改正ワークルールへの対応 職場から改善を派遣労働者の処遇改善に取り組むスタンスを共有することから
意見聴取で反対意見を
-改正労働者派遣法の審議では、39項目もの附帯決議がされました。
附帯決議の内容のいくつかは省令や指針に反映されました。労働組合はこれらの規定を法令順守の大前提に基づいて労使交渉で活用してほしいと思います。
一方で、労働組合にはそれ以上の活動を期待しています。省令などに反映されなかった附帯決議の内容でも、理念的に実現すべき方向性として使用者に訴えてほしいということです。法律を守らせることだけが労働組合の役割ではありません。国会で附帯決議された内容は、与党も含めて決議したものです。現場に反映するようにがんばってほしい。
-期間延長の際に派遣先の過半数労働組合等に対する意見聴取が義務付けられました。
派遣元と有期契約の派遣労働者を受け入れているときに、受け入れ期間制限時(3年)において派遣先企業は、派遣先の過半数労働組合等に意見聴取する義務が課せられました。この規定は、派遣先労働組合からすると組合員ではない派遣労働者の課題にコミットするということです。それは組合員の労働条件に直接影響しない問題に組合の力を割くということであり、さらに言えば、派遣労働者の処遇改善のために団体交渉で譲歩しなければいけない場面も出てくるかもしれないということです。
それでもと、私は言いたいのですが、派遣先労働組合は意見聴取の際に派遣労働者の受け入れ継続に反対意見を述べてほしいと思います。
きれいごとばかりを言うつもりはありません。現場ごとに悩みながらやっていくしかないでしょう。それでも考えてほしいのは、労働組合に求められている社会的責任は何かということです。不安定な派遣労働を増やしてはいけない。安定した直接雇用をどうやって増やすか。こうした社会的な要請に応えるために労働組合は反対意見を表明してほしいと思います。
労働組合はまず、この「建前」を共有できるかが問われると思います。法案審議の段階で野党や労働組合がかなりがんばって、意見聴取における過半数労働組合等の意見の尊重を法律に反映してきました。難しい問題に悩む場面もあるかもしれませんが、この「建前」を大切にする認識が共有されてこそ、情報提供義務などのその他に規定事項が生きてくるはずです。
直接雇用を促進する
-雇用安定措置に関して派遣先労働組合にできることは?
雇用安定措置は派遣元事業者に課せられる義務ですが、派遣先労働組合はこの中にある「派遣先への直接雇用の依頼」をぜひ活用していただきたい。派遣された労働者は、派遣先労働組合にとって同じ職場で働く仲間です。派遣労働者の受け入れ期間制限に達したときに、意見聴取で反対意見を述べるとともに「直接雇用に転換すべき」とする要求をセットで提起してください。また、職場の実態に即した雇用安定化措置を労働協約で定める要求なども有効だと思います。
こうした要求は、私は義務的団体交渉事項になると考えます。法的に専門的なことは相談してほしいと思いますが、まずは派遣先労働組合が同じ職場で働く派遣労働者を仲間として捉え、その処遇改善のために活動できるかどうかがポイントです。受け入れている派遣労働者を直接雇用に切り替えることは組合員を増やすことにつながり、労働組合の活動強化をもたらします。派遣先労働組合はこうした視点で直接雇用を促す取り組みに力を入れてほしいと思います。
現場レベルではたしかにギャップがあるかもしれません。「派遣労働者は仕事に対する熱意がなくて、すぐに辞めてしまう」という不満を聞くこともあります。けれども、いつ雇い止めされるかもわからず、熱意に応えるような人事管理もされていない派遣労働者に対して過剰な犠牲の精神を求めること自体、間違っています。
従業員に高度なスキルを身につけさせたい、モチベーションを高めたいというならば、企業は直接雇用に切り替えるべきではないでしょうか。派遣労働者を次々と入れ替えるようなやり方は、採用コストや教育コストなどの面でも非効率的ですし、派遣労働は複雑な法制度を使いこなすという手続き面での煩雑さもあります。質の高い直接雇用をめざすことは企業にとってもメリットがあると言えるはずです。
職場から「均等待遇」を
-均等待遇をはじめとした労働環境改善で、派遣先労働組合は何ができるでしょうか。
先の通常国会で成立した「同一労働・同一賃金」推進法案は、理念法であり実効性が担保されていません。
一方で、派遣法においても「均衡待遇」に関して見直しが行われた箇所があります。一つは、派遣先労働者に関する賃金などの情報提供等の「努力義務」が、「配慮義務」に変わったことです。これは派遣先事業主が派遣元事業主に対して、派遣先労働者の賃金などに関する情報を提供するものです。ここでも大切なのは、派遣先労働組合が、派遣労働者の処遇を改善する立場に立てるかどうかです。その認識があってこそ、派遣先労働組合はこの規定を生かすことができます。
また、派遣先労働者の業務に関連した教育訓練を実施する際に派遣労働者にも実施するようにとした配慮義務も規定されました。この規定は、派遣労働者の直接雇用を促進するのに活用できそうです。同じ職場で働き、同じ教育訓練を受けていることで、直接雇用を要求しやすくなるからです。この点に関しても、派遣先労働組合が派遣労働者の処遇改善に取り組むスタンスに立てるかどうかが問われることになります。
同様に福利厚生施設の利用機会に関する配慮義務も規定されています。労働相談を受けていると、派遣労働者から「職場のネットワークに入れてもらえない」「派遣労働者だけ仲間外れにさせられる」といった不満をよく聞きます。派遣労働者の尊厳を傷つけておいて、会社にもっと犠牲を払えと要求することは不条理です。教育訓練や福利厚生など、職場レベルで一つずつ活動を実践することでしか派遣労働者の信頼は回復していかないでしょう。
「偽装請負」に注意を
-10月1日から「労働契約申し込みみなし制度」が施行されました。
「労働契約申し込みみなし制度」の利用を避けるために安倍政権は強引な手法で派遣法を改悪して9月30日に施行させました。これにより期間制限違反に基づく「みなし制度」は、骨抜きにされてしまいました。
しかし、労働契約申し込みみなし制度の対象となる違法派遣はあります。この中で現実的に対象数が多そうなのが「偽装請負」です。とりわけ情報労連の皆さんでは、IT関連産業での注意が必要でしょう。偽装請負かどうかの判断は難しい部分はありますが、もう一度問題提起していく必要があると考えています。
この点でも、労働組合は直接雇用をどこまで促進できるかが問われるはずです。恒常的にある業務について、どこまで請負を利用する必要があるのか。会社として長期的な効率を下げているのではないかという問題提起もできるはずです。請負の利用は、請負元企業の社員が請負先企業の社員に直接指示できないなどの法的な煩わしさがあります。労働組合がこうした視点を提起してほしいと思います。
-最後にメッセージを。
附帯決議では直接雇用が労働政策上の原則であることが高らかにうたわれています。間接雇用である派遣労働について何が問題か、あらためて労働組合でも職場単位で向き合っていく必要があると思います。離職率の高さで悩んでいるような企業は派遣労働を利用すべきではないでしょう。雇い止めの不安を抱え、懸命に働いてもそれに応えてくれるような意味あるスキルアップの仕組みがない状況では、派遣労働者がモチベーションを維持できないのも仕方ありません。法的な煩雑さも含めて派遣労働の利用には非効率な面があります。
労働組合はこうした問題を提起しながら、質の高い直接雇用を追求してほしいと思います。それは企業にとってもメリットのあることなのです。