「103万円の壁」問題
約1カ月前(10月末)、自公与党が過半数割れとなり、「1強多弱」の自民党強行政治を終わらせた歴史的衆議院選挙から、時置かずして、アメリカ大統領選挙が行われ、ドナルド・トランプ氏が返り咲いた。1月の就任を目前に、政権の陣容や政策の行方に世界各国の注目が集まっている。国際社会に何をもたらすのか、選挙戦では、前回以上に自国第一主義を掲げ、ウクライナや中東での戦争中止、気候変動対策や自由貿易協定、AI規制等での国際協調の強化に背を向け、あらゆる分野で混迷を深めることが懸念される。自国内においても分断化の深まりが憂慮されている。
いずれにしても、国際情勢の激動に備え、平和を取り戻し、民主主義を成長させるため他国間秩序の整備を急がなければいけないだろう。これまで日本が見せてきたアメリカ服従型では、アメリカ発自国第一主義にのみ込まれてしまう。日米安保、貿易、外交、日本の立ち振る舞いが求められる。
妥当性を踏まえ議論を
さて、日本では、民意が示された衆議院選挙後、初の本格論戦となる臨時国会が始まった。与野党伯仲する国会運営が注目され、熟議を尽くした合意形成を図りながらの国会運営となるだろう。本来の立法機能が復権することに期待したい。
とりわけ、衆院選後に注目されているのは国民民主党が選挙公約にした「年収103万円の壁」である。
今回の選挙戦で国民民主党は、「手取りを増やす」を公約に掲げ、格差・貧困が拡大し、物価高騰に苦しむ若者を中心に共感され、大躍進を遂げた。
政権与党は、「103万円の壁」を引き上げる政策などを取り込む姿勢を見せており、物価高騰下で、生活苦で暮らす国民にとって、国民民主党の大きな成果といえる。所得税の基礎控除は、憲法で保障された生存権を担保した措置であることから、1995年から見直してこなかった政治の責任といえる。勤労者・生活者・納税者の暮らしに光を当て、政策の実現に突破口を開いたことは意義あることだ。
しかしながら、国民民主党が主張する178万円に引き上げた場合、国と地方で7兆〜8兆円の税収減になると試算されている。地方税の減収は、自治体の行政サービスの低下が懸念されており、措置を求める声も聞かれる。財源確保のため、巨額の借金を増やして将来不安を増長させるようでは本末転倒になるだろう。
連合は、1995年以降の物価変動などを踏まえれば見直す必要があるとして、少なくとも生計費や必要経費の物価上昇分を引き上げていく必要があるとしている。また、「壁」の問題は、所得税だけでなく社会保険などの壁もあるため、税と社会保障を一体的に改革していく必要があるとする。至極当然であり、賛同したい。
「103万円の壁」の引き上げについては、2025年度税制改正に盛り込まれることになる。今後議論が進むことになるが、巨額の税収減などの課題も多いことから、引き上げの幅については、妥当性をしっかり精査すべきだ。その際、政治的思惑でなく、基礎控除と給与所得控除の本来の趣旨に見合っているのかに沿って結論を導いてもらいたい。まずは、与野党の協議を見守りたい。