LGBT 多様な性が尊重される社会に研修や当事者の声を聞く機会を広げ「アライ」の数を増やしていこう
Q1 LGBT当事者は職場でどんなことに困っていますか。
私たちの調査(「LGBTに関する職場アンケート調査」)では、職場における差別的言動がまだまだ多いことがわかります。差別的言動を受けた(「よくある・ときどきある」)と回答した当事者は57%に上ります(図1)。その内容は、誰かをおとしめるものというより、発言した人が「冗談」や「からかい」と思っていることが当事者にとって差別的言動になっている事例が多いです。
こうした言動があると当事者は職場でカミングアウトできません。私の感覚では職場でカミングアウトしている当事者は10人中1人もいないと思います。
当事者がカミングアウトできないということは、職場で気軽に相談できる人がいないということ。私たちのアンケート調査では同僚・部下に相談するとした人は18%、労働組合は3.9%(複数回答)しかいませんでした。
自分の気持ちを職場の中で伝えられないことでうつ病になったり、離職に追い込まれたりする当事者がたくさんいます。特にトランスジェンダーの人は転職回数が多く、MtF(Male to Female身体の性は男性で性自認は女性)の人は、約3割が4回以上の転職を経験しています(男性の異性愛者では約1割)。
転職回数の多さは、日本では貧困に結びつきます。トランスジェンダーの人の約4割は年収200万円以下です。LGBTの当事者は相談する場所がなく、そのことが離職・転職→貧困につながっています。このことを労働組合の皆さんにはぜひ知ってもらいたいと思います。
Q2 差別的言動などが職場に与える影響は?
差別的言動が職場にあると当事者の勤続意欲が下がります。差別的言動が職場にあると勤続意欲度が「高い」と答える当事者が約15%低下し、「低い」と答える人が5%増加します(図2)。
LGBT当事者はセクハラにとても敏感です。例えば、「好きな芸能人や異性のタイプを聞く」ことをセクハラだと思うかを聞いたところ、当事者と非当事者で倍近くセクハラだと思う人の割合が異なります。LGBTフレンドリーな職場をつくろうとしたら、これまで以上にセクハラに敏感になる必要があります。
カミングアウトをして、自分は職場で受け入れられていると感じられると勤続意欲が高まります。では、カミングアウトしやすい環境はというと、職場の中に支援者がいるかどうかがポイントになります。職場の中に「アライ」(LGBTの理解者、支援者)がいると職場でカミングアウトしている割合が高まります(アライ有62%、アライ不明17%、アライなし14%、図3)。「アライ不明」と「アライなし」でカミングアウトの割合があまり変わらないのは、当事者が相手を慎重に選んでいるからです。ですから、カミングアウトしやすい職場環境をつくるためには、アライがいることを当事者に伝わるようにしっかりと明示することが大切です。もちろん、カミングアウトは当事者が自発的に行うもので、決して強制してはいけません。
Q3 先進的な企業が取り組みを始めた理由は?
