政治はやっぱり大切だ
経済も民主主義も その選択が未来を変える日本経済低迷の背景にあるジェンダー問題
女性労働力の活用が成長のエンジンに
コロナ禍と女性労働者
コロナ禍が、女性労働者に与えた影響には、良い面と悪い面がありました。
良い面の一つは、在宅勤務の広がりです。一時期ではありますが、在宅勤務の増加に伴い、男性の家事・育児への参加が増えました。今後の働き方の変化が期待されます。もう一つは、女性の正規雇用が堅調に伸びていることです。コロナ禍にあっても、女性労働者をコア人材として活用しようとするトレンドは継続しています。
一方、コロナ禍では、男性よりも女性の雇用が大きな被害を受ける「女性不況(シーセッション)」が確認されました。
NHKと独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の共同調査によれば、2020年4月から11月中旬の間に、解雇や労働時間の急減など、雇用の変化を経験した割合は女性が男性の1.4倍、解雇や雇い止めの後に非労働力化した女性は男性の1.6倍に上りました。
また、JILPTの調査では、コロナ禍で仕事を辞め、非労働力化する女性が多かったこともわかりました。
「シーセッション」の背景には大きく三つの要因があります。一つ目は、コロナ禍では飲食、宿泊業など、女性の就業割合が高い対人サービス型産業が非常に大きなダメージを受けたこと。
二つ目は、保育園や小中学校の休園・休校に伴い、女性の家事・育児の負担が増し、就業時間を控えたり、仕事を辞めたりせざるを得ない女性が増えたこと。
三つ目が最も重要ですが、女性の非正規雇用率が高いことです。景気悪化に対し企業は雇用調整を行いますが、その調整弁に非正規雇用の女性がなったということです。
遅れる景気回復の構造的要因
日本は他国に比べ、コロナ禍からの景気回復が遅れています。各国では需要の増加に伴い、物価や賃金の上昇が生じていますが、日本だけなかなか上がりません。
要因として、国内の消費マインドの悪さが挙げられます。将来的に安定した収入を得られる希望があれば消費に回りますが、一時的な休業補償や給付金では、将来への不安が解消されず、消費に回りません。そのため消費より貯蓄を優先する傾向が強まっています。
日本の経済回復が遅れているのには、日本社会の構造的な問題があります。
その一つは、雇用の流動性が低いことです。本来であれば、コロナ禍で影響を受ける産業から受けない産業へと労働力がもっとシフトしてもよかったはずですが、雇用の流動性が低いゆえに労働移動がスムーズに行われませんでした。
雇用調整助成金は初期対応としては効果を発揮しました。しかし、コロナ禍が2年以上続く中では、マイナス面も出てきています。それは、需要のある産業に労働力をシフトできずに、労働者の持つ本来のポテンシャルを十分に発揮できないことです。生活保障や職業訓練、キャリアカウンセリングなどの積極的労働市場政策によって適正な労働移動を進め、労働者の持つポテンシャルを有効に活用していくべきです。
もう一つは、柔軟性に欠ける働き方が主流になっていることです。日本には根強い性別役割分業の慣行があります。長時間労働などの柔軟性に欠ける働き方が残ることで女性労働者は、家庭との両立が難しくなり、キャリアよりも時間を選択してしまう傾向があります。
これらの問題は、日本経済の低迷にも大きな影響を与えていると思います。日本の女性の教育レベルは高く、パートタイマーになる前は正社員として働いていた経験のある人も多くいます。ポテンシャルの高い、人材の宝庫である女性労働者を単純労働にばかり従事させることで人材を浪費しているのです。
成長のためのエンジン
現状では、日本経済の成長のエンジンになり得る要素は、そう多くありません。例えば、(1)ITなどの技術革新、(2)外国人労働者を増やしてGDPを大きくする方法、(3)女性労働力の活用──などが考えられます。(1)は、世界の競争が激しくなっています。(2)は、日本は外国人労働者にとって魅力のない国になりつつあります。この中で最も取り組みやすい項目は、(3)の女性労働力の活用ではないでしょうか。
成長のためにはエンジンが必要です。私は、女性労働者が日本経済を長く続く低迷から脱却させるための秘密兵器だと思います。女性労働力の活用は新たな成長になる可能性を秘めています。
にもかかわらず、日本はそれを活用できずにきました。日本の産業界は長い間、男性には生活できる賃金を支給する一方、女性労働者を割安の労働力として扱ってきました。女性に家庭責任を負わせ、残業や転勤ができないことを理由に低賃金で使うことに慣れてしまったのです。
これを続けている限り、日本は賃金停滞から抜け出すことは困難です。なぜなら、割安の労働力がいくら増えても、それは他の労働者の賃金の引き下げ圧力になるからです。多くの女性労働者が割安の労働力として働き続ける限り、全体の賃金も下に引っ張られます。女性労働者の賃金を上げなければ、日本が賃金停滞から抜け出すのは難しいでしょう。
女性労働者の賃金が低く抑えられてきた背景には、主婦パート労働者の権利意識の低さもあります。主婦パート労働者は、夫の収入がある分、自分の労働条件について交渉する意欲が高くないといわれてきました。企業にとって主婦パート労働者は、低賃金でも声を上げない非常に使い勝手の良い労働者であるという側面があります。
「第3号被保険者」制度が、就労調整の要因になっているという指摘もあります。就労を控えさせるようなこうした制度は他国には見られません。
社会保障制度も含めたトータルな見直しが必要ですが、長時間労働や頻繁な配置転換のような企業の都合に合わせた働き方を根本的に変えてていくことが重要です。また、就労を中断した女性への支援も非常に重要です。職業訓練などを提供し、能力をあらためて生かしてもらう。そのためにも労働市場の流動化を高める必要があります。
女性組合役員を増やす
社会全体で新しい仕事を生み出す努力をしなければ、結局は低生産性の仕事が残り、競争に負けてしまいます。仕事を失った人に対して、生活保障したり、すぐに仕事が見つかるように支援する北欧の「フレキシキュリティ」を参考にしながら、新しい仕事に労働力のシフトを進めていく必要があります。
同時に、労働者の権益を守ることが、日本の成長につながります。日本のように企業別労働組合が中心で、交渉の分散化が残ったままでは、全体的な底上げは難しいでしょう。欧州のように労働協約のカバー率を広げることが日本でも求められます。労働組合間での連携がポイントになります。
女性労働者の処遇改善に向けて、労働組合は、女性役員を増やすなど、労働組合運動への女性参画をさらに進めてほしいと思います。