常見陽平のはたらく道2024.08-09

生涯現役時代の
「引き際」を考える

2024/08/19
少子高齢化に伴って年をとっても働き続ける人が増えている。そんな時代にあって「引き際」とはいつなのだろうか。

「普通の女の子に戻りたい」キャンディーズが解散するときのコメントだ。この言葉は伝説となっており、いまだに引用される。当時、まだ生まれていなかった人も、物心ついていなかった人も、この言葉だけは知っている人もいることだろう。私もその一人だ。

以前は伝説をつくり、あっという間に引退したスポーツ選手や芸能人などもいた。一方、最近では長く続ける人も増えてきた。ちょうど25年前に矢沢永吉が50歳となった。その時、「矢沢、続くまで続けます」と宣言した。彼は今年、75歳となる。今年も全国ツアーが待っている。

ロックバンド、筋肉少女帯のボーカリストの大槻ケンヂは「ロックバンドの解散とプロレスラーの引退だけは信用してはいけない」と語った。実際、彼も一度脱退した筋肉少女帯に復帰している。プロレスラーは何度も復帰をする。引退と復帰を繰り返している大仁田厚は「信じる方が、ダメなんじゃ」とまで言い放っている。

音楽の世界では「これが最後かも商法」というものがある。ベテランアーティストが来日するたびに、もうこれが最後かもと思い、思わず行ってしまうというものだ。70代のアーティストのシャウトに熱狂する中高年の姿もまた圧巻である。

さて、私たちはいつまで働くのだろう。いつまで今の仕事をするのだろう。長く活動するアーティスト同様に、自分で終わりを設定しなければならない時代となりつつある。人生100年時代が叫ばれている。一生働き続け、学び続ける時代でもある。60歳で定年を迎えても65歳までは確実に、さらに70歳まで、それ以降も働くことができる可能性は法制面でも、企業や自治体の取り組みにおいても広がっている。人手・人材は不足しており、ポジションや賃金にこだわらなければ仕事はある。ジョブ型雇用社会とは、仕事に値札がつき、ポストする社会だ。企業側の都合で地球上ならどこにでも転勤することも、担当業務が変更になることもない。その分、この仕事をいつまで続けるかということを自分で意思決定しなくてはならない。プラスに捉えると、自分のやりたいことだけを続けるという選択肢もあり得る。キャリア形成の個人化が進んでいる。これもプラスのようで、自分で引き際を考えなくてはならない。

もっとも、引き際というものは難しい。仕事はやってみると楽しいもので、やめる理由が見当たらない。今どきの中高年は健康で若々しい。まだまだやりたいという想いもあるし、後進が育っていない、任せられないという問題もある。カリスマ創業者が後継者に道を譲ったと思いきや、また経営者に復帰したという例は枚挙にいとまがない。ただ、これは私たちも同じではないか。後継者を育てなくてはならないし、うまく席を譲らなくてはならない。

日本の大企業でも変化は起こっている。20代、30代の管理職が増えている。30代、40代の取締役、執行役員を増やす動きもある。一方、中高年の社員は若い経営陣、管理職を番頭として支える。技能、知識、人脈、文化の継承、伝承を行う場を設ける動きもある。

さて、私たちはどのように生きるか。そんなことを考える暇もないくらいに忙しい日々が続く。長く働く時代になっているがゆえに、明日、仕事をやめても後悔しないように目の前のことに取り組むこと、世代交代をどうするかを考えること、これが大切だ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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