LGBT 多様な性が尊重される社会に日本はいまだ法整備なし
同性婚と差別禁止法の制定を
性的マイノリティーをめぐる法的課題は大きく二つに分けられます。一つは、同性婚、同性パートナーシップにかかわる法律。二つは、性的指向や性自認を理由とする差別を禁止する法律です。
前者に関して言うと、G7の中で同性婚もしくは同性パートナーシップにかかわる法律を制定していないのは日本だけになりました。日本では国会での議論も始まっていないのが現状です。
日本における同性婚の課題
日本の法制度では、婚姻届を国に提出することで婚姻が成立し、法律上の権利と義務が付与されます。例えば民法や社会保障、税制でも配偶者に法律上の効果が付与されます。法的な効果以外にも企業の福利厚生など事実上の効果がたくさんあります。異性カップルはこうした効果を享受できますが、同性カップルは享受することができません。
同性婚の問題は、人権にかかわる問題です。日本国憲法13条は、いわゆる「自己決定権」を保障しています。この中には、誰と結婚するかといった自由も含まれます。同性カップルはこの自由を制約されています。これは憲法13条に反する可能性があります。また、同じように同性婚が認められない状態は、「法の下の平等」を定めた憲法14条に反する可能性もあります。
一方、憲法24条1項が「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」とあることから、同性婚は憲法に違反すると主張する人たちがいます。しかし、その解釈は誤っていると私は考えます。この条文は、戦前の家制度に基づく女性への人権侵害をなくすために規定されたもので、婚姻があくまで両性の合意のみで成立すること、戸主や親の同意は不要であることを定めたに過ぎません。
「両性の」という部分に関しては、「男女」と解釈してよいと思います。私は、現行憲法24条1項は、同性間の婚姻に関して何も定めていないと解釈しています。つまり、同性婚を認めると書いていないし、認めないとも書いていない。戦後直後は同性婚が想定されていなかったというだけです。ですから、国会で同性婚を議論して法律を制定することは憲法に何ら違反することはない。そのように考えています。
社会保障や子育ての課題も
地方自治体による同性パートナーシップ条例の制定は、高く評価できると思います。たしかに条例に基づく法的効果は限られたものです。けれども、同性カップルの存在を地方公共団体が認めた意味はやはり大きい。自治体のパートナーシップ条例の広がりから、国の立法へと広がった他国の事例もあるので、多くの自治体でこうした条例が検討されることを期待しています。
性的マイノリティーの権利擁護運動が1980年代後半から広がり始め、最近になって将来や老後のことを考える同性カップルが増えてきました。その点では、生活に根ざした法的保障の必要性はこれからますます高まっていくと言えます。
さらに、法制度をめぐっては、同性カップルでの子育ての課題もあります。レズビアンのカップルで子育てをしている人たちがすでにいるように、法整備より事実が先行している現状があります。実際には例えば、レズビアンのカップルがゲイの友人から精子提供を受けて出産する事例などがあります。こうしたケースでは、カップルの一方との法律上の親子関係が生じない一方、精子提供者に対する子どもの認知請求が可能であるなど法的整備のないままになっています。このような課題について今後議論していかなければなりません。
同性結婚を認めている国 | オランダ、ベルギー、スウェーデン、カナダ、イギリス、米国、アルゼンチンなど |
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パートナー法を制定した国 | ドイツ、イタリア、スイス、チェコ、アイルランド、オーストラリアなど |
差別禁止法の制定を
二つ目は、性的指向や性自認を理由とした差別禁止にかかわる法律です。
政府与党である自民党は、2014年12月の総選挙前に、レインボー愛媛が行ったアンケート調査で同性愛の問題は人権問題ではないと回答しました。率直に言って残念な回答だったと思います。
ですが、今年4月27日、自民党は性的指向・性自認に関する党の考え方を発表し、同性愛やトランスジェンダーの問題は、人権問題であるとする方向に考え方を転換しました。このこと自体は高く評価しています。各省庁への要望事項など、取りまとめの内容を進めていってもらいたいと思います。
ただ、報告書の中では、基本的な考え方の部分で気になる箇所が散見されました。その一つは、「カムアウトできる社会ではなくカムアウトする必要のない」とするところです。たしかに遠い将来、性的マイノリティーやカミングアウトといった概念すらなくなり、すべての人たちが多様な性を受け入れられる社会になっていることは理想ではあります。
けれども、それに向かう過程では性的指向や性自認がオープンに語られる環境をつくる必要があります。実際、社会の理解促進のためには、LGBTの当事者が身近な人の中にいることがとても重要です。それはさまざまな調査結果からも明らかで、身近な人の中に当事者がいることと、LGBTに対する理解度には明らかな相関関係があります。このような意味では、カミングアウトする人が増えて、それにより周囲の理解が促進され、さらに新たなカミングアウトが増えていくという好循環が必要だと考えています。
もちろん、カミングアウトするかどうかは他人が強制しては決していけません。本人の意思を尊重することが大前提です。その上で、カミングアウトしやすい環境づくりが大切だろうと考えています。
均等法などと同じ考え方
もう一つは、「差別禁止のみが先行すれば、かえって意図せぬ加害者が生じ」とする部分です。私たちは性的指向や性自認を理由とする差別禁止に関して刑罰を科せと言っているのではありません。男女差別や障がい者差別と同じように、例えば性的指向や性自認を理由とした不当な解雇や配転、降格などがあった場合は、法律上無効であると定めておく。性的指向や性自認を理由としたハラスメントは違法であると規定する必要がある。こうしたことを訴えているに過ぎません。
とはいえ、大きな姿勢を転換したことはやはり評価できます。民進党など野党4党は差別禁止を盛り込んだ法案を提案しました。すでに大きな方向性は各政党で一致しています。超党派で議論し、実効性ある法律の制定を期待しています。
私が活動しているLGBT法連合会は男女雇用機会均等法や障害者差別解消法を参考に、LGBT差別禁止法の素案をつくりました。この中では法律を実効性のあるものにするために、内閣府で基本方針をつくり、地方公共団体などがそれに沿って基本計画などを作成する法律の構成を提案しています。差別禁止規定に関しては、それ自体に性的指向や性自認を理由とする差別はいけないという社会的なメッセージ効果があると考え、障害者差別解消法などを参考に合理的配慮などの規定も盛り込みました。また、当事者支援の拡充なども提言しています。
労働組合への期待
LGBTに関する取り組みは、ここ1~2年で急速に注目を集めるようになりました。これは90年代以降の地道な取り組みの成果だと捉えています。今後も当事者だけでなく、協力者「アライ」の人たちの力を合わせて行動することが大切だと考えています。
労働組合に関して言えば、まず組合員の中にも当事者がたくさんいることを理解してください。その上で少なくとも性的指向や性自認に関する差別的な言動をしないこと。多様な性的指向があることなどを常に意識し、それを常識にしてください。多様な個性を尊重する職場にするために、経営者や管理者に積極的に呼びかけるなど、労働相談の窓口になってくれることを期待しています。