渋谷龍一のドラゴンノート2025.10

【第8編】振り返りとまとめ〜「次々世代作戦」をどうする?〜「ライフゾーン」が
チラリと見えた

2025/10/14

娘たちに書いたノートを開示してきましたが、いかがでしたか? 人々の暮らしぶりと働きぶり、つまり生活と労働を行ったり来たりしながら、労働組合のことを挟みました。これらは地続きになっていて、将来につながっています。

ドラゴンノートは現世代の振り返りです。現在と過去から次の世代以降を考えてみてほしい。次世代のあなたに伝えたことは、まだ見ぬ次々世代の子どもたちへ語りかけることでもあります。

振り返る前に、ぜひ紹介したい話があります。舞台は丸子警報器事件の現場です(小著『女性活躍不可能社会ニッポン』)。1990年代に長野県の自動車部品メーカーで働く28人の主婦パート(臨時社員)が正社員との賃金差別で会社を訴えた事件です。地方裁判所、高等裁判所の判決は、原告団(労働者)の全戦全勝でした。「正社員の賃金の8割以下のパート賃金は違法」という判決の衝撃は大きく、労働法のテキストにはこの事件が必ず掲載されています。

現地で労組や原告団と交流してみて、裁判に踏み切った理由がよくわかりました。正社員と同じ仕事で労働時間も一緒なのに、賃金と一時金は極端に低く、退職金はありません。会社は未婚女性だけを正社員に採用し、既婚者は臨時社員一択です。職場の大戦力なのに、主婦だから特殊労働者なのだ、と差別待遇を続けていました。

原告団の女性たちは、家庭で主婦役割に悩まされ、会社も家庭も同じ、と見抜きました。家出を繰り返したり裁判後の離婚を決意したりした女性がいました。しかし、裁判が始まると、家族たちは家事育児介護に乗り出し、原告団を支援し始めたのです。もう離婚する必要はない、と豪快に笑った女性は、人生が大きく変わった、何かがチラッと見えた、とシブヤに語ったのです。

何が見えたのでしょうか。正直、よくわかりませんが、とってもほしかったものでしょう。同調させられることなく、人間らしく、自分らしく生きるのに必要な空間だったと思うのです。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
主著に『女性活躍不可能社会ニッポン 原点は丸子警報器主婦パート事件にあった!』(旬報社)、「万博の労働者が危ない—エキスポ1970で何が起きたのか」『労働法律旬報』(2024.10.25)など。
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