採用のミスマッチを考える
「そんなことをしたら、ウチを受ける学生はゼロになりますよ!」もう15年くらい前だろうか。中堅・中小企業の採用担当者向けのノウハウセミナーで、参加者の一人がこう叫んだ。入社後のミスマッチを解消するためにも、求職者の納得感を高めるためにも、労働環境の情報を積極的に開示しようと提案したところ、参加していた、エステサロンの採用担当者がこう反論したのだった。「とにかく、美にかかわれるというポジティブなイメージを持ってもらう」「具体的な説明をすると人が来なくなる」と、平然と話す様子にゾッとした。一般論として、エステサロンは離職率が高いといわれている。ただ、このような採用活動もその原因ではないか。
採用のミスマッチを解消するための手法として、リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)というものがある。仕事のつらい部分や、職場環境において必ずしも十分ではあるとは言えない点について、開示することによって、期待値を調整するとともに、ミスマッチを解消するというものである。「ジョブ」と言いつつも、仕事の中身だけではなく、職場の実態を伝えるのが良くも悪くも日本流ではある。例えば、「入社後3年間は全員が店舗に配属され販売職を経験する」「全国に転勤があり得る」「週休2日制だが、土日のシフトがあり得る」などというマイナス情報もインプットしておくことで、入社してからの「話が違う」という状態を避ける。求人広告で伝えるだけでなく、企業説明会や面接を通じて先輩社員から伝えたりする。積極的な情報開示により、選考途中で辞退をする求職者もいるかもしれない。ただ、お互いにマッチしないことを確認し合うことは、早期離職対策としても有効である。
徹底した情報開示のほか、丁寧な選考も採用のミスマッチ解消につながることがある。入社意欲の高い求職者を不採用にすることに嫌悪感を抱く人もいることだろう。ただ、互いにハッピーになるためには、そのような決断もあり得る。選考の際に逆質問の場をたっぷりと設けることもミスマッチ解消につながる。なお、ここでの質問の傾向などから、採用する側はその求職者を深く理解することができる。
ミスマッチ解消のためにAIを利活用する動きもある。書類選考、適性検査、面接などですでに活用されている。AIに選考を任せるのかという批判もある一方で、特定の人の主観に頼らず採用ができる、採用担当者の働き方改革につながるという見方もある。
ややちゃぶ台をひっくり返すのだが、ミスマッチ解消を、求職者、企業側の双方が互いに見極められたかどうかという話に矮小化してはいけないと私は考える。情報には非対称性がある。求職者も企業も進化、変化する。互いに入社前に見落としがあったとしても、乗り越えられるような、さまざまな人が活躍できるような組織になるにはどうすればいいか。入社後のフォローをどうするか。その視点も大切ではないか。
面接は裁判ではない。互いに理解を深める場である。人手・人材不足が深刻化する中、効率重視の採用も、雑な採用もそれぞれ目立つ。だましてでも採用しようとする企業も散見される。互いに理解を深める努力をサボってはいけない。