改正ワークルールへの対応 職場から改善を能力があっても年齢ではじかれる
将来に向けて募る不安
「好きな勤務期間が選べる」という理由でAさんは25年間、派遣という働き方を選んできた。それは、一定期間働いたら大好きな旅行に出かけるといったライフスタイルを実践するため。「正社員だと意に沿わないこともやらないといけない」とAさんは話す。
Aさんのように「好きな勤務地、勤務期間、勤務時間を選べる」ことを理由に派遣という働き方を選んだ人は、厚労省のアンケート調査によると33.6%に及ぶ。少ない割合ではない。
ただし、それを上回るのは、「正社員として働きたいが職が見つからなかった」の38.8%だ。Aさんの周囲にも正社員の仕事が見つからず、派遣で働いているという人が多いという。
「若い人たちの中にはとても優秀で正社員希望の人もいます。そうした派遣社員に正社員化をちらつかせて、トライアル期間と称してあいまいな条件のまま働かせたりする職場も見てきました」とAさんは話す。前出の調査では、「今後は正社員として働きたい」と答えた派遣労働者は6割を超える。「私の周囲でも新しい仕事を見つけるよりも長く働きたいと考えている人が多い」とAさんは話す。
一方、Aさんのように派遣という働き方を自ら選んできたとしても、雇用に対する不安は強い。「年をとるにつれて派遣先を見つけるのが難しくなります。若い人の方が企業にとって使いやすいので、能力があっても年齢ではねられてしまう」とAさんは打ち明ける。そのため同年代の派遣社員と会話すると、将来への不安がたびたび持ち上がる。「男性でも正社員じゃないと家族を養えないし、未婚女性やシングルマザーは自分の力で生きていかないといけません。仕事を休むと給料や勤怠評価に響きます。倒れたら終わり。体が資本です」
法改悪に反対の声が7割
派遣社員は職場で仕事に対する意見や不安を訴えづらいのも現実だ。「派遣元のフォローで環境はまったく異なる」と前置きした上で、Aさんは職場での体験談を語る。「仕事に関する意見を伝えると、『あいつはうるさいから要注意』『どうにかして辞めさせよう』といって圧力をかけてくる。何かとミスをあら捜しして、それをカウントしては仕事を辞めるように追い込んでいくという職場もありました」。その結果、職場はモノが言えなくなり、事なかれ主義が蔓延。仕事に熱意をもった優秀な人材は次々と転職していった。
労働者派遣法の改悪は、正社員への道を遠ざける懸念をいっそう強めた。日本経済新聞社の今年8月の調査によると、改正案に反対した派遣社員・契約社員は68%。反対の理由を尋ねると(複数回答)、「派遣社員の根本的な地位向上にならない」に次いで「人が変われば会社は同じ業務を派遣社員に任せ続けられ、派遣社員が固定化する」が多かった。
スキルアップしても能力を評価する仕組みがなく、雇用も不安定な中で、多くの派遣社員が将来への不安を抱えている。こうした立場の労働者が増えることは日本社会の活力を奪う。派遣労働者の保護や派遣制度の見直しが必要だ。