AIが働く人に与える影響
働き方や労務管理はどう変わるのかAIは人事をどう変えるのか
問われるデータ活用と人間力


経営管理研究科 講師
HRテクノロジーにおけるAIの進化
HRテクノロジー大賞の審査委員長を務めています。毎年の審査を通じて人事部門における生成AIの急速な活用を実感しています。一昨年は生成AIを活用した企業が大賞を取りましたが、昨年はAIエージェントを活用した企業が大賞でした。最近ではマルチAIエージェントを活用する企業が増えており、今年の審査でも注目されそうです。
AIの進化によって大量のデータ分析が可能になりました。そもそも人は複雑な要素から成り立っており、分析のためのパラメーターが膨大で体系化が難しいという課題がありました。しかし、AIが進化したことで大量のデータを分析できるようになり、人事部門におけるAIの活用が急速に進んでいます。
近年では急速な技術進化に伴い、AIを自律的な労働力としてカウントできるようになっています。かつてのRPAは指示されたことだけをこなすロボットのような存在でしたが、AIエージェントは自律的に動いてくれるため、人間に近い労働力になりました。そのため、CHRO(最高人事責任者)とチーフAIオフィサーを兼務する動きも出てきています。CHROがAIエージェントを労働力としてマネジメントする必要が出てきているということです。
最近のAIの使われ方として特徴的なのは、タレントマネジメントのように、人をどう生かして、どう活躍してもらうのか、チームをどうつくるのかといった分野での活用が広がっていることです。社員の経験やスキルに関するデータは、膨大な量に上るため管理が難しいという課題がありました。しかし、AIの発達によってその分析が容易になっています。給与や勤怠管理といった定型業務における活用はもちろんのこと、企業の組織力を高めるためのデータ活用が急速に広がりました。そうした中で、「HRBP」(Human Resource Business Partner)という言葉が普及しています。これは、事業戦略の成功のために人材戦略の役割が高まっていることを意味しています。人事が企業の成長をけん引する方向へとシフトしているのです。
日本企業における課題と活用法
AIの発達によって膨大なデータを分析できるようになりましたが、課題もあります。日本企業の場合はデータの整理が不十分なことです。分析ツールは進化したものの、分析するためのデータがそろっていないのです。
加えて、質の高い分析を行うためには、質の高いデータが重要です。そのためにはインターネット上の情報では不十分で、社内にある質の高い情報をいかに収集できるかがポイントになります。どのようなデータを優先的に集めるかは経営の判断になり、そこにはアナログの部分が残されています。まずはいかに質の高いデータを集めるのかが大切です。
その点、日本企業では、データの集め方があまり進化していません。例えば、技術を使えば、メールや動画、音声をはじめ、あらゆるデータを収集・分析することは可能ですが、倫理的な問題もあります。その結果、会社がタレントマネジメントのツールを用意し、社員が自分のスキルを手入力するようなケースも散見されます。しかし、社員も日々忙しいため、データがなかなか集まらないという問題があります。社員のデータをどのように集めるのかについては、多くの企業が悩んでいるのが実態です。
他方、欧米では、ビジネス特化型SNSの「LinkedIn」を見るとわかるように、その人のスキル情報がかなり細かく登録されています。どのような教育を受けて、どのような仕事を経験して、どのようなスキルを身に付けてきたのかということが、こと細かに書かれています。これに対して日本ではこうした情報はまだまだ少ないのが実態です。
こうした中、HRテクノロジー大賞の受賞企業では、スキルマッチングなどでAIを活用しています。例えばNTTドコモでは、社員の希望やスキル、職歴を分析して最適な異動先をAIが提案するシステムを活用し、組織全体の人材活用を最適化しようとしています。また、スキル向上のための活用も進んでおり、KDDIでは、「ジョブ」に必要なスキルを定量化して、社員のスキルを測定する仕組みを開発することで、社員の自律的なスキル開発を促進しています。
ここ数年、スキルベース組織という言葉が広がっているように、社員のスキルをどのように把握して、最適な組み合わせやスキル向上につなげるのかに注力しているといえます。
評価はどう変わるのか
AIの進化で人事評価のあり方も変わりつつあります。具体的には、AIの進化によって、何ができたのかという結果の評価だけではなく、日々の仕事のプロセスが重視されるようになっています。
その中で「パフォーマンスマネジメント」という言葉が広がっています。一般的には、社員の能力やモチベーションを引き出すマネジメント手法のことを指しますが、年1回といった結果の評価ではなく、日常的なフィードバックを通じた成長支援を重視する点が特徴です。こうした支援がAIの進化によってやりやすくなりました。例えば営業なら、日々のデータを蓄積することで売り上げ目標に対する進捗を把握することができ、目標の達成に向けて次にどのような行動をとるべきかをAIがサポートすることができます。
このように日々の仕事のデータが蓄積されることで結果だけではなく、そこに至るまでのプロセス自体も評価できるようになっています。ただし、ここでのポイントは、プロセス管理を単なる評価ツールにしないことです。AIを評価のために使うのではなく、本人を支援するために使うことが重要です。
AIを利用する際には、社員が不利になったり、不公平感が生まれたりする使い方をせず、社員にメリットがある形で使うことが重要です。AIによって不利な評価をされるようならトラブルの多発が予想されます。働く人をサポートする方向で使用することが欠かせません。
人事部の役割はどう変わるのか
AIの進化によって人事部の役割はどう変わるのでしょうか。これまで人事部門では、労務管理や制度運用などのテクニカルな業務が大きな割合を占めていました。しかし、そうした定型的な業務は次第にAIに置き換わっていきます。
その一方、これからの人事に求められるのは人を深く理解する力です。AIが出してきた分析結果をどう受け止め、現場の実態に照らしてどう判断するのか。社員のパフォーマンスを高めるには何が必要なのか。テクノロジーを理解するだけでなく、人間そのものを理解する力がこれからの人事にとって重要になっていくといえます。
テクノロジーの進化によって現場の情報は収集しやすくなっています。ただし、それだけでは拾い切れない声もあります。そうした声を現場に行って吸い上げるのも人事の役割です。
その点、労働組合は技術では吸い上げ切れない声を集めることができるはずです。そうした声を吸い上げつつ、労働組合には、社員一人ひとりの活躍や成長を支援する役割が求められています。
![情報労連[情報産業労働組合連合会]](/common/images/logo_ictj.png)

