巻頭言 UNITE To the next stage2025.11

高市内閣の発足に寄せて 働く者の視点からの期待と思い

2025/11/12

日本憲政史上初の女性内閣総理大臣として、高市早苗氏が就任したことは、政治の多様性を広げる歴史的な一歩であり、敬意と祝意を表する。生活者の声に耳を傾け、現場感覚を持った政策の推進に大きな期待を寄せたい。

一方、自民党と日本維新の会との閣外連立には慎重な視点を持たざるを得ない。維新の掲げる「統治機構改革」や「規制緩和」は、効率性の向上をうたう一方で、労働者保護や地域の声の反映といった民主主義の根幹にかかわる課題を内包する。とりわけ、衆議院議員定数の削減については、単なる合理化ではなく、政治の質と多様性を高める契機として捉えるべきであり、まずは民意の反映をより正確に行う仕組みづくりが求められる。

高市総理が掲げる「強い日本」という言葉には、国家の自立や経済力の強化、外交の再構築といった意志が込められていると理解するが、平和主義や人権の尊重、民主主義の深化といった価値が、力の論理に押し流される懸念もある。真の強さとは、誰かを排除する力ではなく、誰もが安心して暮らせる包摂力であるべきである。

とりわけ、憲法9条の改正やスパイ防止法の制定といった安全保障政策に関する動きには、私たち働く者として深い関心と慎重な姿勢を持たねばならない。憲法9条は、戦後日本が築いてきた平和主義の根幹であり、これを改正することは、国のあり方そのものを問い直す重大な選択である。また、スパイ防止法の導入が検討される中で、表現の自由や労働組合活動への影響が懸念される。国家の安全と市民の自由は、対立するものではなく、両立されるべき価値である。

労働時間規制緩和への懸念

また、「働きたい改革」と称して労働時間の上限規制の見直しが論議されている。柔軟な働き方の名の下に、長時間労働の容認や自己責任の強調が進めば、労働者の健康や生活の質が損なわれかねない。働く意欲を尊重することと、働かされる構造を助長することは、根本的に異なる。労働時間の規制は、働く者の命と尊厳を守るための最低限の歯止めであり、これを緩める議論には強い懸念を抱く。

各省庁に対して発せられた「スピード感ある政策実行」「生活者目線の改革」といった指示は、暮らしに直結する重要なテーマである。物価高騰への対応、育児支援の拡充、社会保険料の見直しなど、生活者の安心を支える施策が迅速に進むことは歓迎すべきことである。しかしながら、規制緩和や防衛費増額の名の下に、雇用の安定や社会保障の持続性が損なわれることがあってはならない。「人への投資」こそが、経済と社会の基盤を強化する道である。

今後、野党には、生活者の視点に立った具体的な政策提案と建設的な対話が求められる。多様な価値を代弁し、権力の暴走を防ぎ、民主主義の健全なバランスを保つことこそが、民主主義の健全性を支える鍵となる。

私たちは、働く者として、生活者として、そして平和を願う市民として、これからの政権に対し、期待とともに責任ある対話を求めていく。多様な声が尊重され、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて、私たちの運動もまた、歩みを止めることなく進めていく。

北野 眞一 (きたの しんいち) 情報労連 中央執行委員長
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