ストレスチェック制度がスタート相手の話を徹底的に聴いて職場で改善できる点は変えていく
本名は鬼頭幸三。(株)アドバンテッジリスクマネジメント・シニアコンサルタント。名古屋大学非常勤講師、日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー、日本産業カウンセラー協会産業カウンセラー。(株)名鉄百貨店で労働組合執行委員長を6年間務め、組合員の相談に応じる中でカウンセラーの資格を取得、その後、プロのストレスマネジメント講師に。講演・研修は年間200件を超える。
─最近の労組役員からキティさんへの相談の傾向は?
組合員がメンタル不全になる前に、労組役員が相談に訪れるケースが増えています。以前はメンタル不全に関する内容が中心でしたが、そうなる前の状態に関する内容の相談です。企業や労組がメンタル不全の予防活動を強化していることの表れだと言えます。
パワハラの相談もたくさん受けています。また、ストレスチェック制度が導入されることに伴い、制度に関する相談も増えています。労組として正しい知識を身につけたいということのようです。
─組合員からの相談対応のポイントは?
労組役員が組合員から受ける相談には三つのケースがあります。1.組合員本人からの相談 2.当該組合員の周囲の人からの相談 3.組合員からの自分の家族に関する相談の三つです。
相談を受けたら、まず相談者の話を徹底的に聴いてください。そして、職場で変えられることがあれば、会社と交渉するなどして変えていく。変えられないようなことだったら、とにかく相手の話を聴いて、共感してあげるようにしてください。間違っても「お前は間違っている」などと言ってはいけません。そう言われた本人は、「わかってもらえない」と思い、誰にも相談できなくなって、メンタル不全に追い込まれてしまうかもしれません。大切なのは、相談者にとっての理解者を増やしていくことです。
話を聴く際は、まず自分の意見を言わず、相手の話が終わるまでじっくり聴いてください。質問は相手の話が終わった後で問題ありません。話の途中では、相手の目を見ながら、うなずいたり、相づちを打ったりして、相手の話を受け止めてください。また、「ミラーリング」と言いますが、自分の表情を相手の表情に合わせるようにしてください。相手がつらそうな顔をしたら、つらそうに。楽しそうなら楽しそうにということです。
相談者の話には、「事実」と「感情」があります。相談を受ける労組役員は、相談者の「感情」を受け止めてください。相談者が事実ばかり話すようだったら、一言「つらかったですね」など、「感情」に応えるということです。
また、「相談の応え方」には、「はね返し」と「くり返し」があります。「はね返し」は、「あなたが悪い」などと、相手の意見をはね返すこと。「くり返し」は、相手が話したことをもう一度繰り返すことです。労組役員を対象にした研修では、この「くり返し」が大切だと伝えています。大切なのは話を聴こうとする心構えです。
─「傾聴」などのほかにポイントは?
相談を受けた際は、相手の悩みを解決しようとしてはいけません。相談者は悩みを解決してほしいのではなく、悩みを聴いてほしいという人がほとんどです。例えば、相談者の組合員が離婚しようかどうか悩んでいる。こうした場合に、労組役員の側に、離婚した方がいいのか悪いのかという答えはありません。その答えは、相談者の中にあります。相談者は労組役員に決断を求めているわけではないのです。
それでも、相談者から答えを求められることがあるかもしれません。そういう場合は、「占い師のところに行くように伝えるべき」とレクチャーしています。
繰り返しになりますが、労組役員はまずはとにかく相手の話を徹底的に聴いて、変えられるところは変えていくことが大切です。職場を変えていくためには、会社と交渉するための根拠が必要です。職場環境を改善する必要を感じたら、多くの人の意見を集めたり、アンケートを取ったりしてください。それが交渉する際の根拠になるはずです。
労働組合は、組合員が気軽に相談できる雰囲気をつくることが大切です。会社の上司や先輩、同僚、家族に相談できる人がいなければ、組合員は一人で思い悩むことになります。労働組合が相談窓口として機能すれば、そうした事態を予防できます。
研修では必ず“組合役員は愛の気持ちを持ってください”と訴えています。愛とはLOVEではなくて、組合員の皆さんをいつも見守っていますよという気持ちです。愛の反対語は無関心です。組合役員が組合員のことをいつも気にかけているという姿勢が相談しやすい雰囲気をつくると思います。
─労組役員へのアドバイスを
相談を受ける労組役員の皆さんにもたくさんの苦労があります。グチを聴き続けても感謝の言葉一つもらえないこともあるでしょう。それではモチベーションが下がるのも当然です。けれども相談者のうち10人に1人が「ありがとう」と言ってくれるとうれしい。それをモチベーションにがんばるしかありません。
人間は悩む生き物です。人間から悩みが消えることはありません。労組役員の皆さんも誰かに不満をぶつけることもあるでしょう。そう考えれば、「お互いさま」の気持ちで相談を受けてほしいと思います。労組役員の皆さん自身も誰かに「相談できる人」になってほしいと思います。自分の弱音を吐ける場所をつくってください。自分が弱音を吐けないのに、人に弱音を吐けというのはおかしなことです。弱音を吐けない人は、人に対しても「弱音を吐くな」と言ってしまうでしょう。自分が誰かに相談できる人だからこそ、相談者の立場を理解できるようになるのだと思います。
─活動事例はありますか。
メンタル不全を予防する活動の事例を紹介します。一つは、あいさつ運動です。それも相手の顔を見てあいさつする。メンタル不全は表情に表れやすいので、それに気付いてあげるために、顔を見てあいさつする。パソコンに向き合った仕事が増えています。ありきたりのようですが、こうした活動も効果的な取り組みとなります。また、「サンキューカード」のように感謝の気持ちを伝える仕組みも有効だと思います。
─ストレスチェック制度が導入されました。
法令化された「ストレスチェック制度」に関しては、努力義務ではありますが、「集団分析」を活用してほしいと思います。職場全体のストレスの状況を分析する仕組みです。ストレスが低かった職場の取り組みを全体で共有するなどして集団分析を活用してください。
ストレスチェック制度の導入に当たっては、プライバシーの問題に細心の注意を払うことが重要です。この制度は病気の人を見つけることが目的ではありません。心の健康診断を無理やり受診させたり、個人の情報が会社に漏れたりすることが絶対にないよう労組として働きかけてください。