まず当事者のカミングアウトがあったことは大きな理由の一つです。外資系は本社の影響がありますし、海外で事業を展開する企業にとってはグローバル化の影響も大きいと言えます。
従業員対応としては、「性的指向や性自認にかかわらず優秀な人材を採用したい」「勤続意欲を高めて生産性を向上させたい」「離職を防止したい」などの理由があります。また、顧客・投資家対応としては、「CSR/法令順守」「LGBT市場の開拓」「サービス向上」などの理由が挙げられます。
Q4 まず、どのようなことから取り組めばいいでしょうか。
先進的な企業では人事や産業医、ダイバーシティ推進の担当者が研修を受けることから始めています。そうした企業では職場で差別しないというメッセージを経営者が発信しています。企業トップのメッセージはとても大切です。
次に、差別禁止規定をつくったり、セクハラやパワハラ、メンタルヘルス施策にLGBTへの配慮規定などを盛り込んだり、福利厚生を見直したりします。
さらに意識向上の取り組みとして、階層別研修でLGBTに関する項目を設定したり、啓発キャンペーンを展開したり、継続した施策を行っています。
このような活動をしていると当事者からの相談が来るようになります。このこと自体、当事者が職場で働き続けたいという意思の表れであり、前向きに捉えてほしいと思います。先進企業は当事者も含めた部署横断的な人的ネットワークづくりにも取り組んでいます。
取り組みを進める上で重要なのは、男女共同参画や障がい者、外国人に関する施策など、他のイシューと一緒に取り組むことです。自社の状況を検討し、できることから始めてください。
Q5 先進的な企業が直面している課題はありますか。
トランスジェンダーの人に関するトイレの相談をよく受けますが、実際に取り組んでいる企業の話を聞くと、さほど難しい問題ではないように思います。というのは、トランスジェンダーの当事者は、以前から職場で一緒に働いてきた同僚であり、周囲の人はその人のことをよく知っているわけです。そのため、相談を受けても当事者ときちんとコミュニケーションをとることができれば、解決策は見えてくると思います。
同じように、周囲の理解促進に関しても、認識を少し変えるだけで職場環境は大きく変わります。例えば、これまで冗談で言ってきたようなことを見直してみたり、誰かが注意したりするだけで環境は変わります。研修などにより、そうした認識をもった人を少しずつ増やしていくことがとても大切です。
Q6 カミングアウトを受けたら、どうしたらよいでしょうか。
当事者はカミングアウトする際、理解してくれそうな人を慎重に選んでから伝えています。そのとき当事者が不安に感じるのは、否定的な反応をされないか、今までの関係が変わってしまわないかということ。ですからカミングアウトを受けても、今までと変わらない関係でいることが大切です。まずはしっかり受け止めてください。
また、当事者はカミングアウトに対して、非常に複雑で繊細な思いを持っています。ですから、カミングアウトされたことを了解なく第三者に伝えることは決してしないでください。そうした行為は「アウティング」と呼ばれ、当事者をとても傷つけます。当事者の許可なく第三者に話さないこと。このことに十分注意してください。
カミングアウトについて企業の担当者が一番悩むのは、トランスジェンダーの人が性別変更する場合です。そこで知っておいてほしいのは、性別が変わっても仕事の経験や能力は変わらないということ。性別を変えても同じ仕事を続けている人はたくさんいます。
その上で、トイレや名札や更衣室など、当事者がその職場で困っていることについて、一緒に考えてほしいと思います。当事者によって一人ひとり要望は異なります。ですからそこは個別対応するしかありません。当事者とコミュニケーションを図りながら、できるだけ希望に沿うように対応してほしいと思います。
当事者がカミングアウトの際に感情的になってしまうという相談を受けることがあります。当事者は、そこに至るまでに思春期や就職活動時などに、たくさんの差別的な言動を受けて、ぎりぎりまで悩んで、思い切って相談に訪れていると思ってください。そのように考えれば、対応できると思います。
Q7 企業が直面するハードルはありますか。
日本には諸外国のように宗教的な背景がないのでLGBTをどうしても受け入れられないという人はわずかしかいません。実際、私たちの講習を受けたあとのアンケートでも、そのように考える人は1%くらいしかいません。ですから、知識を得る場所と、当事者と交流する機会があれば、理解はきちんと広がっていくと思います。トイレなどの設備に関しても前述したように、さほど困難な課題ではないはずです。
Q8 労働組合に期待することは?
一企業では対応できない、社会保障や税制などの仕組みに関して、同性パートナーでもこれらの制度の対象となるように、社会的な運動を展開してほしいと思います。また、トランスジェンダーの人については、マイナンバーや社員証の性別欄などへの対応を期待しています。
LGBTの当事者は、子どもの頃から社会に受け入れられない思いを抱いて暮らしてきて、疑り深くなっている人も少なくありません。そのときに労働組合が信用されるためには、一過性ではない取り組みであることを示す必要があります。その際に役に立つのが、支援者であることを示すシールやバッジなどの「アライ」グッズです。グッズを身に着けることで周囲の意識も変わっていきます。
また、取り組みの継続性を示すためには、運動方針に中・長期的なLGBTへの支援策を盛り込んでほしいと思います。LGBTに関する部会を設置するのも一つの方法です。このようにLGBTをサポートする旗をしっかりと掲げて、労働組合の「顔」を多様化していく必要があると思います。取り組みを進める上で悩んだことがあったら、私たちにぜひ相談してください。