特集2022.06

政治はやっぱり大切だ
経済も民主主義も その選択が未来を変える
危うい日本の政治バランス
労働組合の果たす役割とは?

2022/06/14
政治のバランスが崩れ、権力の集中が進めば、日本の民主主義は危機に追い込まれる。参議院議員選挙は、一つの岐路になる。労働組合は、そのバランスを保つためにも役割を果たさなければならない。
中北 浩爾 一橋大学教授

危うい政治バランス

自民党は野党に比べ、圧倒的に強い基礎体力を持っています。地域に行くほど自民党が強くなり、都道府県議員の約5割は自民党議員です。その上、多くの業界団体の支持があり、公明党とも連携して支持基盤を固めています。

野党が自公政権に選挙で勝つためには、(1)野党がまとまること、(2)無党派の追い風を受けること──の二つの条件が必要です。しかし、現状では、無党派の風はなかなか吹きません。それ以上に、「希望の党騒動」以降、民主党系の議員は、立憲民主党と国民民主党に分かれてしまい、自公政権に対抗するような力は残念ながらありません。

現在の政治情勢は、危険なバランスの上に成り立っています。1990年代以降、日本の政治改革は政権交代の可能性を高めることとセットで、権力の集中を進めてきました。しかし現状は、政権交代の可能性が後退し、権力の集中だけが突出しています。

権力の集中は、権力への忖度やすり寄り、萎縮などをもたらします。公文書の改ざんに典型的に見られるように、その弊害はすでに起きています。

こうした状態を国民も望ましいことだとは捉えていません。政権交代があった方がいいと考える人の割合は世論調査でも一定程度あります。けれども、現政権に変わるような存在にも期待できない。そんな状況ではないでしょうか。

民主党系の議員がばらばらな状態ではそれも仕方ありません。野党への期待感が高まらないのは、単に数の上で手が届かないというだけではなく、立憲民主党と国民民主党がまとまらないことに対して、これでは政治を任せられないという国民感情があるのだと思います。

権力の集中がこれ以上一方的に進むことは、日本の民主主義にとってマイナスです。国民民主党が自公と連立を組むようになれば、権力のバランスはさらに崩れ、日本の民主主義が危うい状態に陥るのではないかと危惧しています。政治バランスを取り戻すためにも、野党はここで踏ん張る必要があります。

参院選の争点は?

政権交代をしないまでも、野党が一定の力を持ち、与党を脅かす状態になることには、それなりの意味があります。例えば、野党が女性議員を増やせば、与党も女性議員を増やそうとする。そうした政党間競争が働きます。しかし、現状では、そうした競争が働いていません。自民党中心の政権が実現できる多元性には限界があります。野党に活力があることが、日本政治にとってイノベーションの源になります。

参議院議員選挙では、円安に伴う物価高への対応などが争点になるでしょう。コロナ禍が始まってから2年以上が経過しました。一時的に給付金を出すようなその場しのぎの対応から、恒久的な生活保障の仕組みづくりへかじを切る必要があります。そのためには、高所得者層に対する金所得課税や累進課税の強化が求められるでしょうし、消費税の議論も必要になるでしょう。野党はその議論から逃げてはいけません。

他方、環境やジェンダー平等は、立憲民主党に有利な争点のはずです。より多くの支持を得るためには、規範的な主張にとどまらず、日本経済を刷新し、活性化するイメージでも伝えていくべきでしょう。「改革」イメージを立憲民主党側に取り戻すことが大切です。

安全保障に関しては、ロシアのウクライナ侵攻もあり、国民に安心感を提供しなければなりません。「核共有」のような過剰な言説には乗らず、その一方で、自衛隊と日米同盟による抑止力の的確な維持を説明する必要があります。

与党にすり寄って野党の役割を放棄するようなことも問題ですが、「反対のための反対」をすることも問題です。批判と提言をセットに対抗していくような構図をつくることが、国民からの支持につながるのではないでしょうか。

連合と政治

市民運動の活動家の中には、「連合の力は必要ない」という人もいます。しかし、そんなことはまったくありません。自民党は、連合をあなどれない存在だと捉えています。全国的に組織され、一定の集票力とマンパワーがある連合が一体となって応援したからこそ、民主党政権が誕生しました。連合の足並みがそろわなければ、自公ブロックに対抗できないことは明らかです。連合は今、その岐路に立たされています。

労働組合の中には、しんどい思いをする政治活動をせずに、自民党と協議して政策実現をめざせばいいと考える人もいるでしょう。私は、自民党との政策協議を否定しているわけではありません。これまでにも労働組合は、野党を応援する傍ら与党とも水面下でたくみに付き合ってきました。

ではなぜ、連合は野党を応援してきたのでしょうか。究極的には、連合がめざす社会像が、自民党とは違うからです。自民党は何だかんだいっても、財界の意向をくみ取って動いているわけで、働く者の側に立つ政党ではありません。

連合には連合がめざす将来の大きなビジョンがあり、それを実現するために政党を応援している。政治活動の必要性が認識されづらくなっているとしたら、その前提が共有されにくくなってきているからでしょう。

かつては、自民党は経営者が支持する政党、社会党は労働者が支援する政党というわかりやすい構図がありました。他国でも同様の動きがありますが、現在、それが自明ではなくなっていることは確かです。ビジョンを共有するためにも、連合は、労働法制や最低賃金、非正規雇用への対応など、労働組合らしい争点を例示し、政治活動の重要性を組合員に伝えることが重要です。

すべての労働者のために

労働組合の中央組織(ナショナルセンター)は、その国すべての労働者を代表する存在です。連合は、日本のナショナルセンターとして、組合員の利益のみならず、未組織の労働者も含め、すべての労働者のために行動することが期待されています。だから連合には、労働法制や最低賃金をはじめとした社会的な役割も担っているわけです。

もし、連合がばらばらになり、産別組織がそれぞれの産業の利益ばかり追うようになってしまったら、どうなってしまうでしょうか。2003年の「連合評価委員会」が批判したのは、そうした内向きの連合の姿だったはずです。

連合を支えることは、すべての労働者を支えることでもあります。組合員の皆さんには、そうした自負心と気概を持っていただきたいと思います。

政治のバランスを保つためにも連合が果たす役割は重要です。日本の民主主義は重大な岐路に立っています。連合の役割発揮に強く期待しています。

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