特集2026.10

「支え合い」の大切さを見つめ直す共助をつなぐ社会的連帯経済
お金も声も出して自分で動く

2026/10/14
共助の活動を地域や組織を超えてつなげる社会的連帯経済が、世界的に注目を集めている。日本においてその理念を先取りしていたのが、大正から昭和にかけて活躍した社会運動家の賀川豊彦だ。それらから何を学べるのか。法政大学の伊丹教授に聞いた。
伊丹 謙太郎 法政大学教授

社会的連帯経済とは?

社会的連帯経済については、2022年6月にILOがその考え方を定義しています。その定義の一つは、「資本に対し人間と社会的目的を優先させる」ことです。文字どおり、資本より人間や社会的目的を優先させることが社会的連帯経済の大きな目標の一つです。

社会的連帯経済のもう一つの大きな目的は、フォーマル経済とインフォーマル経済をつなぐことです。フォーマル経済とは政府や行政あるいは市場を通じた経済のことを指す一方、インフォーマル経済はそこには含まれない共助の経済のことを指します。

社会的連帯経済は、この二つの架け橋になることを大きな目標の一つにしています。経済はそもそも共同体内の共助(互酬)からスタートしました。そこで足りない部分を政府や市場によって支えてきたのです。ところが20世紀の経済は、その土台となっていた共助の部分が衰退し、市場と政府が経済の中心になりました。その結果生じたさまざまな課題に向き合うため、共助の考え方を経済システムの中に取り戻す必要性が認識されるようになりました。そこで重要な役割を担うのが、協同組合や共済組織、社会的企業や労働組合です。このように社会的連帯経済は、市場と政府で構成される現在の経済に対して、市民組織を中心とした共助の経済をビルドインし、それを主流化させようとするコンセプトだと言えます。

「つながり」が本質

日本における社会的連帯経済の現状については、2022年と2025年にILOから報告書を出しました。

これらの報告書を含め、日本にはさまざまな共助の取り組みがあることが識者やメディアなどによって紹介されています。ただ、社会的連帯経済という観点から見ると、各地に共助の実践が存在するだけでは十分ではありません。それらの個々の活動を一つずつつないでいくことが大切です。なぜなら、社会的連帯経済の基本的なコンセプトの一つが、地域に点在する共助をつないでいくことだからです。そのため、個々の実践が、地域内の異なる分野や異なるセクター、そして異なる地域との間でつながり、ネットワーク化していくことが、社会的連帯経済の実現のために欠かせません。

ですから、社会的連帯経済を広げるために何が必要なのかと問われれば、「つながる」の一言に尽きます。労働組合もそうですが、それぞれの組織が目の前の課題に対して「自前主義」で対応するだけでは社会的連帯経済としては不十分です。そうした「自前主義」を乗り越え、自分たちとはまったく異なる地域や分野で活動している人たちと連携することも含め、「他の組織や団体と連携すれば新しい解決策が見いだされるのではないか」と考え、つながりの中で課題を解決していく。それを地域や国、グローバルなレベルで展開していく。それこそが社会的連帯経済のあり方だと思います。

賀川豊彦がめざしたこと

ここで大正から昭和にかけて活躍した社会活動家である賀川豊彦が登場します。彼こそ社会的連帯経済の運動を先取りした人だからです。賀川豊彦に関しては、しばしば、最初は神戸で貧困対策に取り組み、それから労働運動に移って、農民運動、協同組合運動へ活動の場を変えていった人物だと描かれます。しかし、そうした見方は表面的なものに過ぎません。なぜなら賀川は、新しい運動に取り組み、その運動の担い手が成長したら仲間に任せ、自分は新たな運動を立ち上げ、それらの運動をつなぐ役割を果たしたからです。実際、賀川は労働運動や農民運動、協同組合運動にとどまらず、女性運動や宗教運動など、多様な運動をつなぐ役割を果たしました。こうした活動は、社会的連帯経済をまさに体現したものだったといえます。

賀川のこうした活動から何を学べるでしょうか。日本の社会運動は、イデオロギー対立も含めて戦前から分裂や対立を繰り返してきました。これに対して、賀川は多様な社会運動をまたぐ共通の理念の下に新しい社会を構築するビジョンを描いていました。彼は労働運動の統一だけではなく、それ以外のさまざまな社会運動をヨコにつなぐ発想を持っていました。賀川のビジョンは日本社会において長年実現してきませんでしたが、今の時代にそのビジョンをよみがえらせることは、日本社会に新たな道を切り開くことになるのではないかと考えています。

ボトムアップの運動を

賀川豊彦の精神に立ち返ろうとする際に大切なのは、先ほど述べたように「自前主義」に陥らないことです。労働組合や共済組織、労働金庫が各自で目の前の課題を解決するのではなく、さまざまな組織と相互につながりながら解決をめざすことです。

さらにそこにおいて重要なのは、それらの運動をトップダウンで実践しようとせず、一般組合員の力を生かしたボトムアップの運動を展開することです。組織間の連携を最初からトップダウンで決めてしまうと一般組合員の自発性が失われ、「やらされ」になってしまいます。それでは運動は発展しません。

一般の組合員の皆さんこそが運動の最前線の担い手です。組合員の皆さんは、生活者として地域とのつながりを持ちながら暮らしています。そこで感じる「こういう活動をしたい」とか、「こういう組織とつながりたい」という思いを、労働組合の中に持ち込んでもらう。組合員のそうした「声」を組織の活動に生かすことが社会的連帯経済の実現のために不可欠です。

お金を出すだけではない

組合役員の皆さんは、新入社員から次のような質問をよく受けるそうです。「私たちが払った組合費は、どういう形で私たちの手元にサービスとして戻ってくるんでしょうか」と。

しかし労働組合という組織はそもそも、自分たちがお金を払ったら、その対価として個別のサービスが返ってくるというような組織ではありません。むしろ、「自分一人ではできないことを仲間と一緒ならできるようになる」ことを原理とした組織です。例えば、1人の1万円ではできないことでも、5人で5万円集まれば何かできるかもしれない。それが100人ならもっといろいろなことができるかもしれない。そうした共通の資源を創ることで、さまざまな活動を実現する共助のための組織です。ですから「自分が出したお金が、そのまま自分に戻ってくる」という発想そのものが、そもそも共助組織の考え方とは、ずれていると捉えてほしいと思います。

共助の組織とは、みんなでお金を出し合い、一緒に汗を流すことで、1人ではできなかったことをできるようにする組織です。ですから、お金を出すだけではなく、その使い方に組合員自身が声を出し、参画していくことが欠かせません。「こういう課題を解決したい」という思いを実現するために、お金も声も出して自分も動く。そうやって、みんなで一緒につくっていくのが、共助組織なのだと思います。

労働組合はそうした共助組織の中心的なアクターです。社会的連帯経済を実現するために組合員一人ひとりのつながりを生かしてほしいと思います。

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