特集2016.01-02

働く人のための「民主主義ってなんだ?」「参加」を取り戻すために小さな成功体験を積み重ねて

2016/01/26
政治に対するあきらめや無関心の広がりが、安倍政権の登場と並行するかたちで民主主義の危機を招いている。この事態の突破に何が必要なのか。『私たちの声を議会へ 代表制民主主義の再生』の著者である三浦まり上智大学教授に聞いた。
三浦 まり 上智大学教授

民主主義の二つの危機

代表制民主主義は、二つの側面で危機に直面しています。一つは政治の無関心層の拡大と、もう一つは安倍政権による立憲主義・民主主義の破壊です。

政治への無関心層の広がりは、選挙での低投票率を見てもわかると思います。この無関心層は、政治を誰かに任せていても社会はうまく回るという幻想を抱いています。けれども東日本大震災時に原発事故が起きたように、市民社会が政治への監視を怠ると、たいへんな危機が訪れることがあります。

とはいえ国民が民主主義システムによって社会を監視し続けるには大きな情報コストがかかるのも事実で、相当強い動機がなければ国民は監視を続けることができません。そのため国民は、危機に直面するまで、誰かに政治を任せていた方が楽なのはたしかです。しかし、いざ危機が訪れてそれが自分の身に降りかかってきても、すでに手遅れなわけです。

例えば、日本はGDPに占める教育関係への公的支出がOECDのうち最下位であり、奨学金の返済に苦しむ若者が数多くいます。家庭の経済状況によって教育格差が生まれ、それが貧困につながり、次世代に引き継がれる貧困の連鎖が起きています。このことは社会全体が人口減少に陥る要因となり、社会の持続可能性を奪っています。政治の無関心層がこのリスクに気づくのは自分が年金をもらう年齢になってからでしょう。でも、それでは遅すぎるのです。

助け合わないのはなぜか

社会の中で暮らしていれば、教育の問題に限らず、育児や介護、交通事故などあらゆるリスクに直面することは誰にでもあるわけです。であるならば、そのリスクを一部の人に集中させるのではなく、困ったときはお互い様の精神で助け合うシステムをつくりだすのは、当たり前の考え方です。

しかしこうしたリスクへの対処は日本だとすべて個人化されています。これは政治への無関心の拡大と表裏一体の動きだと言えます。相互扶助のシステムをつくることは政治抜きには語れませんが、政治がいらないのであればリスクへの対応はすべて個人化されるからです。日本は世論調査でも他国に比べて助け合いの意識が低く、政府による再分配政策も脆弱であり、殺伐とした社会になっていると言えます。この状況を突破するには、社会の見方に関するフレームワークを「個人」から「社会」に変えていく必要があります。「中間団体」はその役割を担っています。

民主主義の破壊

もう一つの危機は安倍政権による立憲主義・民主主義の破壊です。安倍首相は改憲に強い意欲を示していますが、憲法9条に対する国民の根強い支持があるため、安倍政権は「安保関連法」を成立させるのに解釈改憲という手法をとらざるを得なくなりました。けれどもそれも多くの憲法学者に違憲だと突きつけられ、今度は議会で瑕疵を残すような採決を強行しました。つまり、憲法9条の平和主義を破壊するために、立憲主義も民主主義も破壊したのです。

この動きは政治の上層レベルで起きている動きです。これに対してはSEALDSのような抵抗運動が大きくなっており、そこに希望を見いだすことはできます。ですが、先ほどの無関心層が安倍政権を支えていることも事実です。安倍政権に象徴される立憲主義・民主主義を破壊する政治勢力は、政治の無関心層の拡大に乗じて登場してきました。この層への働きかけを強めなければ民主主義の空洞化を止めることはできません。

政治に「多様性」を

「国会前デモ」は多くの人に勇気を与えましたが、単発的なものです。民主主義は、日々の暮らしの中で鍛えなければ強くなりません。私が著書で訴えたのは、「競争」と「参加」と「多様性」により、民主主義を鍛え直そうということです。

「競争」は、政権交代が起こり得るような緊張感の中で起こります。一強多弱の政治情勢では、政権の暴走を止められません。「競争」のバランスを取り戻すには、野党間の共闘が最低限でも不可欠です。

その際に野党は、安保関連法への反対だけでなく、経済政策でも歩調を合わせられるはずです。野党は格差の拡大や新自由主義的な政策を是正する点で対抗軸を示せるでしょう。再分配機能を強化し、分厚い中間層の復活をめざすのであれば、野党間に大きな違いはないはずです。

財源を議論する際は、消費税の軽減税率だけに議論を矮小化させず、所得税や法人税、地方税を含む税制構造の大きなゆがみをただすような総合パッケージを議論しなければなりません。

「参加」も同様に重要です。政党の活動を社会にもっと根付かせるには、政党と官僚と利益団体だけで政策を決定するプロセスを見直し、市民の参加を促さなければなりません。

これらに加えて私は、「多様性」の必要を強調しています。国会議員の女性議員数に象徴されるように政治の場に性別の多様性が欠けているのは明らかです。性別のみならず、障がい者や性的少数者などあらゆるマイノリティーの多様性を確保する観点から議員を選んでいく必要があります。フランス議会が導入したパリテ(男女同数)を見習いつつ、多様性を確保する政策が求められています。

「仲間」だから助ける

労働組合は本来、ばらばらになっている個人をつなぐ紐帯の機能を持っています。労働組合の参加の機能が弱まっているのならば、組合員のコミットメントを引き出すような丁寧なプロセスを工夫すべきでしょう。動員型の運動だけでは早晩限界を迎えます。労働組合の政策決定をもっと民主化することが大切です。

労働組合は、組合員の利害がある程度共通していて強い組織基盤をもっています。どの国でも労働組合は民主主義を支える大きな役割を果たしてきました。中間団体は民主主義の基盤です。もっと胸を張っていいと思います。

労働組合の力で現場の問題を解決しようとする意識が弱くなっているとすれば、それは「仲間意識」の問題だと思います。過剰な競争で自己責任論が高まり、労働者同士が個別化され、対立させられて、助け合いの力が落ちているのでしょう。誰かを助けようとするのは、その誰かのことを仲間だと思っているからです。「仲間」だから助けるのです。職場で仲間の身に起きているパワハラやセクハラを跳ね返せれば、その経験から参加の実感を得られ、人権問題への結びつきが見えてくるのだと思います。一つひとつは小さな体験かもしれませんが、成功体験がやる気を引き起こします。小さい出来事の方が成功させやすいのです。

小さなことでもまずは成功を体験していくこと。その積み重ねが国政のような大きな政治へのエンパワーメントにつながっていくのではないでしょうか。

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