特集2016.01-02

働く人のための「民主主義ってなんだ?」職場の問題はみんなで解決できる
労働組合機能の再発見を

2016/01/26
「ブラック企業」「ブラックバイト」など、劣悪な職場環境を示す言葉が流布するなど、若者の労働環境は厳しい状況が続いている。そのような現実の中で若者に対して労働者の権利をどう伝えればいいのだろうか。
高須 裕彦 一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センター プロジェクト・ディレクター

若者の過酷な労働環境

バブル崩壊から20年余の月日が過ぎ、若者の働き方は激変しました。20年前は2割程度だった非正規労働者の比率は、2015年には4割に。高校、大学を卒業すれば正社員で働くのが一般的だった時代から、男性も含めて正社員になれない状況になっています。

正社員で採用されたとしても、低賃金で働かされるケースが増えてきました。総務省が実施した「平成24年就業構造基本調査」によると、男性正社員の22.7%、女性正社員の51.8%が年収300万円未満という状況。年収400万円未満まで広げると、男性正社員の42.1%、女性正社員の72.2%が該当します。また、正社員は長時間労働を強いられるケースが多く、過労死認定の水準となる週60時間以上働いている割合は14%。25歳から39歳の男性正社員に限定すると19~20%に及びます。労働時間と責任だけが与えられ、給与が低く抑えられる「名ばかり店長」「名ばかり正社員」が、正社員の間で広がっています。

日本の貧困率が高い点も深刻な問題です。日本の相対的貧困率は16.1%(2012年)とOECD諸国でも下から6番目。イスラエル、メキシコ、トルコ、チリ、アメリカに次ぐ高さです。ひとり親世帯の相対的貧困率は54.6%に及び、OECD諸国の中で最も高い数値に。親の経済状況が、子どもの教育環境に影響を与える“貧困の連鎖”が顕著になっています。

非正規労働者の増加、正社員の低賃金化、長時間労働の常態化、貧困率の高さ……。このような過酷な生活環境、労働環境の中に若者が置かれていることを、まずは理解する必要があります。

問題を解決する意識の低下

過酷な労働環境から自分自身を守るためには、労働者に与えられた基本的な権利を理解する必要があります。労働組合のある企業であれば、組合が労働者を守り、権利を確立できます。けれども、労働組合の組織率が低下している現状においては、労働者自身で、権利侵害を認識し、権利を行使できなければ自分自身を守れません。

それでは、権利を行使するための知識を、労働者はどの程度持ちあわせているのでしょう。NHK放送文化研究所が権利知識について実施した調査によると、憲法で保障された国民の権利として、「労働組合をつくる」(団結権)を選択できた人の割合が21.7%(2013年)。1973年の回答率が39.4%だったことから、団結権の認知度が明らかに低下していることが読み取れます。労働組合を結成し、職場で労働運動を行い、職場を改善していく、という活動が、憲法で保障された権利であることを、8割近くの人が理解していないのが現状です。

同調査では、職場で問題が発生したときの解決方法も調べています。その結果、「しばらく事態を見守る」(静観)が1973年で37.2%、2013年が51.5%、「上役に頼む」(依頼)が23.6%(1973年)と27.7%(2013年)、「労働組合をつくる」(活動)が31.5%(1973年)と16.5%(2013年)という割合で推移しています。職場で問題が発生しても、半数以上が「仕方がない」と諦めてしまう現状があり、職場の仲間と協働して問題を解決する意識が希薄になっています。自分で物事を解決することなく、他人任せになっている状況も深刻な問題です。

また、労働者の法的権利に関して、高校生を対象に調査を実施しました。その結果、「最低賃金は都道府県ごとで異なる」「残業には割増賃金がある」「アルバイトでも有給休暇が付与される」などを正確に理解している生徒は少数にとどまりました。高校までの教育において、教科書の中の知識として学習してきたものの、労働者として行使できる具体的な権利については、十分に理解していない現状があります。

憲法で国民の権利として決められているものを6つの項目から選択する設問で「労働組合をつくる」を選択した人の割合
出所:NHK放送文化研究所「第9回日本人の意識調査(2013)結果概要」、厚生労働省「労働組合基礎調査」より作成
かりにあなたが、新しくできた会社に雇われたとします。しばらくしてから、雇われた人々の間で、給料とか働く時間などの労働条件について、強い不満が起きたとしたら、あなたはどうしますか
出所:NHK放送文化研究所「第9回日本人の意識調査(2013)結果概要」

相談場所を知ることから

労働者の権利を十分に理解していない若者に対して、どのような労働教育を行えばよいのでしょう。労働教育の第一歩は、労働相談先があることを周知させることだと思います。労働相談先は、連合をはじめ、都道府県の労政事務所、労働局や労働基準監督署、NPOなど、相談する内容ごとに整備されています。働いていてつらいと感じたり、パワハラ、セクハラなどのハラスメントを受けたりしたときには、まずは相談に行くように指導することが、労働教育の基礎の基礎、出発点です。

自己責任で終わらせない

けれども、過酷な労働環境に置かれていても、まじめな若者ほど、「自分に能力がないから長時間労働も仕方がない」など、自分自身に問題があると考えがちです。そのような若者に対しては、自己責任論に陥らせるのではなく、企業や職場にも問題があることを気づかせる必要があります。そのためには、外部機関の相談員の助言を受けながら、自身の働き方を客観視することで、自分側に問題があるのか、会社側に問題があるのかを、理解させなければなりません。

また、「自分が悪い」と思い込んでいる場合、相談するという発想すら浮かばないケースもあります。このような状況を回避するためには、中学、高校において、法的な権利を教えるだけでなく、長時間労働などの過酷な働き方を続けた場合、心身にどのような影響を与えるかを、目に見えるかたちで伝えていく必要があります。心身には限界点があることを理解できれば、自分の働き方の問題点に気づきやすくなります。

自主的に問題を解決

労働者本人の問題や悩みには、外部の機関に相談することが出発点ですが、相談しただけでは、職場で起こっている問題を解決したことにはなりません。働きやすい環境を生み出すためには、職場の仲間と協働し、自分たちで問題を解決する必要があります。前述した調査にもあるように、協働して問題を解決する意識が低下する中、その意識をいかにして培っていくかが、労働教育における重要な課題になっています。

労働組合には、自主的に問題解決をはかる意識を醸成する役割を担ってもらいたいと思います。そのためには、問題を解決した職場の事例などを具体的に示しながら、「職場の問題はみんなで解決していこう」「労働組合はみんなで問題を解決してきたんだ」ということを周知させる必要があるのでしょう。そのことが、労働組合の存在価値を示すことにもつながると感じています。

労働教育一つとってみても、労働組合が社会的に不可欠な存在であることは間違いありません。社会に対しても、労働組合の機能を今まで以上にアピールしてもらえればと思います。

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