AIが働く人に与える影響
働き方や労務管理はどう変わるのかAIが促し管理する「協働」
あらゆるプロセスがモニタリング可能に


競争力の源泉は何か
ここ数年、職場におけるAIの実装が急速に進んでいます。アメリカではAI投資のために雇用を削減する企業もあり、AIによる雇用喪失に世間の注目が集まっています。
しかし、注目すべきは、単純な仕事がAIに置き換わることだけではありません。むしろ重要なのは、企業が何を競争力の源泉にし、そのためにAIをどのように使おうとしているかです。AIはあくまで成長のための道具に過ぎません。企業が何を競争力の源泉としており、そのためにAIをどのように使おうとしているのかを把握することが重要です。
そこで注目すべきなのは、従業員が「協働」する能力です。現代における企業の競争力の源泉は、イノベーションの創出にあります。そのために従業員間の協働が不可欠であり、AIはそうした協働を促すために使われています。
ジョブ型と協働
どういうことなのかを見ていきましょう。アメリカ企業は、1980年代まで協働する能力を積極的に活用してきませんでした。背景にはアメリカにおける「ジョブ型」の働き方があります。アメリカでは、個人の「ジョブ」の範囲を明確に定め、それを基準に労働条件を決める働き方が構築されてきました。しかし、従業員の協働を促すためには、仕事と仕事の境界線をあいまいにする必要があります。そうした仕事の境界線をあいまいにする働き方は、アメリカの「ジョブ型」の働き方にそぐわなかったのです。
しかし、1980年代に日本企業が国際競争力を高めると、アメリカ企業は働き方の見直しを迫られました。日本企業は、サプライチェーンを含めて隅々まで協働する能力を活用することで品質向上と低価格を実現していきました。これに対してアメリカ企業は1980年代から90年代にかけて日本企業の強さを徹底的に分析しました。その範囲は、生産管理や人的資源管理にとどまらず、文化や教育も含めて幅広い領域に及びました。
1990年代以降、アメリカ企業は日本企業から学んだ連携力を企業経営に実装していきました。その中で急成長を遂げたのが「GAFAM」と呼ばれるビッグテック企業でした。これらの企業は、競争力の源泉となるイノベーションを起こす領域で協働する能力を活用し、競争力を高めていきました。日本企業のモデルをイノベーションを起こす領域に応用することで急成長を遂げたのです。
AIはどう使われているのか
AIの活用は、こうした流れの上にあります。つまり、1990年代以降、アメリカ企業が連携や協働を重視する経営を展開する中でAIが発展し、その強化のためにAIが使われるようになったということです。
AIの発達によって何ができるようになったのでしょうか。AIの発展は、業務のあらゆるプロセスをモニタリングすることを可能にしました。メールやチャット、クラウドに保管しているファイルや予定表、さらにはオンライン会議の発言録まで、幅広いデータにアクセスして従業員の動きを把握することが可能になりました。
その中で企業は、収集したデータを次のように使っています。一つは、プロジェクトの進捗管理です。誰が誰とどのようなやりとりをしているか、会議でどのような発言があったかといったプロセスをモニタリングして、イノベーションにつながる動きなどを把握しようとしています。
もう一つは、人事評価です。誰がどんなスキルを持ち、どのプロジェクトに参加し、そこでどのような貢献をしたのか。こうしたプロセスを記録することで、評価や人事異動の判断材料に活用しようとしています。このように日常のプロセスそのものを評価できるようになったので、従来の数値目標型の評価方式ではなく、プロセスを重視する「ノーレーティング」を導入する企業も増えています。要するに、アメリカ企業は、企業の競争力を高める連携や協働をマネジメントするためにAIを活用しているのです。
日本企業もこうした流れの上にいます。特に2000年代以降、新興国の台頭で国際競争力が低下した電機メーカーは、品質管理からイノベーションを軸にしたソリューションビジネスにかじを切りました。その中で、アメリカ流の仕組みを導入し、組織のあり方を大きく変えようとしています。
このようにAIは、単純作業を置き換えるためだけではなく、企業の競争力の源泉であるイノベーションを起こす力を高めるために使われています。企業にとって重要なのは、後者であることに注目する必要があります。
AI活用のリスク
こうしたAIの実装は、従業員にとってどのようなリスクをもたらすでしょうか。まず挙げられるのは、AIによる常時モニタリングが強まることです。メールやチャット、会議の発言も含めて、どのようなことも監視の対象になり得るので、働く側からすると手を抜けません。
もう一つは、AIに評価されやすいような行動を強制されることです。AIは収集したデータに基づいて回答するため、AIが認識しやすい形で働くことが求められます。わかりやすい行動をしなければ正当に評価されないリスクが生じます。AIの回答はブラックボックス化しやすく、収集されたデータが客観的に使われる保証はありません。データを適正に活用できる管理者教育が重要になります。
さらに問題なのは、こうしたシステムが選別のために使われることです。アメリカでは実際、AIによるプロセス管理が行われていて、協働に貢献しない人が解雇され、高年収の人だけが企業に残る構造が生まれています。日本の場合は昇進や昇格の遅れという形で差が表れ、最終的には退職勧奨に結び付きます。また、評価の高い人材に報酬を集中させるために従業員間の賃金格差を広げるような動きもみられます。
協働の成果は誰のものか
こうした動きに対して労働組合はどう向き合うべきでしょうか。ただでさえ、日本の賃金は諸外国に比べ相対的に上がらず、生活防衛が重要になっている局面です。労働組合が格差の拡大を受け入れれば、組合員間に分断が生まれ、労働組合の存在意義そのものが問われかねません。労働組合にとっては、すべての働く人の生活を守り、生活賃金を引き上げていくという観点が重要です。
企業は、AIの成果を企業利益につなげようとしています。しかし、協働から生み出される成果は企業利益にだけ還元されるべきでしょうか。人々の協働は、社会のため、人間として豊かに生きていくためにも大切です。AIによる管理が強まるほど、職場以外での協働に力を割く余裕はなくなっていきます。企業だけが協働の成果を得る社会でいいのか。そうした視点で問い直すことも大切だと思います。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

