AIが働く人に与える影響
働き方や労務管理はどう変わるのかAIとの協働を
働く人のwell-beingにつなげるために
労使の社会対話が必要

(metamorworks/PIXTA)

はじめに
生成AIをはじめとするAI技術は、議事録作成、文書の下書き、資料作成、問い合わせ対応、情報整理、ソースコード作成など、すでに職場のさまざまな場面に入り始めています。人手不足が深刻化する中、AIは業務負担の軽減をはじめ、生産性や業務品質の向上、長時間労働の是正や生活時間の確保にも資する可能性を持っています。情報労連は、ICTを個人や社会のwell-beingの向上に役立てる視点から、「暮らしやすい社会」の実現をめざしてきました。AIについても、創造的な仕事や新たな価値づくりを支え、働く人の時間や学び、生活の豊かさにつなげる道具として活用していくべきであり、その鍵は企業労使における協議を含む社会対話にあります。
AI活用に当たって労使で共有すべき視点
AIの活用が働く人にとって望ましいものになるかどうかは、自動的に決まるわけではありません。重要なのは、AIを誰が、何のために、どのようなルールのもとで使うのかを労使で確認しながら、働く人のwell-beingにつながる活用のあり方を主体的に形づくっていくことです。
AIの職場導入に当たっては、会社が一方的に進めるのではなく、目的や影響、運用ルール等を労使で確認しながら進めるべきです。その際、AIによる効率化の成果を単なる生産性向上にとどめず、働く人の負担軽減、仕事の質の向上、休息や生活時間の確保、学び直しやスキル形成の機会の拡大へと結びつけるという方向を労使で共有することが重要だと考えます。
AI活用によるリスクへの対応と働く人への還元
AIの導入は、単なる効率化にとどまらず、役割分担や判断のあり方にも影響を及ぼし得るものであり、だからこそ、AIに何を任せ、人が何を担うのかを事前に明確にしておく必要があります。例えば、ソフトウエア開発の分野では、品質や安全性を支えてきた熟練エンジニアの確認・検証を、脆弱性の発見や複雑なコードの整合性確認などの面でAIが支援する場面も広がっています。
こうした変化は、AIが人の仕事を単に代替するというよりも、人が担うべき役割の重心を変えていくものだといえます。つまり、AIの活用が広がるほど、働く人には、AIの出力をうのみにするのではなく、業務の目的や現場の実情に照らして妥当性を見極め、採否を判断し、その理由を説明できる力が求められていきます。「最終判断は人が行う」という原則も、こうした力に支えられてはじめて実質を持つものです。
しかし、その力は一朝一夕に身につくものではなく、従来、現場での経験や試行錯誤の積み重ねによって養われてきたものです。AI活用によって、人にしか担えない役割がやせ細らないよう、現場での業務経験や学びの機会を確保し、人間の判断力や現場対応力をどう維持・形成していくのかという中長期的な視点も欠かせません。
また、AI活用が進めば、効率化や省力化は進みますが、その成果がそのまま働く人のwell-beingにつながるとは限りません。生産性向上によって生み出された成果は、本来、働く人にも公正に還元されるべきものです。しかし、作業時間が短縮されても、その分だけ業務が上積みされれば、労働密度が高まり、休息や生活時間を圧迫しかねません。だからこそ、AI導入の効果を生産性の伸びだけで測るのではなく、導入後の業務量、労働時間、労働密度、メンタルヘルス、仕事の質などへの影響を労使で確認しながら、生産性向上によって生み出された成果を、賃金や人材投資、労働時間の短縮、生活時間の確保など、働く人にどう還元していくのかを労使で話し合うことが重要です。勤務間インターバルの確保や「つながらない権利(勤務時間外の連絡ルール)」の確立など、働く人の休息と生活を守るための対策をあわせて進めていくことも求められます。
加えて、AIが採用、業務配分、監視、評価などに用いられる場合には、裁量の縮小、バイアス、不透明な判断、過度な監視といった問題も生じ得ます。実際、日本においても、賃金査定AIを巡り、労働組合がAIの学習データや評価項目の開示を求め、透明性と説明責任の確保を前進させた事例もあります。どのようなデータを収集し、何のために使い、どこまで保存・共有するのかを明らかにすることとあわせ、判断根拠や評価基準について説明を受け、必要に応じて異議申し立てや見直しが求められる仕組みを整えることも必要です。
労使協議の強化に向けて
ILOが2025年に公表した報告書によれば、欧州などでは、AIやアルゴリズム管理を巡る労使協議や労働者保護に関する議論が、法制度や国家レベルの対話枠組みも含めて具体化しています。他方、日本では、企業別組合を基盤とした企業レベルの労使協議が重要な役割を果たしてきました。また同報告書は、日本について、構造的な人手不足を背景に、生産性向上やスキル向上に焦点を当てた協調的な社会対話がみられると分析しています。
こうした分析は、私たちの職場実感ともおおむね整合的です。日本においては、AIそれ自体を独立した交渉テーマとして切り出すというより、新たなシステム導入や業務効率化、要員配置、教育訓練など、既存の労使協議上の論点の中で扱われることが多いのではないでしょうか。
とりわけAIの導入は、業務の進め方や役割分担、求められるスキルを変えていく側面が大きく、現場実態に即してその影響を見極める企業段階・職場段階での労使協議が重要です。一方で、企業ごとの対応のみに委ねれば、協議の有無やルール整備の内容、労働者保護の水準に差が生じかねません。実際、労働政策研究・研修機構(JILPT)が2025年に公表した「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」では、職場でAIが使われた労働者に限っても、新しい技術の導入について雇用主が労働者または労働者代表と話し合った割合は32.0%にとどまっており、なお限定的な状況にあります。
こうした状況を踏まえれば、個々の企業労使の努力に委ねるだけでは不十分であり、政府には、国・産業・企業の各レベルにおける社会対話を促進していくことが求められます。その際、AI導入・活用に関する影響評価の考え方を示すとともに、労使協議、情報共有、導入後の検証・見直しのあり方について基本的な方向性を示すことも重要でしょう。あわせて、AIの活用に伴って求められるスキルの変化に対応できるよう、人材育成、リスキリングを含む学び直し、必要に応じた職種転換への支援のあり方等についても整理していく必要があります。
情報労連としても、AIの導入と活用が働く人のwell-beingの向上につながり、誰もが暮らしやすい社会の実現に資するものとなるよう、各構成組織と連携しながら職場実態や労使協議の現状把握に努めるとともに、企業労使における対話の実効性を高める政策的対応について検討を深めていきます。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

