特集2026.05

カスタマーハラスメントから労働者を守る
防止措置義務施行に向けた対応のポイント
多種多様な公務職場でのカスハラの実態
発生の背景に行政改革の影響も

2026/05/15
民間企業だけでなく公務職場でもカスタマーハラスメントは発生している。民間との違いは何か。背景には人員削減や非正規化、民間委託といった行政改革の影響もある。実態や対策の現状について識者に聞いた。
山谷 清秀 大阪経済大学 国際共創学部
准教授

公務職場におけるカスハラの実態

公務職場におけるカスタマーハラスメントは、自治労の調査を見るとその実態がよくわかります(自治労「職場における迷惑行為、悪質クレームに関する調査」報告書)。その特徴は、カスタマーハラスメントの実態が非常に多様であるということです。例えば、加害行為の類型にしても、暴力や暴言だけではなく、SNSへのさらし行為、長時間の居座りなど、対処が異なるさまざまな行為が存在します。部署による違いも大きく、一般的にイメージされやすい窓口業務だけではなく、保健師や介護士の個別訪問、公共交通、国や県・市町村の行政単位の違いなども存在し、それぞれの部署によって受ける行為も変わります。例えば、個別訪問をする福祉分野の職員であれば、訪問先の住宅に閉じ込められてしまうこともありますし、生活保護や病院の現場ではセクシュアルハラスメントが目立つという実態もあります。このように、加害行為の内容も対応の仕方も異なるものをひとくくりにしてカスタマーハラスメントとして議論することの難しさがあります。

カスタマーハラスメントが起きる原因に関しても、さまざまな要因があります。例えば、公共サービスへの過剰な期待や住民のモラルの低下といった住民側の問題として捉える見方もあれば、煩雑な書類申請や職員の能力不足、人手不足といった行政側の課題も指摘されています。行政組織内の課題としては、上司が見て見ぬふりをして対応してくれないとか、職員個人の能力不足の問題にされてしまうとか、組織としての対応に問題がある場合もあります。

暴力や暴言といった行為は比較的カスハラと判断しやすい半面、SNSでさらすなどの「グレーゾーン」の行為の方が対応が難しいという実態があります。

公務職場においてもカスタマーハラスメントのような行為は、以前からありましたが、「仕事だから仕方ない」と受け止められていました。最近になってようやく問題だと認識されるようになり、対策が行われるようになったというのが実態ではないでしょうか。

民間と公務職場の違い

民間企業との違いという点では、複数の要因を挙げられます。

例えば、行政の仕事は、議会や住民が目的を設定するため、公務員自身が決めるわけでありません。その目的も住民の幸福などなど抽象的なものが多く、不特定多数の住民を対象にしなければいけません。また、民間サービスと違い、住民がサービス主体を選べないという課題もあります。こうした課題は、生活インフラを提供する民間事業者にも共通しますが、行政には住民からの申請を受理するかどうかといった権限があります。これは民間との大きな違いです。さらに民間との違いとして「公務員たたき」の雰囲気があること、公務員としての使命感といったことも挙げられます。

行政組織特有の課題としては、短期間での異動が慣習化していることも挙げられます。短期間で異動を繰り返すため、慣れない業務に対応してクレームにつながりやすいという構造的な課題があります。国からの委託事務の場合、クレームがあっても自治体には対応するにしても限界があります。

さらに、2000年代以降の行政改革で人員削減が進み、現場が人手不足に陥っていることもクレーム発生の大きな要因になっていると思います。公務現場では、非正規公務員や民間委託が増えています。民間委託の場合、委託先の労働者がカスタマーハラスメントを受けたら、それは被害者が公務員から委託先の労働者に変わっただけで本質は何も解決されていません。私はそれを「カスタマーハラスメントの民間委託」と呼んでいます。このようにクレーム発生の背景には、行政改革の影響もあると考えています。

自治体での対策の現状

これまで公務職場におけるカスタマーハラスメント対策は、「個人任せ」の状態だったと言えます。現場の話を聞いていると、「苦情対応くらいできて当たり前」という感覚は以前から根強くあり、対策もOJTが中心でした。ただ、それは「成功者バイアス」に過ぎず、そうした感覚のままでは、人手不足なども相まって、これからは立ち行きません。カスタマーハラスメントへの対応を個人任せにせず、組織的に対応することが求められます。

今年10月から施行される改正労働施策総合推進法では、事業主に対してカスタマーハラスメント防止措置が義務化されましたが、これには地方公共団体も含まれます。そのため、各自治体は10月に向けてマニュアル作りを進めています。

ただ、小規模自治体は他の業務と並行しながらの対応になるため、マニュアルづくりに精いっぱいというところも少なくありません。

マニュアルづくりで大切なのは、いかに現場の実態に応じた内容のマニュアルをつくれるかです。最初にお話ししたように公務職場には多種多様な職種があります。そのため全部署共通のマニュアルをつくったとしても抽象的なものにしかなり得ず、現場の実態に合わない実効性の低いものになってしまいます。実効性を高めるために必要なのは、各部署でどのような問題が起きているのかをしっかり把握することです。そのためには、部署ごとにケーススタディをする必要があります。沖縄県うるま市は、全部署共通のほかに各部署のマニュアルをつくっており、参考になります。

ただ、そこで難しいのは人手不足の現状がある中で、そうした対応をする余裕が現場にないことです。そのため、各部署でのマニュアルづくりを支援する部署を設けることも考えられますが、これも予算の都合で難しいことが多いです。そこで考えられるのは、自治体を横断した取り組みです。とりわけ、業種ごとに自治体をまたいだマニュアルづくりができると良いのではないでしょうか。例えば、保健師や介護士のマニュアルを自治体横断的につくることが考えられます。民間企業でもJALとANAが共同してマニュアルを作成しています。一つの自治体で対応が難しければ、自治体同士の連携を強めることも重要です。

公共サービスの利用者として

公共サービスの利用者に対してカスタマーハラスメントをしないよう呼びかけること自体否定しませんが、呼びかけを強めても、それがなくなることはないと思います。大切なのは、カスタマーハラスメントが起きることを前提とした対策づくりです。その際、これまでのように個人の能力任せにせず、組織として対応できる体制を整備することが重要です。労働組合としては現場のケーススタディや事例集めに積極的にかかわることができると思います。

カスタマーハラスメントが起きる背景には、過度な人員削減や公務員の非正規化、民間委託といった構造的な問題も存在します。その意味で有権者は、行政改革への態度を通じて、カスタマーハラスメントが起きやすい構造を生み出しているかもしれません。自分自身はカスタマーハラスメントをしていないとしても、そうした構造的な視点からこの問題を考えてみてほしいと思います。

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