特集2015.11

改正ワークルールへの対応 職場から改善を附帯決議の実効性を高めるために職場の労働組合から活動強化を

2015/11/16
政府与党は労働者派遣法改悪法案を強引な手法で成立させた。しかし、労働組合や野党の運動により、過去最多の附帯決議が確認され、省令や指針に反映された。これを職場でどう生かすのか。今後の労働者保護ルール改悪阻止の闘いを展望する。
安永 貴夫 連合副事務局長

9月下旬に閉会した通常国会では、与党の数の力をまざまざと見せつけられた。労働者派遣法は審議が進むほど矛盾点が明らかになり、情報労連の組織内議員「石橋みちひろ」参議院議員が厚生労働委員会で質問しても塩崎大臣が答えられず、審議が中断する場面が何度もあった。与党はそれでも法案を強引に成立させた。

安倍政権はこの法案を「正社員への道を開くもの」と説明したが、まったく逆だ。安保法制もそうだが、安倍政権は本当のねらいを美辞麗句で包み隠し、国民をごまかそうとしている。

連合は今回の「法改悪」によって低賃金の派遣労働者が増えることを強く懸念している。最大の問題は今回の法改悪が、「派遣労働は臨時的・一時的」という原則を壊してしまうことだ。今回の改悪で企業が派遣労働者をずっと受け入れ続けられる仕組みができてしまった。同時に同じ仕事をしている人には同じ賃金を支払うという欧州では当たり前の均等待遇規定が盛り込まれなかったことも大きな問題である。

新たな派遣期間制限のイメージ(連合作成)

法律では派遣期間の上限に達した派遣労働者に講じる「雇用安定措置」が盛り込まれた。しかし派遣元事業主は派遣先事業主に直接雇用の依頼や、新たな就業機会の提供などさえすればよい規定で、いずれも安倍首相が言う「正社員への道を開く」ものではなく、その実効性はないと言わざるを得ない。

さらに、派遣元事業主に義務付けられた教育訓練義務に関しても、「1年間で概ね8時間以上の訓練機会の提供」を義務付けたもので、十分なものとは言えない。教育訓練の内容も不明確だ。

連合はこうした問題点を指摘し続けてきたが、使用者や業界団体の後押しを受けた政権与党は法案を強引に成立させた。このこと自体、この改悪が使用者にとって都合のいいものであることを物語っている。

附帯決議を活用する

だが、連合が国会前座り込みや全国各地で街宣行動などを展開してきたことは無駄ではなかったと強調したい。労働側は野党議員と連携し、政府・与党に対してプレッシャーをかけ続けた。その結果、法案の一部修正とともに、前代未聞の39項目にも及ぶ附帯決議を確認することができた。そうせざるを得ない状況に労働側が追い込んだということだ。これは労働側が勝ち取った成果だと訴えたい。

今回の附帯決議の数は、参議院で過去最高だった34項目を大幅に上回る。また実態は二つの文章をまとめたりしたもので、項目ごとに数えれば70を超える。39項目にまとめられたのは与党が面目にこだわったからだ。

この附帯決議から省令や指針、許可基準といった下位法令に規定されたものをいくつか説明したい。

重要なポイントの一つは、「民主的に選出されていない過半数代表者への意見聴取は労働契約申し込みみなし制度の対象となる」規定だ。これは、使用者の指名などで民主的に選出されていない過半数代表者や管理監督者を過半数代表者として期間制限時に意見聴取を行い、派遣労働者の受け入れを延長したときに、意見聴取が事実上行われていない「期間制限違反」と同視して、「労働契約申し込みみなし制度」を適用する規定だ。

「労働契約申し込みみなし制度」は、違法派遣があった場合に、派遣先事業主が受け入れている派遣労働者に対して、派遣元事業主と同じ労働条件で労働契約を申し込んだとする制度だ。2012年改正に盛り込まれた規定で、今年10月1日に施行された。(特集「派遣労働者の処遇改善に取り組むスタンスを共有することから」参照)

今回、盛り込まれた「民主的に選ばれていない過半数代表者等」の規定は、派遣法だけでなく、労働法制全般にかかわる。JILPTの調査(グラフ)で明らかなように、過半数代表者は、使用者が指名したり、管理監督者がなったりして不適切に選出されている事例が多い。今回の動きを過半数代表者のあり方を見直す取り組みにつなげなければならない。

過半数代表者の選出方法(企業規模別) 約4割が不適切に選出
労働政策研究・研修機構「中小企業における労使コミュニケーションと労働条件の決定」

労働組合に対する「挑戦」

このほかにも、意見聴取に際して過半数労働組合等に情報提供を義務付ける規定や、過半数労働組合等が反対意見を述べた場合の意見の尊重などの規定が盛り込まれた。派遣先の労働組合は、これらの項目をチェックして職場から実態を改善してほしい。

連合は11月にも「改正労働者派遣法に関する取り組み方針」を策定する。この中には、派遣先の労働組合が取り組むべき課題を盛り込んでいく。

雇用安定措置は実効性がないと言ったが、それを実効性あるものにできるかは、労働組合の力にかかっている。例えば、雇用安定措置の中で、派遣先への直接雇用依頼があったときに、派遣先労働組合がそれを受けるように申し入れる。また、意見聴取の際に異議を唱えるだけでなく、常用代替防止という観点でその仕事が臨時的・一時的なのかを検討し、入り口から派遣労働者の受け入れを協議する。受け入れている派遣労働者の職場環境を改善する。このように、日常の労使関係から派遣労働のあり方について議論してほしい。

