特集2025.11

企業組織再編と労働組合
働く人の視点からすべきこと
企業再編から労働組合の組織拡大へ
ユニオン・リーダーの果たした役割とは?

2025/11/12
通信建設業界でグループ会社の再編が続く中、労働組合が再編の波を組織拡大のチャンスへと変えている。エクシオグループ関連労働組合協議会では、3社合併を機に労働組合のなかった職場での組織拡大を実現した。その舞台裏をリポートする。

3社合併からの組織拡大

通信建設業界ではグループ会社の再編が続いている。労働組合は再編を契機に仲間づくりに取り組み、再編の動きを組織拡大につなげている。

その成功事例の一つが、エクシオグループ関連労働組合協議会のDENKEN労働組合だ。同労働組合は、会社合併とともに組織拡大を実現した。その背景をリポートする。

通信建設大手のエクシオグループ株式会社は2024年11月、九州エリアで事業を展開している子会社の株式会社ケイ・テクノス、株式会社DENKEN、西日本電話工事株式会社の3社を合併すると発表した。ケイ・テクノスが存続会社となり、社名を株式会社DENKENとする新会社が2025年1月1日に発足した。

合併前、ケイ・テクノスには労働組合があったが、他の2社には労働組合はなかった。労働組合は合併を機に組織拡大の取り組みを展開。その結果、新会社設立に合わせケイ・テクノス労働組合からDENKEN労働組合へ名称変更を行い、加入促進を図った結果、組合員数54人から141人(+87人)となり、組織率は90%超まで拡大した。

3社のうち唯一、労働組合のあったケイ・テクノスで労働組合が発足したのは、合併約1年前の2023年12月のことだった。エクシオグループ本体の労働組合であるエクシオグループ労働組合は、九州エリアでのグループ会社の再編を見込み、子会社の組織拡大に取り組んでいた。そこで結成されたのがケイ・テクノス労働組合だった。

組織再編を支えた労働組合

「組合の立ち上げから約1年がたち、ようやく労働組合の活動の流れがわかってきたところに合併の話になりました」と振り返るのは、DENKEN労働組合の佐藤伸一委員長だ。佐藤委員長は、ケイ・テクノス労働組合の立ち上げの際にも職場の仲間に労働組合への加入を呼び掛けた。その結果、ケイ・テクノス労働組合は、組織率95%超のほぼ全員加入の状態でスタートした。高い組織率での結成は、その後の合併における組織拡大をスムーズに進める上での大きな原動力になった。

まず労働組合は、円滑な会社合併を支える役割も果たした。3社合併において会社規模はケイ・テクノスとDENKEN両社の従業員数は同規模だったが、ケイ・テクノスの方が売上高は大きかった。存続会社はケイ・テクノスであるものの、社名がDENKENになることに対して疑問を抱く従業員もいた。ケイ・テクノス労働組合は、会社の協力要請を受け、執行部内で話し合った結果、会社の説明会で発言して、従業員に対して合併への理解を求めた。労働組合がスムーズな組織再編を支える役割を果たしたといえる。

労働組合の組織拡大

その上で労働組合がなかった会社への組織拡大でも、高い組織率で労働組合を立ち上げたノウハウが生きた。

佐藤委員長は、2024年11月、上部団体である通建連合本部とエクシオグループ労働組合の役員とともに合併する2社を訪問し、労働組合結成に対する理解を求めた。会社側は協力的に応じてくれたが、中には労働組合の機能を十分に理解していない管理職もいた。

会社への説明に同行したエクシオグループ労働組合の原慎太郎委員長は、健全な労使関係の重要性を強調した。「一方的なワンマン経営では働く人からの理解を得られず人財は集まりません。風通しが良く、安心して働ける健全な労使関係の方が会社に人財が集まります。会社の存続や発展のためにも労働組合の存在はプラスになると説明しました」と振り返る。

会社側の理解を得た上で、会社合併後の2025年2月以降、労働組合のなかったDENKEN、西日本電話工事の各拠点を訪問し、労働組合の加入説明会を開催した。

佐藤委員長は、各地の加入説明会で次のように訴えた。「労働組合は会社と敵対する関係ではありませんが、会社に対して言うべきことはきちんと言います。私が盾になるので会社に対して言いたいことがある人は、労働組合の力を活用してください」。思いのこもった訴えに拍手が湧き上がる拠点もあった。このほか可処分所得を増やす意味で共済加入のメリットを説明するなど、職場に応じて伝え方を工夫した。

こうした取り組みの結果、90%以上の従業員が労働組合に加入するという高い組織率で新たにDENKEN労働組合が立ち上がった。ケイ・テクノス労働組合での組合結成での経験が、合併後の組織拡大でも生きたといえる。

DENKEN労働組合は、会社合併後に会社と共催のレクリエーションを開催したり、各拠点に組合役員を配置して交流したり、統合後の組織づくりにも貢献している。

エクシオグループ労働組合の原委員長は、「労働組合のない企業同士の合併だと手を打ちづらいため、労働組合のある会社を事前に増やしておくことが重要です。そのために労働組合としては、グループ会社の再編がある場合には、事前に説明するよう会社に申し入れをしており、なるべく早く情報を手に入れるよう努力しています」と話す。

ユニオン・リーダーの役割

旧ケイ・テクノスでの労働組合の立ち上げから約2年。労働組合のもとには組合員からの相談が増えるようになったと佐藤委員長は話す。「こんなことでも組合に相談してもいいんだと思ってもらえるようになってきました」。労働組合は、四半期に一度、労使の意見交換の場を設けている。そうした場を通じて組合員の意見を会社に伝えている。佐藤委員長は、「労働組合は、上司と部下という会社での関係とは異なる形で会社にアプローチすることができます。そこにやりがいを感じています」と話す。他のグループ会社の労働組合とも積極的に情報交換し、その情報を会社との交渉でも生かしている。

佐藤委員長のモットーは、『組合員ファースト』だ。「組合員のために何ができるのかを考えて活動しています。会社が倒産してしまえば、それは組合員の本望ではありません。会社が存続し、その中で安心して生き生きと働きやすい環境をつくる。それが労働組合の仕事だと思っています」と語る。労使協議の場では、ときには会社の営業の課題を指摘する一方、会社から国家資格の有資格者が少ないから仕事が取れないと言われれば、有志で勉強会を開いて組合員の資格取得を促している。「会社に対してきちんとモノはいいますが、売上を伸ばすためには働く側もがんばる必要があります。みんなと一緒に組合員の処遇を改善していきたい」と思いを語る。

エクシオグループ労働組合の原委員長は、「佐藤委員長をはじめ、当該組織の皆さんの意識が非常に高いので、高い組織率での組合結成という成功につながりました。こういうユニオン・リーダーを1人でも増やせるようにしたい」と話す。

『企業再編と労働組合』の著者である中村圭介・東京大学名誉教授は、本誌のインタビュー取材に対して、「日本の労働組合のリーダーは、組合員の不安を経営者に伝えるだけでの存在ではなく、会社の将来を見据えて行動できる人物」であり、「企業再編では経営に協力しつつも労働者の不安を解消する重要な役割を発揮する」と述べている(本誌6〜7ページ)。DENKEN労働組合の事例は、まさにこれに当てはまるといえそうだ。

企業再編に伴う労働組合拡大の舞台裏には、組合員の声を会社に伝え、その不安を解消しつつ、組合員とともに会社を発展させようとするユニオン・リーダーの姿があった。

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