政権の中核政党」となるだけの、国会における十分な「強さ」を必要としている。現状では党も人材が不足しており、有権者は立憲に「政権政党としてのリアル」を感じにくい。少なくとも擁立レベルでは、自前で過半数をめざすくらいの目標を掲げるべきだ。他の野党とはあつれきが生じるだろうが、言葉を尽くして「自民党を下野させ、めざす社会像を変える」目標を共有し、理解を得ることを諦めてはいけない。
立憲が準備不足のまま政権につき、政権運営に失敗すれば、国民は「政権交代で政治を変える」ことに、もう期待しなくなるかもしれない。立憲は自らの責任がいかに重いかを、決して忘れないでほしいと思う。
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