AIが働く人に与える影響
働き方や労務管理はどう変わるのかAI時代における労働組合の役割
ルールづくりを起点に
働く意味を問い直す


主任研究員
はじめに
生成AIをはじめとするデジタル技術の進歩は、私たちの働き方を大きく変えつつあります。文章作成や情報収集、データ分析など、人間が担ってきた業務の一部をAIが代替・支援するようになり、業務効率化や生産性向上への期待が高まっています。
その一方で、AIを活用した労務管理の高度化、デジタル技術の習熟度による格差の拡大、さらには仕事と生活の境界が曖昧になることによる時間への介入など、新たな課題も生まれています。
本稿では、こうしたAI・デジタル時代において、労働組合はどのような考え方を持って、その役割を果たしていくべきかを考えてみたいと思います。
「働くことの哲学」が
求められる時代
AI時代の労働組合には、賃金や労働条件の改善だけでなく、「人間にとって働くとは何か」という問いに向き合う姿勢が求められると考えます。効率性や生産性を追求する論理に対し、人間らしい生き方や働き方を守るためには、自らの背骨となる思想が必要だからです。
その際、政治哲学者ハンナ・アーレントの議論は大きな示唆を与えてくれます。アーレントは人間の営みを、生きるための「労働(labor)」、社会に残るものを生み出す「仕事(work)」、そして公共的な参加を意味する「活動(action)」に区分しました。この考え方からすれば、AI時代の理想とは、反復的・定型的な「労働」をAIが担い、人間がより創造的な「仕事」や社会参加としての「活動」に力を注げるようになることと言えます。
AIは膨大な情報を整理し、一定の答えを提示することはできます。しかし、その答えを吟味し、価値判断を行い、他者と協働しながら新たな価値を創造することは人間にしかできません。また、AIによって一人で完結できる仕事が増えることは、生産性向上という点では大きなメリットです。その一方で、職場における対話や協働の機会が減少する可能性もあります。人は他者とのかかわりの中で学び、成長し、働く意味を見いだしてきました。効率化を追求するあまり、そうした人間的な営みまで失ってよいのかという問いも忘れてはならないでしょう。
これからの職場では、単なる処理能力ではなく、創造性や対話力、協働する力がより重要になると考えられます。また、効率化によって生まれた時間を学びや地域活動、家族との時間に振り向けることができれば、人々の生きがいはより豊かなものになります。
一方で、介護や建設、物流などのエッセンシャルワークは今後も社会に不可欠です。こうした仕事の価値を改めて評価し、処遇改善や労働環境整備を進めることも、働く意味を問い直す上で重要な課題です。
AI時代のルールづくりに
労働組合が関与する
こうした理念を現実の職場で実現するためには、AIの導入や活用に関するルールづくりに労働組合が積極的に関与する必要があります。近年、多くの企業でAIやデータ分析が人事評価や業務管理に活用されています。また、個々の業務でもAIの利用が広がり、AIを用いて作成した資料や企画書が社内外で成果物として活用される場面も増えています。
しかし、どのようなデータが収集され、どのような基準で評価や判断が行われているのかが十分に共有されているとは限りません。また、生成AIを活用して作成された成果物について、誰がどこまで責任を負うのかという点も必ずしも明確ではありません。AIは有用な支援ツールですが、最終的な責任を負う主体にはなれません。だからこそ、人間による確認や判断のあり方を含めたルールづくりが必要になります。
そのため、まず必要なのは実態把握です。職場でAIがどのように活用され、どのようなメリットや課題が生じているのかを、アンケートやヒアリングを通じて把握することが重要です。その上で企業と建設的な対話を行い、AI活用のルールを共同で形成していくことが求められます。評価や配置、業務にAIを活用する場合には、仕組みの透明性や説明責任を確保しなければなりません。
AI時代における労働組合は、賃金や労働時間だけでなく、アルゴリズムの運用ルールにも関与する主体として、新たな役割を担うことになるのではないでしょうか。
学び直しと時間主権を守る
AIの普及に伴い、デジタル技術を使いこなせる人材の市場価値はさらに高まると考えられます。そのため、リスキリングや学び直しの重要性も増していくでしょう。しかし、その責任を労働者個人だけに負わせるべきではありません。
企業には教育訓練の機会を提供する責任があり、労働組合には誰もが公平に学びの機会へアクセスできるよう働きかける役割があります。また、学び続けるためには時間の確保も欠かせません。AIによる生産性向上の成果は、企業収益の拡大だけでなく、労働者の生活の質の向上にも還元されるべきです。
長時間労働の是正や勤務間インターバル制度の普及、「つながらない権利」の確立などを通じて、人々が自らの時間を主体的に使える環境を整えていく必要があります。情報労連は「21世紀デザイン」で「時間主権の確立」を掲げています。AI時代において重要なのは、単に効率化を進めることではなく、その成果を人間の自由な時間へと結び付けることではないでしょうか。
また、AIによる変化の影響は組合員だけに及ぶものではありません。非正規労働者や求職者、失業者を含め、誰もが学び直しの機会にアクセスできる環境を整えることが、格差や分断を防ぐ上で重要です。労働組合にはメンバーシップの利益代表にとどまらず、産別労組や連合と緊密に連携し、より広い意味で働く人々を支える役割が期待されています。
おわりに
AIは人間に代わる存在ではなく、人間の可能性を広げるための手段です。その恩恵を社会全体で共有するためには、技術の発展とともにルールづくりを進めていかなければなりません。労働組合は、働く人々の声を集め、企業との対話を通じてルールを形成する存在です。AI時代において、その役割は決して小さくなりません。むしろ、人間らしい働き方と社会を守り、創り出す担い手として、その存在意義は一層高まっているように思います。
AI時代に労働組合は何を守り、何を創るのか。その問いに向き合うことこそが、これからの労働組合運動に求められている本質的な使命ではないでしょうか。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

