特集2026.07

AIが働く人に与える影響
働き方や労務管理はどう変わるのか
クリエイターの脅威となる生成AI
AIの利活用と権利保護の両立が不可欠

2026/07/13
クリエイターの創作物が無断で生成AIの学習データとして使われており、フリーランスのクリエイターにとって重大な脅威となっている。この脅威はフリーランスだけのものではない。雇用労働者も含め働く人全体で向き合う必要がある。
西野 ゆかり 一般社団法人
日本フリーランスリーグ理事長

約2万5000人が回答

一般社団法人日本フリーランスリーグでは、2026年1月に「生成AIと日本のクリエイターの未来についての調査結果」を発表しました。インターネット上でアンケートを行い、約2万5000人のフリーランスで働くクリエイターが回答してくれました。回答者の約7割がイラストレーターや漫画家といった絵を描く職業の人で、そのほかにライターやデザイナーの人たちなどが回答してくれました。

調査結果から見えてきたのは、生成AIがフリーランスの生計そのものを揺るがす構造変化になっていることです。例えば、「生成AIは、クリエイターの専門分野の生計にとって、重大な脅威となる」という設問に対して「強くそう思う」(65.3%)、「ややそう思う」(23.3%)の合計が88.6%に上り、危機感の強さが明らかになりました。また、AIに関連して「将来の仕事に不安がある」と答えた人は56.2%に上り、心理的な不安が広がっていることもわかりました。

画像生成の分野では、作風模索や無断学習が大きな問題となっています。作風は、クリエイターにとって人格やキャリアと結び付いたものですが、それが本人の同意なく学習され、再利用されている現状があります。にもかかわらずクリエイター側には権利も交渉力もありません。そこに最も大きな問題があります。

透明性と同意の不備

仕組みの不備として大きいのは、AIの運用における「透明性」と「同意」の欠如です。調査では、学習データに使われた著作物リストの公開の義務化が「重要」と答えた人が92.8%に上りました。また、データ学習利用の事前許諾制について61.6%が支持していました。作品を無断で使われてしまうことへの強い警戒感が顕在化しています。

一方で、私が深刻だと感じた回答の一つは、「創作活動以外の収入源を確保し、経済的な安定を図る」と答えた人が1割ほどいたことです。AIは非常に便利な技術ですが、その土台には、クリエイターが生み出す作品があります。ゼロから一を生み出すクリエイターが悲観して将来を諦めてしまえば、次世代のクリエイターが育ちません。このままでは業界そのものが先細りする懸念もあります。クリエイターの権利を保護し、次世代の担い手を育てる必要があります。

権利保護のための統括機関

フリーランスの権利保護のためには、「技術の話」と「労働・契約の話」を切り離さずに設計することが不可欠です。日本フリーランスリーグとしては、次のような政策提言をしています。例えば、学習データの透明化の義務化やデータセットの出所や範囲の開示の義務付けのほか、クリエイターに利益が還元される仕組みや労働環境の改善、さらにはクリエイターの権利保護と政策を一元的に担う専門機関の設置を提言しています。

クリエイターの労働環境の改善に関しては、韓国の取り組みが参考になります。韓国は、国として文化・芸能・芸術を重視し、契約書のひな形や権利保護の仕組みを整えてきました。例えば脚本家の契約でも、企画がキャンセルになった場合の支払い条件まで定められています。日本では、著名なクリエイターであっても、打ち合わせを重ねた企画が発注側の都合でなくなってもキャンセル料が支払われないことが多いです。韓国では、そうした契約や権利保護を支える統括的な機関があり、収益や輸出額の増加にもつながっています。日本でも、クリエイターを横断的に支える統括機関が必要だと考えています。

クリエイターの連帯組織を

一方、クリエイター側としても個人で問題を抱え込むのではなく、連帯して声を上げることが重要です。そのためにはクリエイターもギルド的な組織を構築し、政策決定のプロセスに主体的にかかわることが重要になります。日本フリーランスリーグとしては、「絵を描く人」の横断的ギルド(連帯基盤組織)の設立支援を掲げています。今回のような調査を活用しながら、ルールメイクに参加することが重要だと考えています。

実際、海外では俳優や脚本家などが加入するSAG-AFTRAのような職種別の労働組合が企業との交渉役として機能しています。例えばOpenAIとディズニーの提携に対しても、既存の労働協約の維持を条件に提携を認めるような動きをしていました。日本でも、クリエイターが連帯して政策の設計に参加する運動が重要です。

労働組合との協働が重要

生成AIの問題は、すべての働く人の労働条件と権利にかかわる問題です。実際、企業で働くクリエイターやエンジニアも自分の成果物やデータがどのように使われるのかわからないまま不安を抱えています。AIの問題は立場の弱いフリーランスから現れやすいといえますが、その問題は時間差を伴って企業内の雇用労働者にも波及していきます。労働組合には、フリーランスの課題を特殊な問題として切り離さず、働く人全体の問題として認識してほしいと思います。

あわせて労働組合には、企業内の組合員だけでなく、外部のフリーランスやギルドとの連携を進め、共同声明や共同交渉の枠組みをつくることを期待しています。フリーランスと企業内で働くクリエイターの実態を調査するなど、政策提言のハブとなり、社会に広く発信することも期待しています。

今回の調査で明らかになったのは透明性や同意というクリエイターの基本的な権利の重要性でした。そして、個人では対応しきれない構造変化に対して、連帯と対話の基盤が必要だという認識も共有できたと思います。日本フリーランスリーグとしては、行政・産業界・労働組合の皆さんと協力しながら、AI時代の文化産業を支える新しい社会的インフラをつくっていきたいと考えています。

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