政治はやっぱり大切だ
経済も民主主義も その選択が未来を変える投票しても変わらない?
政治を諦めないための思考法
投票促進から一歩踏み込んで
前回の衆議院議員選挙では、街角に立って、当選してほしいと思う候補者の応援をしました。それまで私の政治活動は「選挙に行こう」という投票の呼び掛けだけでした。そこから一歩踏み込んで、どういう候補者に投票してほしいか、どういう人に政治を担ってほしいかを積極的に発信しました。当初は、特定の候補者や政党を応援することにハードルを感じていたので、勇気のいることでしたが、私がやるしかないと決心しました。
私が高校3年生だった頃、18歳への選挙権年齢の引き下げ運動をしながら、「選挙権のある大人は投票に行ってください」と呼び掛けたことを覚えています。それから10年近く、あらゆるところで選挙に行こうと声をあげてきましたが、低投票率の状況を変えられませんでした。
なぜでしょうか。政治が自分ごとにならないと、投票しようという気持ちも起きないからだと思いました。だとすれば、選挙の期間だけ投票に行こうと呼び掛けても、根本的な解決になりません。多くの人に政治を自分ごととして感じてもらうために、私自身の政治への思いを話すことにしました。
日常の中にある政治
政治を自分ごととして捉えてもらうために、私なりに伝え方の工夫をしました。
一つは、自分の力だけではどうにもできない制度や仕組みの問題を伝えてきました。例えば、同性婚や選択的夫婦別姓制度などがそうです。制度を変えるためには政治の力が必要なので、その点では、政治の必要性を伝えやすいです。
もう一つは、そういう制度だけではなく、政治の話とは思えないようなことにも政治が影響していると伝えてきました。例えば、「女のくせに生意気だ」という言葉。一見、政治とは無関係で個人の性質の話のように思えます。でも、そうした言説が今でもなくならないのは、例えば森元首相のように、権威のある政治家がそういう発言を繰り返してきたからです。
政治家に権威があるからこそ、その発言にも権威が与えられ、それが社会的に再生産されるという構図がそこにはあります。例えば会社では、社長が言うことは部長にも影響するし、部長が言えば、課長やその他の社員にも影響します。女性差別にかかわらず、権威あるポジションにいる人の差別発言は、社会的に再生産され、立場の弱い人たちにのしかかっていきます。だから、政治家の差別発言は個人の資質の問題にとどまらない、政治の話だと伝えています。
このように意識の問題だと思えるようなことも政治につながっています。日常こそ政治だし、個人的なことこそ政治だと感じてもらえたらいいなと思います。
投票しても変わらない?
応援した候補は結果的に落選してしまいました。政治活動を長くやってきた私でも、自分がしたことに意味がないのかなと、かなり落ち込んだりしました。
でも、そこで思ったのは、いま権力を持っている人たちにとって、世の中を変えたいと思っている人たちが諦めてくれた方が、都合がよいということ。権力者が反対する人を封じ込める方法には、どう喝して黙らせる方法のほかに、意見を無視し続けて諦めさせるという方法もあります。相手の声を封じることによって得をするのは権力者であり、一方に損をする弱い立場の人たちがいます。変わらないことを変えようとすることは、とてもしんどいことですが、それでも弱い立場の人たちが損をし続けるような状況は放っておけません。
投票しても変わらないと言う人もいますが、投票した時点で変化は必ず起きています。まず、その人が投票したことで、投票数は1票増えています。
大切なのは、「変わる/変わらない」という言葉の焦点をどこに置くかです。例えば、誰かの1票で政治が変わってしまうほどのラディカルな変化は望ましいことでもありません。社会システムはそこまで急速に変わりません。
みんなが投じた1票が積み重なった先に政権交代は実現します。変化は目に見えて起きないかもしれませんが、行動したことで何かは変わっています。仕事でも、今日は何も仕事が進まなかったと思える日でも、何かしら進んでいますよね。それと同じです。
私の場合、選挙活動を通じた人との出会いが、大きな変化でした。投票結果という点では、自分の希望どおりとはいきませんでしたが、自分が投票を呼び掛けた中で出会った人との会話や交流が、自分の考え方を変えてくれました。選挙結果だけを見るのではなく、自分に近いところを見れば、何かしら変化が起きているのではないでしょうか。
こうした人との出会いが連鎖して、社会は変わるのだと思います。政治は1回の投票で終わりではありません。選挙を通じた人との出会いやつながりが広がることで、結果として社会が変わっていく。そういう視点で考えられたらいいのではないでしょうか。
歴史を学び仲間とつながる
投票するにしても、政党や候補者の違いがわからないという意見も聞きます。大切なのは、歴史を知ることだと思います。その政党がどういう価値観に立脚して成立し、活動してきたのか。例えば、選択的夫婦別姓を見ても、各政党の訴えは一見似て見えるかもしれませんが、自民党に根付く価値観や、家父長制システムの上にどう成り立ってきたのかを知れば、違いは見えてくると思います。
参議院議員の任期は6年間です。その間、新しく出てきた問題に議員や政党がどう対応するのかは、公約を見るだけではわかりません。そこでは何を大事にしてきた議員や政党なのかが問われます。野党は個別政策を並べるのはいいのですが、どういう考え方が核にあるのかを示してほしいと思います。それが有権者にとっての安心感につながると思います。
権力を持つ側にとって、ジェンダー平等や環境問題は耳の痛い話ですから、選挙の中心的な課題にしたくありません。放っておいても中心的な課題になるのなら、日本の女性議員比率はとっくに半数になっているはずです。これらの課題をメインイシューにするためには、声を上げ続けなければなりません。
同じ問題意識を持っている人は、自分の周りに今はいなくても必ずどこかにいます。世界を見渡せば、グレタ・トゥーンベリさんやエマ・ワトソンさんなど、環境問題やジェンダー平等に熱心に取り組む人たちがいます。私もSNSで選択的夫婦別姓について発信したらバッシングを受けましたが、リアルの世界ではたくさんの仲間とつながれました。こうした仲間との出会いこそが私の原動力になっています。
歴史を学ぶこと、仲間と連帯すること──。この二つが政治を変えるために大切なのではないでしょうか。