労働組合は、同じ職場で働く人を組織化する取り組みを進めていかなければならない。しかし派遣労働者の組織化は、派遣先労働組合からすると労働条件を交渉しづらく、派遣元労働組合からすると日常の組合員対応が難しい。こうした問題はあるものの、連合は、受け入れている派遣労働者を正社員化する取り組みをセットで進めていく方針だ。

連合としては、当面は今回の「改悪」で生じる問題点をチェックし、派遣労働者の声を集めて、意見提起していきたい。現在の政治情勢では難しいが、再度の法改正で派遣労働は臨時的・一時的とする原則を実効性あるものにすることや均等待遇の実現をめざす。

参院選勝利で改悪阻止へ

安倍政権は、残業代ゼロ法案をはじめとした労働者保護ルールの改悪をねらっている。労基法の改悪に関しては、審議させないということに尽きる。世論を喚起することで、「審議入りすれば大きな反発を招く」という圧力を政府与党にかけ続けたい。

その際に世論喚起とともに大切なのは、組合員への理解促進だ。連合組合員は労働協約で守られていることが多く、法律の問題に無関心なケースも見られる。だが、法律が緩和されれば、連合組合員の労働条件にも必ず影響する。まずは組合員との対話活動を広げて、理解を深めることで、来年の参議院選挙につなげていきたい。また、連合は10月の定期大会で情報発信力の強化を運動方針に盛り込んだ。SNSを活用するなどして、社会的な発信をさらに強めていきたい。

安倍政権は企業を優先すれば経済が活性化すると言うがそれは違う。働く人が将来の不安を感じるような社会で経済は成長しない。連合は、雇用の原則は期間の定めのない直接雇用であるとする原則を掲げた「雇用基本法」の制定をめざすとともに、2016春闘で底上げ・底支えを実現していく。労働者保護ルール改悪阻止の闘いでは、来年の参議院選挙で勝利するしかない。構成組織の皆さんは、人ごとではなく、自分ごととしてこの問題を捉え活動を強化してほしい。

附帯決議から指針などに反映された規定

派遣元事業主が講じるべき指針など
インターネットによるマージン率の情報提供(指針)
マージン率の情報提供にあたっては、常時インターネットの利用により広く関係者、とりわけ派遣労働者に必要な情報を提供することを原則とすること(指針から)
派遣契約の終了のみを理由として解雇してはならない(指針・許可基準・許可条件)
派遣元事業主は、無期雇用派遣労働者の雇用の安定に留意し、労働者派遣が終了した場合において、当該労働者の終了のみを理由として当該労働者派遣に係る無期雇用派遣労働者を解雇してはならないこと(指針から)
雇用安定措置の義務逃れをする派遣元事業主への指導強化(指針・許可基準)
派遣元事業主が、労働者派遣法第30条第2項の規定の適用を避けるために、業務上の必要性等なく同一の派遣労働者に係る派遣先の事業所その他派遣就業の場所における同一の組織単位の業務について継続して労働者派遣に係る労働に従事する期間を3年未満とすることは、労働者派遣法第30条第2項の規定の趣旨に反する脱法的な運用であって、義務違反と同視できるものであり、厳に避けるべきものであること(指針から)
通勤手当の支給に関する留意点(指針・業務取扱要領)
有期雇用派遣労働者の通勤手当に係る労働条件が、期間の定めがあることにより同一の派遣元事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の通勤手当に係る労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働契約法第20条の規定により、労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配慮の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないこと(指針から)
教育訓練の実施は有給かつ無償で行うこと(許可基準)
1年以上雇用見込みがあり、フルタイム勤務の派遣労働者に対しては、毎年概ね8時間以上の訓練機会の提供が義務付けられた(連合資料から)
派遣先事業主が講じるべき指針など
意見聴取に際しての過半数労働組合等への情報提供(指針)
派遣先は(中略)過半数労働組合等に対し、派遣可能期間を延長しようとする際に意見を聴くに当たっては、当該派遣先の事業所等ごとの業務について、当該業務に係る労働者派遣の役務の提供の開始時から当該業務に従事した派遣労働者の数及び当該派遣先に期間を定めないで雇用される労働者の数の推移に関する資料等、意見聴取の際に過半数労働組合等が意見を述べるに当たり参考となる資料を過半数労働組合等に提供するものとすること(後略)
過半数代表者の正当な行為への不利益取り扱いの禁止
派遣先は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として、当該労働者に対して不利益な取扱いをしないようにしなければならない
民主的に選出されていない過半数代表者への意見聴取と労働契約申し込みみなし制度(業務取扱要領)
意見を聴取した過半数代表者が、使用者の指名等の民主的な方法により選出されたものではない場合、派遣可能期間の延長手続のための代表者選出であることを明らかにせずに選出された場合、管理監督者である場合(管理監督者でない者に該当する者がいない事業所を除く)については、事実意見聴取が行われていないものと同視できることから、労働契約申込みみなし制度(平成27年10月1日より施行)の適用がある(業務取扱要領)
過半数労働組合等が反対意見を述べた場合の意見の尊重(指針)
(前略)更に延長しようとするに当たり、再度、過半数労働組合等から異議があったときは、当該意見を十分に尊重し、派遣可能期間の延長の中止又は延長する期間の短縮、派遣可能期間の延長に係る派遣労働者の数の削減等の対応を採ることについて検討した上で、その結論をより一層丁寧に当該過半数労働組合等に説明しなければならないこと(指針)
クーリング期間の悪用を指導等の対象とすること(指針)
(前略)派遣可能期間の延長に係る手続を回避することを目的として、当該労働者派遣の終了後3月が経過した後に再度当該労働者派遣の役務の提供を受けるような、実質的に派遣労働者の受入れを継続する行為は、同項の規定の趣旨に反するものであること
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